これまでかなり、この店にはムカっ腹立っていたのである。以前訪れた際、そんなに遅い時間でもないし席は開いてるのに、「ああ、もう今日はあきまへんわ」 とニベもなく断られた。初回ではなく二度目。島之内の東のどんツキ、すぐ松屋町筋という場所まで知人と歩いていき、木戸を突かれては腹も立つ。主人の中村氏は落語会なども主催し、大阪の料理人たちのまんでい会の世話人などもする世話好きではなるのだが、あの強面である。べんちゃらを言う人でもない。つっけんどんにとられる場合も多々あるだろう。しかし、断りよう一つで店の印象はガラッと違ってしまう。今回、主人に会った際、同い年と知った心安さから、まずこの時の文句から入った。
料理は過去の印象より、一層グレードが上がっていた。一介の居酒屋メニューではなく割烹の創作料理のようだ。しかも原材料にかけるお金は半端ではない。黒門市場で一二を争う店から、割烹を上回る素材を買ってくる。日本一の食材を使う店として注目を集め、全国からここのカウンター目指して客がやってくる。現に隣り合ったのは金沢の料理屋「銭屋」の主人であった。
料理はお任せにした。「造り」は鮪とろ・鯛・いか・たこ・鰯・平目・白海老。「冬瓜と焼き鮎のサラダ仕立て」は日本料理屋のコースに挟まってもおかしくない。定番メニュー「鰯の団子岩石揚げ」、「魚ホルモンの煮付け」。そしてこれがたまらんかった、「鯛のへぎ造り、コノワタ和え」鯛は淡白なだけに変幻自在、トロッとしたなまこの腸の塩辛に包まれて、今、海から直接口に飛び込んだようである。こりゃたまらんわぁ~これは酒だ。日本酒で迎撃するしかないだろう。
定番の「ごろいか」は能登産、小ぶりのワタ入りイカの干物。さっと炙ってある。「比内鳥のつくね焼き」は黄身がドロリ。「もぎなすのずんだ揚げ」ずんだとは仙台でいうところのずんだ餅と一緒、枝豆のペーストを茄子にかまして天麩羅にしてある。「夏野菜のあんかけ」トマト、オクラ、アサカゼキュウリ、アピオス、ジャガイモをさっと素揚げして酸味のある餡がかかり、山椒をたっぷりかけてある。「比内鳥の卵・醤油漬け」は玉紐状態の卵を醤油に漬けた珍品。王道「鯛の骨蒸」は、鯛もさることながら添えられた豆腐が味が沁み、なんじゃこれの美味さ。
画像の鯛の頬がこけているのは、忘れて食ってしまったので。こんな怪体な鯛なんかお使いやございませぬ。
酒の銘柄は一杯ずつ替えて5合ほど、見事に忘れております。
かなり、性根の入った居酒屋である。行く方もフンドシ締め直して行かないかん店。そういう意味では和み系ではなく、挑み系。いや、常連になったならば、ここでも十分和めるのだらうけど。
『ながほり』 中央区島之内2-6-5
でも居酒屋というには敷居が高い感じがして二の足を踏んでいました。
確か大将の奥様が震災で亡くなったんですよね。テレビのドキュメンタリーでもやっていました。
悲しみと戦いながら美味いものを提供するために頑張っておられるお姿が印象的でした。
あまから手帖次号「上等居酒屋特集」に彼のインタビューが掲載されるようです。ご一読下さい。
奥方は震災ではなく、福知山線脱線事故でした。あのNHKのドキュメンタリーは胸に滲みるものでした。
それからは、奥さんのお通夜でお会いしただけ。
もちろん以前行った時は、お手ごろ価格のメニューのみ食べました。
ちなみに今回のこの料理で、いかほどだったのでしょうか?
5,6,7百円代が一番多いぐらい。
酒は磯自慢、九平次、松の司、奥播磨など。
二人で遠慮せずやって、18000ぐらいでした。もちろんお任せで。