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精神論から科学への転換は評価するが…

2009-06-29 22:07:04 | 鉄道・公共交通/安全問題
事故は気合じゃ防げない JR西の「人為ミス研究」脚光(産経新聞)

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 「人はミスを犯すもの」。こんな前提に立ったJR西日本安全研究所の研究成果が注目を集めている。研究所は平成17年の福知山線脱線事故を機に3年前、立ち上げられた。信号機の点呼確認はすべて必要か、上司が部下をほめる効果はあるのか。成果は、従来の「事故は気合で防ぐもの」という鉄道界の体質を変え、自衛隊や病院、航空会社など畑違いの分野でも職員教育に取り入れられている。(森本充)

 ■どこでも起きうる

 福知山線脱線事故後、JR西は、ヒューマンエラー(人為的ミス)への取り組み不足の反省から研究所を設立し、体質改善に取り組んだ。

 運転や保線、事務など各部門から約25人を選び、「何がわが社に欠けているのか」探った。半年で冊子「事例でわかるヒューマンファクター」を発行した。

 疲れるとどうなるか▽なぜマニュアルはあるのか▽多人数の中だと手を抜いていないか-。冊子は32のテーマを設定し、事例と解説、対策を紹介した。

 社内教育向けに作られた冊子だったが、口コミで評判が広まり、建設会社や銀行、医療機関などから問い合わせが殺到。実費(1冊300円)で配布し、現在までの社外配布は4万6千冊にのぼる。

 安全研究所の白取健治所長は「ヒューマンエラーは鉄道に限らず、どこでも起きうる。分かりやすく分析した本がなく、受け入れられたのでは」と話す。

 ■まずは人間関係を

 研究成果はJR西の改革に取り入れられた。

 福知山線の事故は運転士の速度超過が直接原因だったが、国土交通省鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)は懲罰的な運転士管理法「日勤教育」の影響もあったと指摘。このため、研究では上司と部下の関係調査を実施した。

 上司役が積極的にコミュニケーションを図り、良好な人間関係を形成したグループと、上司役が人の話を無視し、悪い関係を形成したグループを作成。簡単な作業をさせ、両グループとも上司がほめたところ、人間関係が良好なグループは、ほめるとどんどん作業を工夫するのに対し、悪いグループはほめると工夫度合いが減退した。

 白取所長は「事故後、社内にはほめることが最良の策という風潮が生まれたが、人間関係ができていなければだめだと分かった」と話す。

 また、信号機の確認規定にも研究が生かされた。これまで信号機は、指さし確認の上、声を出してのチェックも必要だった。ただ都市部では、確認が20秒に1回にのぼり、「疲れる」という声があがった。

 研究の結果、「指さしと声出し」を両方行った場合と「声出しだけ」でエラー率はほとんど変わらなかった。昨年11月、規定は「重要個所以外は声出しだけでいい」と改訂された。

 「安全の追求に終わりはない」と白取所長。現在、研究所では運転士の眠気の研究に着手し、今秋には眠気防止ガイドラインを出す方針だ。
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過去ログでご紹介した尼崎事故4周年遺族アンケートでは、JR西日本の安全対策を評価しないと答えた人が過半数に上った。そのような中、責任を取ろうとしていないJR西日本上層部の方針によって出版された事故防止マニュアルを評価することが適切だとは思わない。まずは会社上層部が責任を取るほうが先だと思うし、いろいろと工夫はしても、結局企業体質が変わらなければ成果に結びつかないからだ。

信号機の指差唱呼については、以前、ある元国鉄機関士の人から「指差し確認なんてしてもしなくても安全にはほとんど影響がない」と言われたことがある。今回のJR西日本の研究は、はからずも彼の考え方の正しさを立証する結果となった。

地上信号方式では、信号機はほぼ600メートルおきに設置されているので、指差唱呼は1分間に1~2回程度だろう。20秒に1回というのは、主にATC(自動列車制御装置)導入区間ではないか。ATCでは、速度制限区間にかかるごとに速度指示が刻々と変わるから、20秒より短い間隔での指差唱呼ということもあり得ると考えられる(ただ、首都圏と異なり、関西のJR在来線でATC導入線区はないから、ATC区間だとすれば山陽新幹線しかあり得ないが…)。

問題なのは、まだ信号機が地上信号だけだった時代に生み出された指差唱呼の慣行が、科学的検証もされずにATC時代に引き継がれ、現場運転士の負担感にもかかわらず改善されなかったことだ。このあたりにも、旧国鉄の生み出した精神主義を見ることができる。

ただ、国鉄時代の精神主義は必ずしも悪い面ばかりでなく、功罪両面があった。「功」は鉄道職員の高い職業意識や倫理感、責任感がこれによりもたらされたこと。「罪」はいうまでもなく、産経新聞の見出しにもあるような「事故は気合いで防げ」的な科学否定につながってしまったことだ。だから、JR西日本の今回の研究が精神的安全論から科学的安全論への転換につながるのであれば、そのこと自体は評価できるが、一方で精神主義をすべて否定することも間違っている。鉄道職員としての高い職業意識や倫理観、責任感といった良い意味での精神主義は残しながら、労働安全衛生管理に関しては、産業界が長年にわたって培ってきた科学的手法へと転換していくことが理想的な姿だと当ブログは考える。

厳しい言い方になるが、尼崎事故以前のJR西日本はこの理想と正反対の状態だった。事故防止は職員の「気合い」に依拠する一方、事故現場に居合わせた職員が救出活動に当たらずに出勤したことに見られるように、精神主義がよい意味で発揮されなければならない職業意識の面では、職員に責任感や矜持のかけらもなかったのだ。

ちなみに、大手私鉄では信号機を確認する際、指差を行っているところはほとんどなく、またほとんどの私鉄が発声だけで信号機の確認をしながら、事故率はJRと大差がない。そうした実態を鉄道ファンは広く知っているだけに、JR西日本の今回の研究は興味深いものがある。責任論とは別に、当ブログとして、この冊子「事例でわかるヒューマンファクター」を取り寄せてみようかと思っている。

それにしても、ヒューマンエラーについて分かりやすく分析した本さえ整備されていない日本の現状はお寒いばかりだ。本当は、こういったパンフレットは厚労省や経済界が率先して整備すべきものである。経済界は利益ばかり追求し過ぎて、ボケてしまったのではないか。

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