塩野七生ルネサンス著作集(3)
塩野さんが30歳の時の長編作品です。「ルネサンスの女たち」を出版した後、今度は新潮社の若い編集者から、「ルネサンスの女たち、読みました。他の女性たちを書いてみませんか?」と声を掛けられたそうです。 ただ、他の女性となると、準...となるため、いい男を書くのはどうか?と塩野さんが提案。選ばれたのが、チェーザレ・ボルジア。
ただ...日本では、この名は余り知られていない。そこで、人物名だけのタイトルではなく、かと言って、副題でもなく、「あるいは優雅なる冷酷」と付け足したそう。 これは読者としては本を選ぶ上で、成功だな~と。面白そうだなと感じたのは、あるいは~以降があったからでした。塩野さんの著書となれば、今では、何でも読みたいと思う私ではありますが。
これ以降、感想~☆彡
これまでにも、何度か彼について書いた通り、父はロドリーゴ・ボルジア のちの、法王アレッサンドロ六世。妹に、ルクレツィア。弟は二人いて、ホフレとホアン(2代ガンディア公)腹違いで、1歳違いの兄、ペドロがいたが、チェーザレによって、殺されている。父の寵愛を受けていた、この長男の死は、父である法王を悲しませる。徹底的に怪しいと思われた人物たちを調べ上げているが、途中で、捜査を打ち切った。 理由は、言わずもがなチェーザレが関わっていたと知ってしまったから。
彼に関する残忍な行為は数限りなくあり、それは、スカートの裾の、あの妹であるルクレツィアも同じ。フィレンツェの外交官として、交渉に臨んだマキアヴェッリは冷酷なチェーザレの中に、「君主をみた」のだった。引退後、『君主論』が生まれる。
以下、私が思う、チェーザレが成し遂げた偉業?をいくつか紹介してみると、
まず、徴兵制度を始めたこと。 これはギリシアの都市国家でも無かった。ギリシアでは、税金を納める代わりに身体で参加する、という形であり、後にそれが職業となり... イタリアの都市国家でも、軍に参加する兵は、主にお金で雇われた人たちだった。 それを義務に変えた点が新しい。国のため、となれば、士気もあがっただろう。最初はルイ十二世に貸してもらった軍や、金で雇われた隊長率いる軍に頼っていたらしい。唯一の例外が、ヴェネツィア共和国の海軍で、自国の市民しか使っていない。
次に、パトロンと芸術家の関係ではなく、同志としてレオナルド ダヴィンチを迎えたこと。お抱えではなく。50代になっていたフィレンツェ人のレオナルドダヴィンチは、祖国を捨て、ミラノの公爵イル・モーロの許へ。没滅と共に、ヴェネツィア共和国へ。そして自分の国を始めから作らねばならないチェーザレの許で、都市計画に取り掛かる。城塞や城壁の完備、町の整備、警備、道路の建設などの国土計画。まるで古代ローマだな...。芸術家とばかり思っていたレオナルド・ダヴィンチの違う顔をチェーザレを通じて知った次第。
最後に、イタリア統一。ギリシア同様、ルネサンス時代のイタリア半島には都市国家はいくつもあったが、イタリアはなかった。初めてイタリア統一という偉業を成し遂げようとした男がチェーザレ・ボルジアだった。ただ、それは彼の野望によって。マキアヴェッリが彼に「君主」を見出したのは、塩野さん曰く、
「マキアヴェッリの理想は、チェーザレの野望と一致したのである。人々がやたらと口にする使命感を、人間の本性に向けられた鋭い現実的直視から信じなかったマキアヴェッリは、使命感よりもいっそう信じられるものとして、人間の野望を信じたのである」 (215ページ8~12行から抜粋)
人間観察が鋭いマキアヴェッリらしいものの、ちょっと虚しい気も... そして、ここまで書いてきて、ふと思ったこと。戦国時代の武将、織田信長と共通点が多い気が。目的を果たす為なら肉親をも殺めたこと。食われる前に食う。妹や弟を利用した政略結婚。残虐行為で人々から恐れられたこと。楽市楽座など新しいことを始めたこと。そして恐らく野望による天下統一。夢半ばで倒れたこと...
どう思われますか?