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JR尼崎事故裁判、強制起訴された3社長の弁論終え結審~9月判決へ

2013-06-25 21:15:43 | 鉄道・公共交通/安全問題
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2013年7月号に発表した原稿を掲載しています。なお、掲載に際し、文字化けのおそれがある丸数字のみ、かっこ付き数字に改めました。)

●尼崎事故の刑事訴訟、結審

 乗客・運転士107名が死亡したJR福知山線脱線事故(尼崎事故、2005年4月発生)で、強制起訴されたJR西日本歴代3社長(井手正敬氏、南谷昌二郎氏、垣内剛氏)の裁判が最終弁論を終え結審した。判決公判は9月27日に開かれる予定だ。

 事故はJR福知山線、塚口~尼崎間の上り線で、運転士が大幅な速度超過のままカーブに入り、列車が脱線転覆したもの。単なる運転士のミスではなく、背景に会社による懲罰的「日勤教育」や速度照査型ATS(自動列車停止装置)の不備などの問題が指摘された。神戸地検が、事故当時JR西日本本社安全本部長だった山崎正夫・元社長1人だけを業務上過失致死傷罪で起訴したのに対し、「速度照査型ATSの不備を放置した会社のトップが責任を問われないのはおかしい」との理由から、被害者が歴代3社長の不起訴処分を不服として検察審査会に申し立てた。これに対し、神戸第1検察審査会は2010年3月、2回目となる「起訴相当」の議決を行った。検察審査会で2度目の起訴相当議決があった場合、被疑者が強制起訴されるという改正検察審査会法により、強制起訴となった3社長の裁判が続いてきた。

 改正検察審査会法による強制起訴は、兵庫県明石市で警察の警備上のミスにより、花火大会の見物客らが歩道橋で将棋倒しとなり犠牲者を出した「明石歩道橋事故」に次いでこの事故が2例目だ。

 ●不遜な姿勢で命をモノ扱い

 これまでの公判で、3社長は「事故は予見不可能だった」として一貫して無罪を主張。「3社長には労働者が上層部にものを言えない強権的企業体質を作り出した責任がある」との指定弁護士(検察官に相当)の指摘に対しては「科学的主張とは言えない」と反論した。

 これまでの報道を見る限り、法廷で3社長が大切な人を奪われた遺族らに寄り添おうとする跡は全く見られなかった。それどころか、被害者参加制度による遺族らの直接質問でも3社長らは不遜な姿勢に終始した。遺族と3社長との主なやりとりをご紹介する。

藤崎光子さん「肉親を奪われた遺族のことを、1人でも具体的に知っているか」

井手被告「実感するということはない」

藤崎さん「今からでも聞きたいと思わないか」

井手被告「全くそういう気持ちはございません」

上田弘志さん「日勤教育は実践的な教育ではなく、リポートなどだったのはなぜか」

井手被告「日勤教育は重大事故や頻繁に事故を起こした者を再教育するために必要。国鉄時代からの長い伝統があって、JR西日本になってからも引き継いできた。作文などもあったかもしれないが、私はカリキュラムについては一切知らなかった」

上田さん「社長として調査しようと思ったことはないのか」

井手被告「カリキュラムについては人事部が決めていること。それに従ってやっていると理解していた」

上田さん「担当者に任せきりで『知らない』というのは違うのではないか」

井手被告「小さな会社だと細部まで目が届くが、大きな会社だと容易ではない」

上田さん「日勤教育については裁判になったこともあるが」

井手被告「辞めた後なので分からない。あまり関心を持っていなかった」

上田さん「なぜ事故が起こる前に予知できなかったのか」

井手被告「考えられる最大限のことをしていた。ハインリッヒの法則のように、小事故をなくすことが大切だ。それに尽きると思う」

上田さん「井手被告のワンマン経営になっていたのではないか」

井手被告「それは決してございません」

 また、裁判の過程で、垣内剛被告が「亡くなった人の処理をしているとき…」と供述したのに対し、遺族が「処理とは何か。命を物扱いしているのか。ふざけないでください」と声を荒らげる場面もあった。

 藤崎さんは「(JR西には)心から遺族の状態を聞き、一緒に悩んでくれる幹部が1人もいないことが残念。有罪を望むだけではなく、真実に近づきたいという遺族の思いはかなえられなかった」と無念さを口にした。上田さんは「強制起訴は国民の声。3人が罪に問われなければ、警察も司法も信じられない」と語る。

 今年3月、指定弁護士が3社長に対し、禁固3年を求刑。神戸地検が起訴した山崎元社長に対する求刑が禁固3年であったことから、これを参考にしたとみられる。

 ●強制起訴制度や原発事故の責任追及にも影響を与える重要な裁判

 もともとは検察が立件を無理と判断した事件の強制起訴であること、検察が起訴したものの無罪(2010年1月判決言渡)となった山崎元社長の裁判と同じ裁判長であること等を考えれば、判決の行方は予断を許さないが、それでも遺族は責任追及、真相究明の両面からこの裁判に希望をかけてきた。JR西日本に大切な人を奪われた上、法廷でも3社長の不遜きわまりない態度に接することを余儀なくされた遺族の心情は察するに余りある。筆者は3社長に厳罰を希望する。

 ところで、どのメディアも論評していないが、この裁判の結果が今後の強制起訴制度の方向性を決める可能性もある。すでに、検察審査会の審査の過程が公開されないこと、検察審査会が補充捜査を行う場合も結局は検察を使ったものとならざるを得ず、実効性が担保できないこと――等の問題点を指摘する論評もある(注)。今後も強制起訴事件について無罪判決が続くようなら、早晩、強制起訴制度の見直しに進むことも考えられる。

 また、この裁判は福島第1原発事故を巡る東京電力の責任追及などの事例にも少なからぬ影響を与えるだろう。(1)企業の過失責任が問われていること、(2)事故の予見可能性が焦点になっていること、(3)被害者に法人処罰への強い要求があること、(4)民間企業が国策を事業として遂行する過程における事故であること(国策民営体制への是非)、(5)競争が成立し得ないか、部分的なものにとどまっている独占的企業での過失事故であること――など、JR福知山線事故と福島第1原発事故には多くの共通点があるからだ(ついでに言えば、加害企業に全く反省の姿勢がないことも共通点である)。

 いずれにせよ、1審で裁判が終了する可能性は低く、今後も上級審に舞台を移して続いていくものと思われる。今後とも裁判の行方を注視していきたい。

(注)越田崇夫「検察審査会制度の概要と課題」(国立国会図書館調査及び立法考査局「レファレンス」2012年2月号所収)

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