GWも後半。麻生内閣の「珍政策」である高速道路休日1,000円政策の後押しもあって、JR最難関路線の乗りつぶしを敢行することにした。高速1,000円政策については、改めて別の機会に論ずることにしたいが、2年間限りのチャンスを生かさない手はないとは思う。
それに、JRでの現地入りも出発前に検討はしたが、
青春18きっぷ…春、夏、冬休みのみ
土・日切符…5月2~3のみ対象外
三連休パス…9月~3月のみ
東日本&北海道パス…8月以降
とことごとく対象外で、通常運賃で行かざるを得ないことがわかったのだ。これでは、JRみずから「乗るな」「他の交通機関へ行ってくれ」と言っているようなもので、率直に言って疑問を感じる。混雑が分かり切っている新幹線は別として、普通列車限定の「東日本&北海道パス」くらいは発売してもいいではないか。
時刻表のトクトクきっぷ欄を見て最近、思うのだが、いつの間にかJR東日本が発売するトクトクきっぷは地方から東京へ行く人に向けたものばかりになってしまった感がある。周遊券時代は全国の観光地がフォローされ、痒いところに手が届く内容になっていたものだが、地方への旅が安く手軽に楽しめる割引切符は今ほとんど消えてしまった。JRになってからの方が、国鉄時代よりずっと東京中心主義の地方軽視になっている。国鉄分割民営化当時、「国鉄がJRになれば地域密着になり、地域に優しい鉄道になる」などとほざいていた連中は、今日のこの事態に責任を取ってもらいたい。
そんなわけで、結局、乗りつぶしが目的の旅にもかかわらず、今回はアクセスにJRを使わなかった。朝7時前、車で出発し、白河ICからすぐ東北自動車道に乗る。妻と時折運転を交代しながら午前11時半過ぎ、盛岡南ICで東北自動車道を降りる。本当に1,000円かどうか、料金表示を見るまで信じられないが…「軽・二輪 割引 1,000円」と表示された。通常料金だと5,800円のところ1,000円。往復だと11,600円が2,000円。なんと9,600円も浮いたことになり、これで今夜の宿泊費が捻出できてしまった。麻生内閣のやることはメチャクチャだ。日本の交通政策全体を俯瞰した場合、こんないびつなやり方で良くないことは確かだが。
盛岡では名物「ジャージャー麺」を食す。うどん麺の上に胡麻味噌をかけたジャージャー麺は独特の食感で味わい深かった。
そういえば、盛岡では冬でも冷麺を食べる習慣がある。この盛岡の冷麺に関しては、確か東北新幹線の車内誌「トランヴェール」の巻頭コラムで、脚本家の内舘牧子さんが書いていたっけ。冷麺は東京が一番と主張する友人を冬に盛岡の冷麺屋に連れて行ったら、いたく感動したんだとか。
それはそうと、今回の旅で一番心配なのが今夜の宿泊のことだった。私の仕事のスケジュールや妻の体調などが心配だったので、今回の盛岡行きは直前になって決めた。そのせいで、ホテルというホテルがすべて満室の状態で、私は独身時代でも数回しか経験のない「車寝」を一度は覚悟したほどだった。
だが私は、30年以上にわたる鉄ちゃん生活で日本各地を旅した経験から、県庁所在地・政令都市クラスでの泊まりはぐれは絶対あり得ないと確信しており、心配する妻にも「大丈夫。絶対に心配ない」と告げた。インターネットやオンライン地図に載っていない宿や、地元民しか知らない宿が現地に行けば必ず見つかる。そして、そのすべてを把握しているのは旅行社ではなく、地元の観光協会である。そこで昼食後、盛岡駅構内の観光協会に出向き、今夜の宿泊を何とかならないか相談してみた。
「…本日は大変混雑しており、ほとんど埋まっていますね。…でも、昼前に電話確認したところでは、2軒だけ空室のあるホテルがあります」
そのうちの1軒が昼食後になっても空いており、私たち2人はめでたくそこに収まった。夕方のチェックイン時に確かめると、そのホテルも満室になっていたことを報告しておこう。
