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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 466 K K コンビ

2017年02月15日 | 1985 年 



東京・大手町の巨人軍球団事務所に一枚の辞令が張り出されたのは1月の末。渉外担当部員として「中村和久」という名前が記されていた。球団の人事とすれば取るに足らない話だが中村なる人物の経歴を調べると採用した巨人軍の真意が浮かび上がってくる。中村氏は倒産したリッカーミシンの野球部の前監督だがポイントは出身の名古屋商科大学にある。PL学園の中村監督と同大学野球部で同じ釜の飯を喰った仲間で中村監督がキャプテンだった時の1年後輩が中村氏で可愛がられた。偶然にも同じ中村姓とあって当時から太いパイプで繋がっていたのだ。その中村氏を採用した巨人軍の目的は明白である。今迄も大阪には2人の駐在スカウトを持ち、特に伊藤菊スカウトは法大進学予定だった当時PL学園の吉村を大逆転で入団させた敏腕。ただでさえPL学園に食い込んでいながら更に中村氏を加えた理由は桑田と清原の獲得しか有り得ない。

こうした巨人の動きに真っ向勝負を挑む姿勢を見せているのが阪神だ。地元の甲子園が生んだスター選手に阪神の対応は早かった。今年のキャンプイン前に第1回スカウト会議を開いて5人のスカウトを交代交代でフルマークする事を決めた。従来の阪神のスカウト会議は春のセンバツ大会が終了した時点で資料を集めてから開催されるのが通例で、この時期に突撃指令が出されるのは異例中の異例である。PL学園の試合は例え練習試合でも完全にフォローし密着作戦を敢行するという。また阪神以外の球団も " 10年に1人 " と言われる逸材が同時に2人も現れ対策に余念がない。ドラフト制度がある以上は当日まで手は出せないが今や逆指名が横行する時代で、もしもドラフト前にヒジ鉄でも喰らったら一大事とばかりスカウト陣の再編成を余儀なくされている。

日ハムは関西出身の宮本スカウトを今年に入ってから大阪駐在に専念させ、ロッテは嘗て代打男の異名で一世を風靡した得津スカウトをPL学園担当に抜擢した。得津スカウトはPL学園OBでその人脈をフルに活用させようというわけだ。昨夏の甲子園大会ではOBとして清原に話しかけた所を学校関係者に注意される一幕もあった。そのロッテは昨年のドラフト会議で岡部外野手(中央大)を3位で指名したが周囲は実力以上の3位で指名した裏にはPL学園出身の岡部を上位指名してPL学園の印象を良くしようとしたのでは、と勘ぐった。こうした表立った各球団の陰でビックリするような話も漏れ伝わって来る。それは某パ・リーグ球団のスカウトがPL教団に入信しようとしているという噂話だ。俄かには信じ難い話だが「入信して2人が獲得出来るなら考えてもいい」と話すスカウトがいるのも事実である。それ程までに桑田と清原を巡る動きは加熱気味である。

今、球界をあるアングラ情報が駆け巡っている。2人に大学進学の可能性があるというものだ。特に桑田は早大進学の希望を持っていて、今年推薦で早大に入学した取手二高出身の石田投手と仲が良く、昨年の夏休みに石田の実家を訪れた際に「お前も早稲田に来いよ」と誘われたそうだ。また清原はPL学園と繋がりがあり、西田や小早川(共に現広島)らが進学した法大の線が強いという。大学への推薦条件は2人ともクリアしており願書さえ提出すれば合格できる。ただこの情報の裏には西武の影がチラつく。大学進学から大逆転ホーマーで2人を両獲りしようという青写真を西武が、否、根本管理部長が描いているというものだ。トレードで中日から田尾を獲得したものの他に客を呼べる選手がいない西武には2人は喉から手が出る程の存在なのだ。表面的には関西出身の岡田二軍監督をスカウトに転身させて対応しているが本丸は根本管理部長である。

こうしたプロ側の動きに2人の本心はどうなのだろうか?桑田は子供の頃からPL学園 → 早稲田大学という夢を持っているという証言がある。桑田がプロ入りを急がない理由はプロ入りするのは投手としてではなく非凡な打撃センスを生かして打者に転向してからだ、とする説がある。仮に打者に転向するなら大学で4年間みっちりと鍛えた方が良いのも事実である。確かに桑田 " 投手 " の肩は1年生から酷使され消耗している。昨年の秋季大会の上宮高戦で2本塁打されて以降、ヒジに負担がかかるとして封印していたシュートを解禁せざるを得なくなった。またプロ側の評価も打者としての二重丸を付けている球団も多い。2人の周囲は「本人が決める事」と多くを語らない。将来的には共にプロ野球でやりたい希望を持っているのは間違いないが、進路に関しては一切口を閉ざしている。

2人への個人的な取材は一切オフリミット。インタビューは全て断っており厳しい報道管理の下、がっちりガードされている。更に今年になって家族やその周辺への取材もNGとなった。例え近所の人との井戸端会議程度でも、回り回ってマスコミに曲解される恐れがあり学校側から家族に「気をつけるように」と要請した。昨年末あたり迄はマスコミ相手に気軽に喋っていた家族も今では貝の如く口を閉ざしている。そんな環境の変化にも2人は本番に向けて調整に余念がない。1月末の事、清原がトスバッティングで飛距離を伸ばす練習で歴代先輩の記録を更新した。それまでは吉村(現巨人)の105㍍が最長だったが5㍍上回る110㍍を記録した。「彼は普通に打っても遠くへ飛ばす先天的な長距離砲です」と中村監督も改めて清原の資質に感心する。そして桑田は足腰を鍛える為に黙々と走り込む。驕らず、舞い上がらず自分の足元をしっかり見つめて周囲の喧騒をよそに今日も汗を流している。

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