望んでも
望んでも
かなわないから
望み続ける---------------
ただ それだけ----------------
人は皆
生きてゆくかぎり---------
「星守る犬」だ
「星守る犬」村上たかし
こちらで 一話だけ立ち読みができます。
病気で職を失い、それに追い打ちをかけるように妻に離縁された初老のお父さんが、娘が拾って大きくなった愛犬と一緒に車で故郷に向けて旅に出るお話です。
私はこのお父さんと全く同じ世代です。
このお父さんの持病である心臓の病気は自分の職を失うばかりでなく、妻が別れ話を出すきっかけとなりましたが、以前から自分と妻との間に出来ていた溝をお父さんは知りうることもなく、別れ話の時でさえも聞かされることはありませんでした。
だから別れた後でもお父さんに悲壮感はなく、自分は妻の意思を尊重した心の広い男と思い込んでいるのです。
実際のところ妻の自主性に任せていた筈のことは、妻の側からは夫の無関心が故のことと受け取られていました。
お父さんの自分や家族に対する根拠の無い自信は、自分の現実を見据えるチャンスを失わせていたのです。
旅に出てからの物語は、下記の①~④で構成されますが、話は脇道にそれることなく哀しいエンディングに向けてひたすら突っ走ります。
①旅先で一人の浮浪児との出会いがあり、その別れの時にその子に財布を持ち去られたこと
②連れていた犬の病気を治すための手術で金が必要になり、車に積んだ家財の一切を売り払って失ったこと
③犬と車以外の全てを失ったお父さんが、最後のガソリンを使って山奥のキャンプ場に辿り着き、そこを安住の地と決め込んだこと
④しかしその生活も長くはもたず、野外生活の厳しさの中で持病を悪化させ、車の中で息絶えてしまったこと
しかしお父さんは最後の最後まで、誰も責めたり嘆いたりしませんでした。
そして息を引き取る直前に車のドアを少し開き、最後までそばにいてくれた犬に感謝の言葉をかけました。
「ハッピー・・・ありがとう・・・」
そうして長い時間が経ちましたが、犬はお父さんの死を受け入れられないままキャンプ場に留まっていました。
犬は大好きなお父さんが、自分の目の前からいなくなってしまったと思っているのです。
しかし犬はお父さんとまた会えることを疑っていませんでした。
そして一年も過ぎたある日、キャンプ場にお父さんの家族とよく似た家族がやって来ました。
犬は再会を喜んで飛びつこうとしましたが、そのお父さんが犬を追い払おうとして投げた薪(まき)が頭に当たり、その場からは逃げ延びたもののそれが元で命を落とすこととなりました。
犬は消えていく意識の中で、やっとお父さんと再会することが出来ました。
また大好きな散歩に連れていってもらえるのです。
「ありがとうございます おとうさん!」
この作品を紹介して下さったのは、実は私より20歳くらい若い女性です。
彼女はこの作品を読んで泣いたそうですが、私は何度読んでも泣きませんでした。
このお父さんや主人公である犬に対する思い入れは、人それぞれだからでしょう。
私が泣かなかったのは、このお父さんと違っていたからだと思います。
正直なところ私は、今の自分に自信がありません。
いつでもどこでも「これでいいのだろうか?」との思いが付きまといます。
かなわないものを望み続けるのは私でしょうか、それとも私の家族でしょうか?
そしてこれを読んで下さっているあなたの場合は、あなたでしょうか?
それとも、あなたと関係がある相手でしょうか?