回顧と展望

思いついたことや趣味の写真などを備忘録風に

芸術のパラドックス

2014年02月05日 11時12分21秒 | 日記

昨日の続きでNHKBSのロシア特集、今日は 「知られざるロシア・アバンギャルドの遺産 ~スターリン弾圧を生き延びた名画~」を観た。2003年放送のこのドキュメンタリーは昨日と同様、2時間があっという間に過ぎたような質の高い番組だった。ロシア文学者亀山郁夫が、ウズベキスタンのアラル海に近い小都市にあるロシアアバンギャルド絵画の聖地ともいうべき美術館を隈なく探索する様子を、そして、やはりスターリンの弾圧、シベリア収容所という20世紀のロシアの悲劇が手際よくまとめられている。

あの時代に、サヴィツキーのような天をも恐れぬ人物が現れるのはいつものことながら歴史の奥深さ、人間の執念の凄まじさを証明するものだ。いかに使命感に燃えていたとはいえ、共産主義国家の監視の目をくぐっての反体制絵画の収集は命知らずの無謀なものだったに違いない。もちろんそれを描いた画家の運命たるやいかほどか、である。この番組の最後で、亀山が帝政ロシアやスターリン弾圧下でのロシア芸術に触れて、いくら弾圧されても描かずにはいられない芸術家の運命を喝破していた。それはまた、イデオロギーや政治が芸術を一瞬にして抹殺してきた歴史の教える人類の愚かさ、儚さを思い起すものでもあった。

芸術家は自由を求める。しかし、自由であれば芸術が栄え、弾圧下であれば芸術が萎える、というものではない。たしかに自由を求めてロシアから逃れたシャガールは素晴らしい芸術作品を残しているが、ロシアに残って弾圧を受けたアバンギャルド画家の作品もそれに劣らずに素晴らしい。結局、芸術というものは自由といったものを超越して開花するもののようだ。

歴史と芸術家の相克は、あるいは闘争は、過酷な運命を辿った画家ミハイル・クルジンと、その代表作「資本家」の下半分を切断されたことが何よりそれを物語っている。

 

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