小学校、中学校と同級生だった男が昨日、悪性リンパ腫で死んだ。去年、大動脈解離を患い、奇跡的に一命をとりとめたものの今年に入ってすい臓がんが見つかり、さらにリンパ腺に転移したのだという。癌で入院と言う噂は聞いていたが、コロナウイルス感染拡大防止のため病院からはごく限られた親族以外は一切面会不可、という状態が続いていたから、お見舞いにも行くことが出来ないまま昨夜の連絡を受けた。
彼とはまさに幼馴染、と言うのだろう。いつから一緒に遊び始めたのか記憶がないくらい古い付き合い。家が近くで、もちろん小中学校は同じ。親の方針だったのか、いつも坊主頭にしていた。敏捷で運動神経の発達した、近所のいわゆるガキ大将、だった。
中学校までは一緒だったが高校から彼は実業高校へ進み、高校卒業後就職することが前提になっていた。そして、その高校で今の奥様と巡り合い、卒業とほぼ同時に結婚した。自分はまだ大学に入ったばかりで、どうやって生活してゆくのだろうかと不思議でならなかったが、奥様が賢明な方で(それがどうして傍から見れば無茶なことをしたのか、これまた不思議)、家庭を切り盛りし、直情径行なところのある彼を支えていた。
彼から見ると、自分はずいぶん違う世界に生きていると思っていたらしい。そのころ一度、彼の家にマージャンに誘われたことがあり、奥様が手料理でもてなしてくれたことが記憶にある。同じ年なのに彼は家庭を持ち、仕事を持ち、こちらはまだ社会とは切り離された学生という、どちらにしても違う世界に生きていることは事実だった。
彼は昔から釣りが趣味で、たくさん釣れた日などは、帰りの途中に我が家に寄ってその日とれた魚を少し自慢げに渡してくれた。いつももらってばかりいたのでは悪いので、一度たまたま冷蔵庫にあったものをお返しとして強引に押し付けたことがある。
コロナ禍の最中でもあり、葬儀一切は家族だけで執り行うというのでどうしようかと思ったが、やはり最後の別れがしたくて電話をしてみると奥様からは是非、と言う返事。気持ちばかりの花のアレンジメントを抱えて、自宅にお悔みに伺った。奥様によれば、彼は去年友人の葬儀に参列し、その友人の死に顔を見てショック受けたという。それで自分が死んだ時は誰にも顔を見せないでくれ、と頼んだそうだ。しかし奥様としてはやはり顔を見てお別れを言って欲しい、と。
彼は元来、顔立ちの整った、とてもハンサムな男であり、少しやつれてはいたものの、いつもの綺麗な顔をしていた。昨日、容態が急変し、奥様が病院に着いた時はほとんど意識がなかったが僅かに反応したと、そして眠るようにしてあっけなく逝ったという。安らかだった最後、それだけが救いだ。
これから、好きな釣りをしてゆっくり楽しみたいと思っていただろうに、運命は残酷だ。
今頃は病気からも解放されて釣り竿でも抱えてどこかへいっているのだろうか、と彼の顔を見ながら思った。幼馴染との別れはどう表現して良いのかわからない。楽しかったことは思いだすが、多分したであろう喧嘩やいさかいのことはどうしても思い出せない。彼は喧嘩が強かったがこちらにはそんな度胸はなかった。むしろ、彼に庇ってもらったことの方が多かった。いつも彼は自分より少し先を行っていた(半年くらい早く生まれていた)が何もここまで先に行くこととはなかった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます