回顧と展望

思いついたことや趣味の写真などを備忘録風に

飛行機雲

2020年06月12日 14時26分42秒 | 日記

早朝午前6時、散歩をしていてふと空を見上げるとに西の空の高い所に飛行機雲が。薄い雲の間を、飛行機から一呼吸置いて矢がまっすぐ空を裂くように、はじめは細く鋭い線で、そのうちだんだんと幅広くなり、縮れて波打つようにしながら風に乗って東へと移っていく。最後は輪郭もぼやけて薄くなり雲とも空とも見分けがつかなくなった。

国際線がほぼ全面的に運休し、国内線も8割が減便している今、何だか飛行機雲さえも珍しいものになってしまったような気がする。最近まで、例えばロンドンに向かう途中のスカンジナビアの上空ではいくつもの飛行機雲が交錯し、時には滑るように下を飛行してゆく飛行機や、平行して斜め下を飛んでいる飛行機が見えるのが普通だったのに。また、朝、ウインブルドンのテニスコートのあたりを散歩しているとヒースローを離陸した飛行機が一定間隔ですこしづつ高度をあげながらやはり白い雲の尾を引いて南西の空に消えてくのが見えたのが日常だった。見られている飛行機には当たり前であるが乗っている人がいる。自分も機上の人になることもある。機上と地上、機上にあれば地上にいて生活している人の地に足の着いた平穏な日常を思うし、地上にいれば、機上の人の非日常的な旅の途中の姿が想像される。こんな風に会話でもしているような気分になるものだ。

飛行機での出張、長距離で10時間を超えるような飛行はこれまで数えきれないくらい経験したが、隣席の人と話をすることはめったにない。お互いに干渉しない方が楽だし、長時間や夜間飛行の場合には話し声が周囲の人にとっては騒音になり迷惑になりかねない。何よりせっかくの時間、気ままに想像の世界に頭を休める時間を邪魔されたくないという気持ちが強い。豪華客船のクルーズや、リゾートホテルのダイニングルームのような、見知らぬ人との出会いを期待して飛行機に乗っている人は少ないはずだ。

そんな中で、機中でかなり打ち解けて話をした人でいまだに記憶に残っているひとがいる。その当時、国際線はすべて成田から飛んでいたのだが、ロンドン行きの便でのこと。通路側だと隣席に人がいる上に、通路を行き来する人やCAも気になるので長距離飛行では可能な限り窓側の席を指定することにしていた。

その便でも窓側席を指定してあったのだが、搭乗してみるとすでに若い女性が窓側の自分が指定した席に座って書類を引っ張り出し仕事を始めている。席に近づいて、間違いなのか念のため確認しているとCAが来て、その女性に声をかけ、席が通路側だと言い、彼女も驚いて荷物をまとめようとしていたので(かつてのジャンボ機のビジネスクラスの窓側には窓の下にアタッシュケースを格納できるくらいのボックスがあった)気の毒になり、いや、このままでも構いません、と言ってそれをとどめた。多分、彼女はこちらに申し訳ないと思ったのだろう、窓側に座ってしまった理由について遠慮がちに言い訳をした。つまり、彼女も他の人に邪魔をされたくないのでいつも窓側の席を指定している、今回も、つかっている旅行会社は当然窓側を指定しているはずと思い込み、列までは確認したがそれ以上は確認しなかった、と。そしてこちらは何も言っていないのに自己紹介をしてきた。彼女は日本の広告会社で海外の観光地のPRの企画をしていて、今回は旧ユーゴスラビアから最近独立したスロベニアの観光振興のため、現地に行く途中と。自分は共産党政権下のユーゴスラビアに出張で何度か首都のベオグラードに行ったし、当時はその一部だったスロベニアの首都リュブリャナにも行ったことがあった(ここの銀行と取引があった)ので、彼女の話は興味深かった。そして、彼女は仕事のせいだろうが、スロベニアの観光地としての潜在的な魅力についてことのほか熱心に話をしはじめた。

押しつけがましくはなく、それでいてすきのない、知的な感じのする人だった。全く別の仕事の話を聞くのは興味がわくし楽しいものがある。スロベニアの歴史や文化、さらには旧ユーゴスラビアから東ヨーロッパ全域に至るまでよく勉強していたので、話がかみ合い、また、観光という自分の知らない領域の話は新鮮だった。ロンドンに到着した時に名刺を渡したので、その後、帰国してしばらくしてから、スロベニアの観光振興のCDが自分のオフィスに送られてきた。しかし、実際には見ることもなく、そのままCDの棚にしまってあった。埃をかぶってしまった、もう20年以上前のこのCDは今では歴史的な、骨董品の類と言えるだろう。このCDを眺めていると、あのすっきりした横顔が今でも目に浮かんでくる。

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2 コメント

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Unknown (michi)
2020-06-13 03:35:40
こんばんは。
すてきな出会いですね。わたしは飛行機では割と隣の人に話しかけられる方ですが、前回のフランスから日本便では隣に1人旅の小学校低学年の女の子が座っていて、思わず自分から話しかけました。フランス語で漫画を読み聞かせてくれたり、学校での話をしてくれたり、12時間のフライトがあっという間でした。
harborside さまともいつか、空の旅で行き合あうかもしれませんね。
いつも興味深いお話をありがとうございます。
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Unknown (harborside)
2020-06-13 05:06:41
おはようございます。
きっとそのお嬢さんにとっても記憶に残る12時間になったのではないでしょうか。フランス語で会話されているのが目に浮かぶようです。
私も話しかけられることは時々あるし、いつも挨拶はするのですがそれ以上はどうも遠慮してしまい・・・
いつも滑らかできれいな文章と、美しい写真を楽しませていただいております。
コメントいただき有難うございます。
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