大飯原発の設置許可取り消し 住民ら原告側勝訴 大阪地裁が初判断(毎日)
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福井県や近畿地方の住民ら127人が、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について国の設置許可を取り消すよう求めた行政訴訟の判決で、大阪地裁は4日、許可を取り消した。森鍵一(もりかぎはじめ)裁判長は、原発が想定する地震の最大の揺れを示す「基準地震動」について、「原子力規制委員会の判断に看過しがたい過誤、欠落があり、設置許可は違法」と述べた。2011年の東京電力福島第1原発事故後、国の設置許可を否定する司法判断は初めて。
【大飯原発の設置許可取り消し 住民ら原告側勝訴】
国は関電などと協議し、控訴する方向で検討している。判決が確定しなければ許可取り消しの効力は発生しない。国による安全審査の妥当性が否定されたことで、他の原発にも影響を与える可能性がある。
耐震設計の目安となる「基準地震動」の妥当性が最大の争点だった。関電は原発周辺の地層の調査や過去の地震データなどから、基準地震動を856ガル(ガルは加速度の単位)と算定。規制委は17年5月、福島事故後に厳格化された新規制基準に適合するとして、設置許可を出していた。
判決は、関電が算定に使った計算式は過去の地震データの平均値に基づいており、実際に発生する地震は平均値からかけ離れて大きくなる可能性があったと指摘。耐震性を判断する際、想定する地震規模を上乗せして計算する必要があったのに、関電や規制委が「何ら検討しなかった」と批判。規制委の判断に「不合理な点がある」として設置許可を取り消した。
住民側は大飯原発3、4号機の基準地震動について、少なくとも現行の1・34倍の1150ガルになるとして、現在の原子炉では耐震性を満たしていないと主張していた。
住民側の弁護団は「全ての原発の基準地震動の設定に関する重大な問題。ただちに策定をやり直すべきだ」との声明を出した。
原子力規制庁は「裁判所の十分な理解が得られなかった。今後、関係省庁と協議の上、適切に対応する」とのコメントを出した。関電は「極めて遺憾で到底承服できない。国と協議の上、適切に対応する」としている。
原発の設置許可を巡る訴訟では、福井県敦賀市の高速増殖原型炉もんじゅ(廃炉)について、名古屋高裁金沢支部が03年、原子力安全委員会(当時)による審査に重大な誤りがあるとして設置許可を無効とする判決を出したが、05年の最高裁判決で覆された。【藤河匠】
◇大阪地裁判決(骨子)
・関西電力は大飯原発3、4号機の耐震性判断に必要な地震(基準地震動)を想定する際、過去の地震規模の平均値をそのまま使い、実際に発生する地震が平均より大きくなる可能性を考慮していない。
・原子力規制委員会の審議や判断には看過しがたい過誤や欠落があり、不合理。
・規制委が2017年5月に出した設置許可は違法で取り消す。
◇関西電力大飯原発3、4号機
1991年に3号機、93年に4号機が営業運転を開始。出力はともに118万キロワット。2011年の福島第1原発事故後に停止したが、12年7月、夏の電力需給安定のため、当時の民主党政権の判断で全国で唯一再稼働した。定期検査で13年9月に停止。新規制基準への適合が認められ、18年3月に3号機、同5月に4号機が再稼働した。現在は2基とも定期検査で停止中。
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原発訴訟は日本に原子力の灯が初めて点ってから絶えることなく続いているが、福島第1原発事故が起きるまで、住民側勝訴の裁判例が半世紀でわずか2例しかなかったことはよく知られている。福島第1原発事故後、裁判の「勝率」は大幅に上がったとはいえ、まだまだ住民側にとって勝つのが最も難しい裁判であることは言うまでもない。
過去、賠償訴訟や原発運転差し止め訴訟での住民側勝訴の例はあり、住民側勝訴の仮処分決定で稼働中の原発が止まったり、定期検査中の原発がそのまま稼働できなくなる例も出てきている。だが原発稼働の法的根拠となる設置許可そのものの取り消しを住民側が求め、それを認めたという判決は今回が初めてである。
今回の裁判は確定しなくても直ちに効力が発生する仮処分決定ではなく本判決であるため、確定しない限り拘束力は生じない。国が控訴して「係争状態」が続く限り、関西電力は大飯3・4号機の運転を続けられる。しかし、あくまでも「単発」的な運転差し止め訴訟と異なり、設置許可そのものが違法とされた今回のような判決がもし確定すれば、未来に渡って永久に原発運転が不可能となるため、電力会社、原発推進勢力に与える打撃は差し止め訴訟とは比較にならない。
