「入所時より出来るようになっているのですから、もっと自信を持ってください」
あたしは小さく頷いた。
この日の記録は ほぼ、白紙だった。
いつものように、一週間後、面談室へ入る。
そこには千夏、と名乗る女性がいた。
「地理に詳しいそうですね。私は世界中を旅したことがあります。学生の貧乏旅行でしたが・・・・」
あたしも!
思わず心の中で叫んだ。
勿論、身体が弱いので何処にも行ったことはない。両親がまだ元気だった頃、国内旅行を一度・・・・でも、旅行めぐりは本で出来る。本は一瞬で あたしの心ごと知らない世界へ連れて行ってくれる。外国も宇宙も何処へでも・・・・
「千夏さんも旅行が好きですか?」
あたしは思わず訊いていた。
千夏さんは、ぱっと明るい表情になった。
ここからあたしは、知らない内にお喋りしていた。
色々と・・・
行ったことはないけれど、あれは確か、本を読んだ晩だった。
夢で見たのだ。
スペースシャトルに あたしも乗ったときのこと!
「宇宙へ行ったの? そういえば、シャトル打ち上げ、延期の末、やっと打ち上げ成功してよかったね。私も宇宙から地球を眺めてみたいなぁ」
あたしは嬉しくなった。
夢と希望と あたしにとっては夢でみたことも あたしの世界で、本当のことなんだけど・・・本当なの?って疑うような表情が読み取れたら・・・・
あたしは固く心を閉ざす。
今日の記録には
数行しか書かれていなかった。
あんなにたくさん喋ったのに。
どうしてなのか、あたしには分からないまま、面談室を出た。
窓から見える虹!
大きくて、天まで届いている!
それはまるで・・・・あたしを宇宙へ誘っているみたい。
でも知っている。
虹は近付くと消えてしまうってこと。
あたし、まともでしょう?
狂ってなんかいない。
ただ、たくさんの人たちから奇妙なものをみるような目で見つめられると、とても居心地が悪くなるだけ。
でも、虹を見ていると、段々落ち着いてきた。
今夜はきっと虹を渡って天国でパパママに会える夢を見るんだ・・・。
あたしの話、いっぱい聞いてね!
おやすみなさい。
おわり
すべてフィクションです!
すず