山形県鶴岡市 庄内ベジ・イタリアン『アル・ケッチャーノ』
予約の取れないレストラン、なんとか夜の席を用意してもらえた。
庄内浜では旬のワラサ(ブリの若いもの)。
同じ海水から満月の夜に汲んだ塩、オリーブ油。
イシナギを寝かせ、乳酸発酵させて。上に玉ネギスライス。
初めて聞いた魚。スズキ科で、根魚としてはクエをはるかにしのぐ我が国の釣魚の最大級で、体長は1m数10㎝に達し、体重は100㎏を軽くオーバーする大物も多い。その証拠がこちら…
戯れにかぶってみたシェフの奥田政行氏の写真。
もちろん頭はグシャグシャに魚臭くなったそう。子供かっ!
ヒラメのエンガワ。中に庄内の野菜がテリーヌ風にギッシリ並ぶ。
ニンジン、インゲン、ミズ、パプリカ、など。シブレットを散らす。
ヒラメにはほんの少し塩を当てただけ。ヒラメをドレッシング代わりに野菜と共に食べさせる。魚をドレッシング・・・考えたことなかった。
最上川から サクラマスのルイベ・カリカリ焼き。この時期、最上川はまだ解禁されていないので北海道かも知れぬ。月山のカタバミ。焦がした皮めのカリッが楽しい。
トマトの冷たいパスタ、世界一新鮮なリコッタチーズと。
トマトは地元、井上農園。チーズは夕方絞ったもの。皿に散らした塩をつけて食べるとカマンベールに変わるという。そういわれればって感じ。トマトは明らかに旨み。う~ん、絶句の味わい!
鳥海山の岩ガキ、オクラのソース。
万年雪を頂く鳥海山は石の山といわれ、ミネラル分豊富な伏流水が下の海中に生息する牡蛎を美味しく太らせるのだそう。カキのトロリとソースのトロリがハーモニー。
アカエビ(甘エビ)のリゾット、卵。
エビの香りを移したスープで炊いてある。ご飯を一口挟んで流れに変化をもたせる。
ヤナギガレイとアスパラ。
実はカレイは添え物でアスパラが主役。カレイはわざとパサつかせてコクを出し、ささくれた断面にオリーブ油が入るように工夫してある。
さて、これが庄内の南に位置する出羽三山の一つ、霊峰月山。
ここにも万年雪があり、今時分が山菜のいい頃なのだ。
ここの海抜1500mの山に自生するのが・・・
月山筍。香りと歯応えのネマガリダケだ。月山のものは薄いピンク色が特徴。地元ではこれを姿のまま味噌汁に入れるという。
それが奥田シェフの手に掛かると・・・
生ハムを巻いてフリットに。今では他のレストランでも真似されるヒット作。山精気あふれる香りが出てくる。下に山形新聞が敷いてあるのもサービス。地元の人にはイタリアの新聞らしい。
鼠ヶ崎で獲れる鯛のアクアテルメ。シェフ命名、温泉料理ってとこ。
68度で15分煮る。そのスープはコーヒーフィルターで漉す。硬度は大阪の6倍らしい。水のいい庄内の水の料理。皮目にオリーブのペースト。
フォアグラとサクランボ。サクランボのエキスを吸わせたエシャロットと。サクランボはあと少しで出回り期を迎える。今年も佐藤錦が盗まれるニュースがあったが、どうかご無事に。
仔羊の生ハムの香りだけ映したクリームソース。岩塩の塩ゼリー。
塩ゼリーは岩塩・水・ゼラチンで作る。羽黒町丸山さんの育てた羊。
いろんな食感を持ってきたり、似た香りのものを合わせることで人間はそれをコクと感じるという。奥田さん、料理を論理的に組み立てる人だ。
味の構成要素を考えると、5対4対1のキャンディーズの法則に落ち着くという。ミキ5:ラン4:スー1というバランスにすることで、一つにまとまりながらも、各々の声がはっきり聞き分けられるという。そういえばコーラスグループでもアンドリュースシスターズなどは1:1:1だから音の塊りとしては同調しているが、個々の魅力は感じられない。そこへ行くとキャンディーズは完全に同調させていない。しかしこの数字、デビューシングル「あなたに夢中」には当てはまらず、完全にそうとも言い切れないが、言い切ってしまうところが常人ではない。
「レコード大賞とる曲っていうのはイントロは大体が単奏から入ります、そして徐々に音を分厚く重ねてゆく。これがヒット曲のパターンです」とも。それをコース料理にも当てはめている。つまりは序破急ということか・・・。このたとえが奥田さんらしい。香りや味に鋭いのは当たり前だが、音楽的なものにインスパイヤーされる人だというのが愉快。
苺(おとめごころ)、玉子のバニラアイス、バルサミコ。
奥田さんの少年のようなひたむきさ、野山を駆け回り、野草を摘むガキのようでいて、同時にアーティストでもあるんだな。自分の腕を前面に出すのではなくて、心底惚れこんだ庄内の食材の方を前に出すようになったという。つまりは庄内ヴェジタブル・フィルハーモニーのコンダクターなのだ。
ズコット。各テーブルとも、お客に合わせて出す料理を変えてくる。
量や味付けも人を見て変える。当たり前かもしれないが、そこまで変幻自在な料理人がどれほどいるだろうか。テーブルごとにテーマがあるのだが、うちのテーブルは「食材で旅させる」庄内づくしを味わうことができた。食事中は感心しきりで、ついて行くのが精一杯。あとで考えると、これは贅沢なことだ。
今、もっとも注目される、料理人がこぞって来たがっているレストラン。
それが庄内の「アル・ケッチャーノ」。
どんな意味かと思ってたら、「ああ、こんなものがあったんだ・・・ある、けっちゃのぉ~」という山形弁だった。
だが、まだ終わらないのであった・・・
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