40年以上前の5月、特に旅程も決めずに北海道を車で旅行したことがある。その時撮ったはずの写真はいつの間にかどこかに散逸してしまい、正確な場所や風景を思い出す術もないのだが、旅の途中、然別湖という、山を抜けて行った先に拡がる、原生林に囲まれた湖を訪れたことがあるのだけは確かな記憶として残っている。
今年春、頭の片隅にあったこの湖をもう一度訪れたいと何故か思った。ただ今回は前回のような行き当たりばったりの旅ではなくあらかじめ宿を予約していこうと。
5月も中旬になろうとしているのに裸の木が目立つ、北海道は早春の景色が広がっていた。湖に向かう途中の開けたところから望む十勝平野。
白樺を中心とした原生林を抜けて目の前に現れたのは曇天の空の下に眠っているような然別湖。
ここは標高800m、周囲の山にかかっているのは霧なのか雲なのか。
トンネルを抜けた先にある湖畔には近代的なホテルが一軒だけ、少し奥まったところには数年前に廃業した無人のホテル。小さな旅行案内所以外には建物はなく、生活感は感じられない。前回観たのは確かにこんな湖だったと思い出したが、泊まったホテル(旅館?)の記憶は全然蘇ってこない。7階の角部屋からは夜になるとさっき通て来たトンネルからオレンジ色の照明が漏れてきていたが車の通る気配もない。湖の桟橋では緑色の貸しボートが船底を上向きにして甲羅干しでもしているようだった、この時期、ボートに乗る旅行者はいないのだろう。
この、いささか気恥ずかしいが神秘の湖(北海道の、森に囲まれた周囲に人家のないような湖ならどこでも神秘の湖、と言えそうだが・・・)と称している然別湖から30kmほど北の方にある糠平湖の近くには、一年のうち半分はダム湖の底に沈むという、かつての国鉄の建設した橋梁が有名。
6月から徐々に水位が上がってやがて水面下に姿を消すという橋梁は今はその全景を見ることができる。その素朴な姿は、ローマ軍が建設した水道橋をちょっと連想させる。近くに行くにはガイドを雇ってのツアーとなるが今回は時間もなく、かなり離れた展望台からの遠景で我慢することにした。
道路から180メートルほど雑木林を抜けたところにある展望台への道すがら、大きな木の下でひっそりと咲いていたフッキソウの花を見つけた。
もう一度訪ねてみたい場所はいくつもある。ただ、残された時間はあまり多くないような気がする。
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