赤いろうそくと人魚
小川未明/著
発行形態 : 新潮文庫
「人間の住んでいる町は、美しいということだ。
人間は、魚よりも、また獣よりも、人情があってやさしいと聞いている。
私たちは、魚や獣の中に住んでいるが、もっと人間に近いのだから、人間の中に入って暮されないことはないだろう」
と、人魚は考えました。
個人サイトですが、公開されているあらすじは
ここでご覧ください。
陸で子を産み、その子供を人間に託した人魚は、その恩を人間のために海を鎮めることで返そうとしました。
わが子が赤い絵の具で絵付をした、お宮参りに使う白いろうそくに魔力を込めたのです。
しかし欲に駆られた人間が、わが子を見世物にしようとしたことが人魚を失望させ、その子が最後に残す赤く塗りつぶしたろうそくに呪いをかけたのです。
冒頭にある、人間の世界に憧れ、子供を陸で産み落とす決心をした人魚の言葉が重く響きます。
果たして、人間は本当に他の生き物から憧れられるような存在でしょうか?
自分が棲んでいる世界が、決して居心地の良い世界とは思えなかったからではないでしょうか。
人魚は自分の姿かたちから、人間と近しいと思い、一緒に暮らせると信じていました。
しかし人間は、人魚を珍しい獣の一種としか見ていませんでした。
そこに悲劇が生まれたのです。
しかし悲劇は、人魚の子供と育ての親である人間との別れだけでは済みませんでした。
親の人魚の失望は怒りに変わり、最後に娘が残した呪いの赤いろうそくに火をともしては人間への復讐を繰り返し、ついにはその町を滅ぼしてしまうのです。
親の人魚の何と凄まじい憎悪の表れでしょうか。
人間に対する「失望」と書きましたが、人魚の中では「裏切り」だったかも知れません。
しかし、人間はそのことに全く気付いていません。
実は作品の中で、親の人魚のことを明確に書いていたのは、陸で子供を産み落とすところまでです。
しかし、私は誰も知らない海の下の人魚の心の動きについて書き続けています。
知らぬ間に誰かを裏切っていることはないでしょうか?
私たちの何気ない行動や考え方が、気付かぬままに誰かの憎悪を招いているかもしれないのです。
異質との交わりの中で、配慮の欠けているところはないでしょうか?
異質であればあるほど、その力を測り知ることは不可能に近いからです。