(私…もしかしたら、日本の地を踏むことなく、死んじゃうんだろうか・・・)
ホームステイ先のベットに力なく横たわり、ぼーっと、そんなことを思った日々がある。
何を食べても吐いてしまう、身体に力が入らない。
初受診から二週間。 仕事へも何とか行くものの、「顔色が悪い。休んだ方がいい」と、途中で退社。一体、どうしてしまったんだろう・・・ということがあった。
総合病院を紹介され、血液検査の結果を待っている間、仕事も休み、大学へも行けなくなり、「胃がんじゃないよね?」と職場の同僚からお見舞いの電話が入り、やっとはうように電話口へ向かう・・・。
普段は海外生活は意気揚々としていて、忙しさも楽しく、辛さも又、楽しいものだ。
だって、自ら望んで現地へ飛びこむのだから。
だけど・・・だけどね。
原因不明の吐き気に襲われたり、身体がだるくなったり。健康でなくなったら、急に祖国が恋しくなる。母に甘えていた頃を思い出す。日本で死にたい、なんてことをちらっと思ったりもする。
そして、こうも思った。
(今、大学へ行くために電車に乗っても 吐き気に襲われて、ひと駅で降りてしまうような状態。 とっても飛行機に10時間以上、座ってるなんて、無理! だけど もし元気になれたら、ケチらずに、シドニータワーで食事するんだ! それに、旅行だって行くぞー! シドニーに4年も住んでいながら、知っている土地は台湾の友達と行った一泊二日のキャンベラだけなんて・・・。 )
そして、私は再び元気になった。
優先順位を考えなさい。仕事を掛け持ちするのはやめなさい。 オーストラリア人でさえ、大学で学ぶことは、フルタイムで働くことよりも忙しいくらいなのに、あなた、一体、いつ、勉強するの!?
これが女医のアドバイスだった。
学期末まで残された時間は3週間。
言われた通りにすると、嘘のように気分がすっきりした。
仕事をやめ、勉強に専念することにし、教授にも事情を話し、出席率はギリギリだけど、とにかくプレゼンテーションと3つのエッセイは提出しなさい、と最後は認めてくれた。 「来年、再受講した方がいい」と言われたにも拘らず・・・だ。
まず、シーツを洗濯し、下着類を洗った。 部屋の上には、教材や資料を並べた。
すっきりした。
資料を読む。 図書館へいく。 また、参考文献を探す、コピーを取る、読む、メモを取る、とにかく書きまくる・・・こうして奇跡のようにすべてこなした。
合格☆
元気になったら、絶対に旅行するんだ! しかも一人旅! 心に決めていた。
実際、決めていた通りに実行した。
行き先は、メルボルン。
しかも13時間の長距離バスの旅!
吐き気に襲われる病気だったんじゃないの?
無謀に思えた。
でも、すっかり元気になったことを自分自身に言い聞かせたかった。
旅費は往復、わずか50ドルという安さ!
「飛行機にしたらいいのに。 女の子が一人で長距離バスだなんて、無謀じゃないか? あらかじめ予約するから、全席指定だろうに。 もし、隣に大柄なオージーが座ったら、目的地に着くまで、身動きできないよ!」
元職場の人には、こんな風に脅された。
それでも 数日後の夕刻。
怖いもの知らずで、トイレもない長距離バスに飛び乗った自分がいた。
生まれて初めての、しかも異国の地、オーストラリアで病み上がりに臨む、長距離バスの旅のはじまりだった・・・。
(この続きは、気が向いたら、いつか、お話するとしましょう~)
昨日、英会話教室へ行くまでの時間、レッスン準備を終え、図書館で借りた本を取りだした。
「水曜日の神様」
角田光代:著 2年前に出版された 比較的、最近書かれた旅のエッセイだ。
彼女は、フリーターをしながら貧乏旅行をし、旅行記をブログに書き、面白さが認められ、新人賞を取り、作家デビューしたことで有名だが、これまで彼女の肝心のエッセイは読んだことがなかった。 まだ、ドラマ化される前に読んだ小説、「八日目の蝉」で衝撃を受け、実体験とだぶる部分が多く、それだけに感想をブログに書くなんてことが、帰って出来なかった。
(期限付きで、いつか、別れがくる、だから今、一瞬を精いっぱい、この子の為に・・・といった子育ての心理的に)
蝉の抜け殻を娘が見つける場面。
これは甥っ子とかぶる。全く同じシーンだからだ。実体験と。
そしていつか小説のモチーフにしようと決めていた。
同じだ・・・角田光代さんって、どんな人生を送ってきたのだろう。
蝉のシーンを書くことはもう許されないが、いつか、あのときの体験をもとにした小説を書くことになるだろう・・・いつか・・・。
エッセイに話を戻す。
「水曜日の神様」の最初のシーンは、タイで生死をさまよった時の体験から始まる。
自分のケースと重なった。 私の場合、根を降ろして生活していたので、ホストファミリーや友人達が居た。
全く見知らぬ土地で、病に倒れた訳ではなかった。 医者を呼んでくれたのも、ホストファミリーだったし、食事も部屋まで運んでくれた。
それでも、(外国で死ぬかもしれない。日本で死にたい・・・)なんて、思ったのだ。
自家発電のタイの島で、英語も喋れない現地の医者に、 「ユー、マラリア!」と陽気に叫ばれ、どれだけ心細かったことだろう。
バックパックを背負っての貧乏旅行。
私も6人部屋のドミトリーに宿泊したり、このエッセイの中で、彼女も乗ったというオーストラリアの長距離バスで格安に旅行した。
自分の体験と重ね合わせて一気に読んだことは言うまでもない。
だから今夜、忘れかけていた事まで、鮮明に思いだす。
角田光代 著 「水曜日の神様」
とってもお薦めのエッセイ!!
真夏の夜。 本を開けば、自宅で海外へ心は跳んで行く。
角田光代さんと共に貧乏旅行をしているような気になる。
貧乏旅行の筈なのに、心はとっても豊かな旅を楽しめるから不思議。
貴方も 良き心の旅を~
すず