判決要旨(脱原発弁護団全国連絡会ホームページ)はわずか4ページの短いもので、すぐ読めるのでぜひ読んでほしい。設置許可の根拠となる「基準地震動」を決めるに当たり、原子力規制委員会は電力会社が平均値さえ守れればよいものとして、平均値より大きな地震が来ることの想定自体をしていなかった。このような適当でずさんな規制基準には「看過し難い過誤、欠落」があった、と断じている。平均にそれより大きい数値があり得ることくらい、小中学生でも知っている。要するに規制委員会は仕事をしていないのである。
当ブログ管理人は、11月28日、札幌市内で開催された核のごみ反対集会で、樋口英明元裁判長の講演を聴く機会があった。樋口さんは、2014年5月、同じ大飯原発の運転差し止めを命じる画期的な判決を書いた。原発の燃料である天然ウランがほとんど輸入であるという事実から意図的に目を逸らし、石油火力発電に依存し続けることが「海外への国富の流出」などと寝言を続ける原発推進派に対し「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」との判決で痛打を浴びせた。
樋口さんは、この日の札幌での講演でも、700ガルという大飯原発の耐震基準が三井ホームのマンションの耐震基準よりも低いという驚くべき実態を訴えた。一度の事故で破局的な事態をもたらしかねない原発の耐震基準が民間マンションより低いという事実には、怒りを通り越して呆れるほかない。「再生エネルギーは不安定で実現不可能」と思い込んでいる人たちにこそこのずさんな実態を知ってほしいと当ブログは考える。風がやんだら発電が止まってしまうリスクは確かに自然エネルギーにはつきものだろう。しかし、それで日本全体が滅ぶようなことは起こり得ない。一方で、民間マンションが倒れないですむような軽微な地震(樋口さんは700ガルの揺れは震度6弱でもあり得る、とした)でも倒れるようなずさんな基準のまま運転を続ける原発を放置すれば、次の大地震で確実に日本は滅ぶだろう。それだけに、そうしたずさんな前提自体を「過誤、欠落」と断じた今回の判決は、確定に至らなくても大きな意義を持つのである。
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福井県や近畿地方の住民ら127人が、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について国の設置許可を取り消すよう求めた行政訴訟の判決で、大阪地裁は4日、許可を取り消した。森鍵一(もりかぎはじめ)裁判長は、原発が想定する地震の最大の揺れを示す「基準地震動」について、「原子力規制委員会の判断に看過しがたい過誤、欠落があり、設置許可は違法」と述べた。2011年の東京電力福島第1原発事故後、国の設置許可を否定する司法判断は初めて。
【大飯原発の設置許可取り消し 住民ら原告側勝訴】
国は関電などと協議し、控訴する方向で検討している。判決が確定しなければ許可取り消しの効力は発生しない。国による安全審査の妥当性が否定されたことで、他の原発にも影響を与える可能性がある。
耐震設計の目安となる「基準地震動」の妥当性が最大の争点だった。関電は原発周辺の地層の調査や過去の地震データなどから、基準地震動を856ガル(ガルは加速度の単位)と算定。規制委は17年5月、福島事故後に厳格化された新規制基準に適合するとして、設置許可を出していた。
判決は、関電が算定に使った計算式は過去の地震データの平均値に基づいており、実際に発生する地震は平均値からかけ離れて大きくなる可能性があったと指摘。耐震性を判断する際、想定する地震規模を上乗せして計算する必要があったのに、関電や規制委が「何ら検討しなかった」と批判。規制委の判断に「不合理な点がある」として設置許可を取り消した。
住民側は大飯原発3、4号機の基準地震動について、少なくとも現行の1・34倍の1150ガルになるとして、現在の原子炉では耐震性を満たしていないと主張していた。
住民側の弁護団は「全ての原発の基準地震動の設定に関する重大な問題。ただちに策定をやり直すべきだ」との声明を出した。
原子力規制庁は「裁判所の十分な理解が得られなかった。今後、関係省庁と協議の上、適切に対応する」とのコメントを出した。関電は「極めて遺憾で到底承服できない。国と協議の上、適切に対応する」としている。
原発の設置許可を巡る訴訟では、福井県敦賀市の高速増殖原型炉もんじゅ(廃炉)について、名古屋高裁金沢支部が03年、原子力安全委員会(当時)による審査に重大な誤りがあるとして設置許可を無効とする判決を出したが、05年の最高裁判決で覆された。【藤河匠】
◇大阪地裁判決(骨子)
・関西電力は大飯原発3、4号機の耐震性判断に必要な地震(基準地震動)を想定する際、過去の地震規模の平均値をそのまま使い、実際に発生する地震が平均より大きくなる可能性を考慮していない。
・原子力規制委員会の審議や判断には看過しがたい過誤や欠落があり、不合理。
・規制委が2017年5月に出した設置許可は違法で取り消す。
◇関西電力大飯原発3、4号機
1991年に3号機、93年に4号機が営業運転を開始。出力はともに118万キロワット。2011年の福島第1原発事故後に停止したが、12年7月、夏の電力需給安定のため、当時の民主党政権の判断で全国で唯一再稼働した。定期検査で13年9月に停止。新規制基準への適合が認められ、18年3月に3号機、同5月に4号機が再稼働した。現在は2基とも定期検査で停止中。
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原発訴訟は日本に原子力の灯が初めて点ってから絶えることなく続いているが、福島第1原発事故が起きるまで、住民側勝訴の裁判例が半世紀でわずか2例しかなかったことはよく知られている。福島第1原発事故後、裁判の「勝率」は大幅に上がったとはいえ、まだまだ住民側にとって勝つのが最も難しい裁判であることは言うまでもない。
過去、賠償訴訟や原発運転差し止め訴訟での住民側勝訴の例はあり、住民側勝訴の仮処分決定で稼働中の原発が止まったり、定期検査中の原発がそのまま稼働できなくなる例も出てきている。だが原発稼働の法的根拠となる設置許可そのものの取り消しを住民側が求め、それを認めたという判決は今回が初めてである。
今回の裁判は確定しなくても直ちに効力が発生する仮処分決定ではなく本判決であるため、確定しない限り拘束力は生じない。国が控訴して「係争状態」が続く限り、関西電力は大飯3・4号機の運転を続けられる。しかし、あくまでも「単発」的な運転差し止め訴訟と異なり、設置許可そのものが違法とされた今回のような判決がもし確定すれば、未来に渡って永久に原発運転が不可能となるため、電力会社、原発推進勢力に与える打撃は差し止め訴訟とは比較にならない。
判決要旨(脱原発弁護団全国連絡会ホームページ)はわずか4ページの短いもので、すぐ読めるのでぜひ読んでほしい。設置許可の根拠となる「基準地震動」を決めるに当たり、原子力規制委員会は電力会社が平均値さえ守れればよいものとして、平均値より大きな地震が来ることの想定自体をしていなかった。このような適当でずさんな規制基準には「看過し難い過誤、欠落」があった、と断じている。平均にそれより大きい数値があり得ることくらい、小中学生でも知っている。要するに規制委員会は仕事をしていないのである。
当ブログ管理人は、11月28日、札幌市内で開催された核のごみ反対集会で、樋口英明元裁判長の講演を聴く機会があった。樋口さんは、2014年5月、同じ大飯原発の運転差し止めを命じる画期的な判決を書いた。原発の燃料である天然ウランがほとんど輸入であるという事実から意図的に目を逸らし、石油火力発電に依存し続けることが「海外への国富の流出」などと寝言を続ける原発推進派に対し「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」との判決で痛打を浴びせた。
樋口さんは、この日の札幌での講演でも、700ガルという大飯原発の耐震基準が三井ホームのマンションの耐震基準よりも低いという驚くべき実態を訴えた。一度の事故で破局的な事態をもたらしかねない原発の耐震基準が民間マンションより低いという事実には、怒りを通り越して呆れるほかない。「再生エネルギーは不安定で実現不可能」と思い込んでいる人たちにこそこのずさんな実態を知ってほしいと当ブログは考える。風がやんだら発電が止まってしまうリスクは確かに自然エネルギーにはつきものだろう。しかし、それで日本全体が滅ぶようなことは起こり得ない。一方で、民間マンションが倒れないですむような軽微な地震(樋口さんは700ガルの揺れは震度6弱でもあり得る、とした)でも倒れるようなずさんな基準のまま運転を続ける原発を放置すれば、次の大地震で確実に日本は滅ぶだろう。それだけに、そうしたずさんな前提自体を「過誤、欠落」と断じた今回の判決は、確定に至らなくても大きな意義を持つのである。