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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
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# 357 今だから話せる ⑦

2015年01月14日 | 1983 年 



一度でも阪神タイガースに籍を置いた者の一人として何時も寂しく思うのは何故、阪神出身者に阪神以外の他球団から監督やコーチの就任要請が無いのだろうかという事。田宮謙二郎氏が昭和47年から2年間、東映フライヤーズの監督を務めたのを最後に阪神出身者は他球団の監督に就いていない。田宮氏以前には松木謙治郎氏が大映と東映の監督、藤村富美男氏も国鉄と東映でコーチ職を務めており、伝統球団の人材を他球団が放って置く事はなかった。ところが現在はどうであろう。阪神出身者で他球団のコーチに就いているのは藤井栄治(近鉄)只一人だ。一方で巨人出身者は広岡監督(西武)・近藤監督(中日)・森コーチ(西武)・与那嶺コーチ(西武)・黒江コーチ(中日)・相羽コーチ(阪神)・千田コーチ(ロッテ)・福田コーチ(南海)・内藤二軍監督(ヤクルト)とセパを問わず引く手あまた。嘗ての三原監督(西鉄)や水原監督(東映・中日)など人材豊富。

どうしてこんな状況に陥ってしまったのか阪神関係者は考えてみる必要があるのではないか。現在の安藤監督も阪神以外の球団に籍を置いた経験が無い。最近の歴代監督を見ても金田正泰、村山実、吉田義男とみんな阪神生まれの阪神育ちで周りも身内で固めた。確かに巨人の監督も生え抜きが原則だが長嶋監督は近鉄出身の関根潤三氏をヘッドコーチに、親会社がライバルである中日出身の杉下茂氏を投手コーチに登用した。また現在の藤田監督は大洋でコーチを経験している。セパ2リーグ分裂後の初優勝を遂げた昭和37年のチームを率いたのが巨人出身の藤本定義監督と青田昇ヘッドコーチだったのは何とも皮肉な話だ。いきなり結論めいてしまうがこうした状況の原因は球団内に巣喰ってしまった「人材育成を放棄し成績が悪いとポイっと監督の首を斬り、他球団出身の有能な人材を探す苦労もせず監督やコーチに安易に阪神出身者を据える」という愚行を繰り返して来た球団フロントのお手軽な組閣ぶりに行き着くと考える。

阪神から追い出されて苦労を重ねてもプロ野球界を生き抜いた逞しい選手もいる。現役では救援投手という新境地を開拓した江夏や西武が新球団を設立した際に実力ではなく人気を狙って獲得したと揶揄されながらも今やすっかり「ミスターライオンズ」になった田淵など嘗ては阪神の財産だった男達が他球団で生き生きと躍動している姿を見る度に一抹の寂しさを感じざるを得ない。私は縁あって3球団の球団フロントを務めたが新監督を選考する際に豊富なキャリアを持つ数多い解説者の中から如何に右顧左眄せず忌憚なく率直に嘗ての所属球団を批評しているかを重視していたのを思い出す。そこから「なぜ阪神出身者に他球団から監督やコーチの要請が無い」のかという疑問に対する一つの解答を見つけたような気がした。

阪神は関西地区では絶大な人気を誇り現役時代に実績を残し名を上げた人は地元のテレビ局や新聞社の解説者としての道が開かれている訳だが、その際に阪神球団からマスコミ各社に働きかけて就職を依頼している。いわば阪神球団子飼いの解説者だ。この事が解説者になった時に遠慮会釈ない阪神批判が出来なくなり、ついつい球団寄りの立場を取ってしまう遠因になるのではないか。「アッ、この人は自分に声がかかるのを待っているな」と思える解説を耳にする事がシーズンも深まり秋風が漂う季節になると多々ある。私の思い過ごしなら幸いだが球団だけでなく、こういう阪神出身者もまた " ぬるま湯 " にどっぷりつかっているような気がしてならない。当り障りがなく無難な解説しか出来ない者を監督やコーチに招聘しようとする球団はそう多くは有るまい。

江夏や田淵の様なチームの顔とも言える主力選手であっても球団に批判的な言動が目に余ると容赦なく放出されてしまう。阪神から追い出されたら引退後の職探しに苦労するから球団フロントの顔色を伺うように自然となってしまう。球団としては好都合だ。幸いな事にチームが下位に低迷しても観客動員はそこそこ入っている。優勝争いをしなくても球団経営は潤っているから何もそう目くじらを立てなくても…などと悠長に構えているとファンからしっぺ返しを喰らう日が来るかもしれない。 " 伝統を誇る阪神タイガース " を標榜するならせめて5年に一度くらいは優勝するチームでなければならないと思う。その為にはもっとシビアであって欲しい。シビアな環境で鍛えられた人材には外部から要請の手が伸びる。選手も球団幹部も今こそ真剣に考える時だ。

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