宿確保に成功した私たちは、13時過ぎ、国道106号線を茂市に向けてひた走る。この106号線は、盛岡から宮古を結ぶ道路で、鉄道なら山田線に当たるルートである。茂市は盛岡から50キロ以上離れており、到着は14時半過ぎだった。
待つこと1時間と少し、いよいよお目当ての岩泉線の列車が入ってきた。キハ110系単行の685D(写真)である。685Dは15時40分、定刻通り発車。岩泉に向け山道を登っていく。
途中の押角は、マンガ「鉄子の旅」のおかげで「秘境駅」としてずいぶん有名になったが、道路が並行しており、すぐ近くまで車で来れる状況で秘境駅というのはどうかと思う。かのマンガは、横見浩彦氏の主観で構成される部分が大きく、秘境駅の基準はかなりいい加減だと思う。むしろ、
「秘境駅へ行こう!」の牛山隆信氏の基準のほうが明確で信用できる。なんせ、牛山氏は「秘境駅」という言葉の生みの親なのだから。
そもそも北海道に行けばこの程度の駅はいくらでもあるし、私の基準では、列車が1日3往復しかなくても、その3往復6本のすべてが停車する押角は秘境駅ではない。私が過去に見た駅では、布原(岡山県・伯備線)のほうがよほど秘境ではないか。なんせ、「やくも」をはじめ多くの列車が通っているのに、伯備線の電車は全列車通過で、1日5.5往復の芸備線列車しか停まらないのだ。
多くのトンネルを串刺しにしてきた685Dは、16時33分、定刻通り終点・岩泉に到着した。全線通しで運転される列車が1日わずか3往復。茂市~岩手和井内の区間列車を含めても4往復。国鉄時代には、1日1往復(旧・清水港線)なんて路線もあったが、現在ではこの岩泉線が最も列車本数の少ない路線だろう。その岩泉線の完乗が、ついに成った。
岩泉駅は岩手県屈指の観光地である龍泉洞の近くにある。最近、ローカル線の終点駅に降り立っても食堂はおろか、コンビニすらないということが珍しくないが、ここ岩泉駅周辺には、焼肉レストランが1軒と、ラーメン屋が1軒、元気に営業していた。地方が全般に疲弊する中で、ここは比較的元気な方ではないだろうか。
完乗達成後、私たちは折り返しの686Dで茂市に戻り、再び車で国道106号線を走って盛岡へ。昼に確保した盛岡市内のホテルにいったんチェックイン後、妻と夕食に繰り出す。盛岡駅前の繁華街に好ましい雰囲気の料理屋を発見。ジャージャー麺、冷麺と並んで郷土料理のひとつだという
ひっつみを食した。冬、寒い盛岡では、この「ひっつみ」が身体を芯から温めてくれるに違いない。
【完乗達成】岩泉線
正直、「JR乗りつぶし最難関路線」のここを達成できたのは非常に大きく、1線で5線分くらいの価値があると自分では思っている。くどいようだが、ここは
1日3往復6本しか列車がない超閑散線区なのだ。2003年度の輸送密度(1日1キロメートル当たり乗客数)がわずか85人。国鉄再建法に基づく特定地方交通線の選定基準が輸送密度4000人未満だったことを考えると、これはもうとんでもない数字である。運行するJR東日本のある幹部が「岩泉線はボランティア」と発言したという話もあるが、真偽の程は明らかではない。
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さて、岩泉線の完乗を達成した現時点におけるJR・転換三セクの未乗車路線を挙げておこう。以下の通り、全部で29線区。昨年のGWは49線区だったから、大幅に減らしたことになる。
【北海道】宗谷本線、留萌本線、石北本線、釧網本線、根室本線、石勝線、室蘭本線、函館本線、札沼線、江差線、海峡線〔11線区〕
【東日本】津軽線、大湊線、気仙沼線、石巻線、中央本線〔5線区〕
〔注〕中央本線は、岡谷~塩尻間〔みどり湖経由〕のみ未乗車。
【東海】なし(完乗達成)
【西日本】越美北線〔1線区〕
【四国】鳴門線、徳島線、内子線、予讃線〔4線区〕
〔注〕予讃線は、内子~向井原間のみ未乗車。
【九州】肥薩線、吉都線、指宿枕崎線、日南線、宮崎空港線〔5線区〕
【三セク】秋田内陸縦貫鉄道、北近畿タンゴ鉄道宮津線・宮福線〔2社3線区〕