Black Lives Matter運動が世界中に広がる中、イギリスでは、ブリストルに建てられていた17世紀の奴隷商人エドワード・コルストン(Edward Colston)の銅像が人種差別に抗議するグループにより引き倒され、ブリストル港の海に投げ落とされるという事件が発生した。また、引き倒されるまでには至らなかったが国会議事堂の前に設置されているチャーチルの銅像にもペンキで彼は人種差別主義者、という落書きがされた。
この抗議活動の広がりを受けて、ロンドンのサディク・カーン市長(自身はパキスタン系のイスラム教徒)は、ロンドン市内のすべての銅像、記念碑・額、通りの名前について、ロンドンの持つ人種の多様性を十分反映しているかを調査する委員会を立ち上げると発表した。要するに、人種差別を肯定・助長・許容するような不適切なものを洗い出そうとするものである。この委員会は、黒人、アジア人、少数民族、女性、性的少数者および障がい者の声をさらに反映させることに焦点を置いたものといわれる。なお、カーン市長はラジオのインタビューで、チャーチルに人種差別主義者(それ自体は事実)という落書きがされて、彼の銅像が引き倒されるべきと考えるかを問われて、それはない。誰も完ぺきな人間はいない。たとえそれがチャーチルでも、ガンジーでも、マルコムXでも、と答えている。また、カーン市長は新たに奴隷記念碑やシク教徒記念碑、人種差別を唱える白人に殺害された黒人少年の記念碑などを建立することも考えられると発言している。
東欧革命の際のレーニンやスターリンの像、イラクのフセインの像など、この数十年で引き倒された像は数多い。また、新たな像の建設を考えるなど、このカーン市長の動きがイギリスでどのような反響をよぶのか。いずれにしても今回、アメリカでの白人警官による黒人殺害から端を発した人種差別反対の運動により、数多いロンドン市内の銅像や記念碑が少なからず入れ替わることになるかもしれない。
引き倒される像もあるが、そうでなくても倒壊してしまう像もある。ロンドンにいた時分、夏休みをロードス島で過ごす事が何度かあった。このエーゲ海の島はギリシャ領ではあるが、すぐそばにトルコが望める、美しい海と豊かな歴史に彩られている。夏の間は連日雲一つない青空が広がり、朝夕は海を渡ってくる風が心地よい。大きなホテルで少し騒がしいがちょうど海を正面に見る部屋を割り当ててもらっていたからこの島のほぼ中心部にあるCOLOSSUS Beach Hotelにいつも泊まっていた。ロードス島は、塩野七生「ロードス島攻防記」にあるとおり、十字軍の一翼を担った聖ヨハネ騎士団が一時本拠をおいたところでもあるが、それ以上に、世界7不思議の一つで、この島の港に建てられたその名も巨人像Colossus(コロッソス)像の伝説が有名だ。古代では信じられない大きさの巨像は紀元前304年あるいは302年にアレキサンダー大王の息子に対する戦勝記念としてロードス島民が建てたという。32メートルの巨像はしかし、紀元前224年か223年に起きた大地震であっけなく倒壊してしまい、二度と再建されることはなかった。
ロードス島の巨人像を描いたタペストリーと銅版画。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます