スウェーデンは小国である。面積は45万平方メートルで、日本の1.2倍、ヨーロッパでは3番目の広さなのだが、人口は2008年現在わずか930万人にすぎない。神奈川県人口と変わらない。
小国は、こまわりがきく。この強みを活かして、スウェーデンはさまざまな社会実験をおこなってきた。1932年から1976年まで長期間政権の座にあった社会民主党が、スウェーデン社会の基本的枠組みを確立した。
実験の結果の一面が、「家族のあり方についてまじめに試行錯誤を続けてきた国スウェーデン」である。少子高齢化、女性の社会進出、家族の変容といった日本社会における「時代のキーワード」を考えるとき、スウェーデンの試行錯誤がとても参考になるし、パズルを解決する鍵になる、と著者はいう。
鍵の一、二を本書から拾いだしてみよう。
20歳から65歳までのスウェーデンの女性は、81%は就労している。零歳児をふくむ2人以上の子どもをもつ場合でも70%がフルタイムで働く。どうしてこれが可能なのか。
鍵となる第一は、おしなべて勤務時間が短いことだ。男性も同じなのだが、週35時間労働が基本で、残業は基本的にない。休暇もきちんととる。ちなみに、妊娠前後に2年間にちかい産休と育休が保証されている。
鍵となる第二は、子どもを持ちながら働く女性を支えるしくみがあり、そのしくみを支えるために働く女性が多数いることだ。スウェーデン女性が働く人数のもっとも多い職業は(1)看護師/看護助手、(2)幼稚園・保育園教師、(3)託児所職員である。男性と女性が均等に労働をシェアするとともに、女性が他の女性と互いに支えあうしくみになっている。
別の鍵を本書に探せば、サムボがある。事実婚といってもよいが、日本の事実婚または同棲と違って、スウェーデンの法律に明確に規定されている。婚姻との法的な区別、差別は一切ない。わずかに、「離婚」にあたって財産分割のしかたと養育権の行き先が婚姻の場合とはすこし異なるだけである。
スウェーデンの子どもたちの56%は、婚姻していないカップルから生まれる。
日本では、そしておそらく世界規模で「家族」をめぐる基本的社会構造が大きく変化しているのだが、スウェーデンでは如上のように柔軟な対応をしているのだ。
本書が伝えるスウェーデンの家族を別の面から見てみよう。
一見奇妙な現象が生じる。スウェーデンの家族は、子どもが2人からいきなり4人になったり6人になったりするのだ。
この謎を解くため、Mさんに登場していただこう。Mは最初のパートナーF1との間に2人の子どもC1、C2をもうけ、離婚する。C1、C2はF1とともに暮らすが、週末はMと過ごす。
Mは、パートナーF2と再婚するが、F2は前のパートナーとの間に2人子どもC3、C4をもうけているので、Mの子どもは合計4人になる。
F1の新しいパートナーとの間に子どもC5、C6が生まれた場合、これらの子どもたちがたまたま集まる週末には、M家の中にいる子どもは総計6人となる。
スウェーデンの全カップル中20%以上が、現在の同居相手以外との子どもを有するのだ。
ちなみに、スウェーデン人は18歳になると親から独立して住む。ただし、週末はサマーハウスに集まるので、親子関係は希薄ではない。反面、17歳までは親と同居するから、乳児院や養護施設は事実上まったく存在しない。
当然ながら、子どもが生まれないカップルもある。こうしたカップルがどうしても子どもがほしい場合、養子をむかえることになる。
スウェーデンでは、シングル女性が自ら育児することにほとんど不自由しなくなった。また、すくなくとも統計上は乳児院や養護施設がない。したがって、国内に養子をもとめることは、いまやあり得ない。
よって、養子は必然的に国際養子となる。養子の出身国は、コロンビア、韓国、ベトナム、エチオピア、ベネズエラなど世界中にひろがっている。基本的には私費で、滞在費用など最低でも数百万円の負担がある。にも拘わらず希望者は絶えない。しかし、養子を送りだす側は、ベターな選択をしているにすぎない。今後は、国際養子はいまよりも困難になるだろう、と著者は予測する。
【参考】石原理『生殖医療と家族のかたち -先進国スウェーデンの実践-』(平凡社新書、2010)
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小国は、こまわりがきく。この強みを活かして、スウェーデンはさまざまな社会実験をおこなってきた。1932年から1976年まで長期間政権の座にあった社会民主党が、スウェーデン社会の基本的枠組みを確立した。
実験の結果の一面が、「家族のあり方についてまじめに試行錯誤を続けてきた国スウェーデン」である。少子高齢化、女性の社会進出、家族の変容といった日本社会における「時代のキーワード」を考えるとき、スウェーデンの試行錯誤がとても参考になるし、パズルを解決する鍵になる、と著者はいう。
鍵の一、二を本書から拾いだしてみよう。
20歳から65歳までのスウェーデンの女性は、81%は就労している。零歳児をふくむ2人以上の子どもをもつ場合でも70%がフルタイムで働く。どうしてこれが可能なのか。
鍵となる第一は、おしなべて勤務時間が短いことだ。男性も同じなのだが、週35時間労働が基本で、残業は基本的にない。休暇もきちんととる。ちなみに、妊娠前後に2年間にちかい産休と育休が保証されている。
鍵となる第二は、子どもを持ちながら働く女性を支えるしくみがあり、そのしくみを支えるために働く女性が多数いることだ。スウェーデン女性が働く人数のもっとも多い職業は(1)看護師/看護助手、(2)幼稚園・保育園教師、(3)託児所職員である。男性と女性が均等に労働をシェアするとともに、女性が他の女性と互いに支えあうしくみになっている。
別の鍵を本書に探せば、サムボがある。事実婚といってもよいが、日本の事実婚または同棲と違って、スウェーデンの法律に明確に規定されている。婚姻との法的な区別、差別は一切ない。わずかに、「離婚」にあたって財産分割のしかたと養育権の行き先が婚姻の場合とはすこし異なるだけである。
スウェーデンの子どもたちの56%は、婚姻していないカップルから生まれる。
日本では、そしておそらく世界規模で「家族」をめぐる基本的社会構造が大きく変化しているのだが、スウェーデンでは如上のように柔軟な対応をしているのだ。
本書が伝えるスウェーデンの家族を別の面から見てみよう。
一見奇妙な現象が生じる。スウェーデンの家族は、子どもが2人からいきなり4人になったり6人になったりするのだ。
この謎を解くため、Mさんに登場していただこう。Mは最初のパートナーF1との間に2人の子どもC1、C2をもうけ、離婚する。C1、C2はF1とともに暮らすが、週末はMと過ごす。
Mは、パートナーF2と再婚するが、F2は前のパートナーとの間に2人子どもC3、C4をもうけているので、Mの子どもは合計4人になる。
F1の新しいパートナーとの間に子どもC5、C6が生まれた場合、これらの子どもたちがたまたま集まる週末には、M家の中にいる子どもは総計6人となる。
スウェーデンの全カップル中20%以上が、現在の同居相手以外との子どもを有するのだ。
ちなみに、スウェーデン人は18歳になると親から独立して住む。ただし、週末はサマーハウスに集まるので、親子関係は希薄ではない。反面、17歳までは親と同居するから、乳児院や養護施設は事実上まったく存在しない。
当然ながら、子どもが生まれないカップルもある。こうしたカップルがどうしても子どもがほしい場合、養子をむかえることになる。
スウェーデンでは、シングル女性が自ら育児することにほとんど不自由しなくなった。また、すくなくとも統計上は乳児院や養護施設がない。したがって、国内に養子をもとめることは、いまやあり得ない。
よって、養子は必然的に国際養子となる。養子の出身国は、コロンビア、韓国、ベトナム、エチオピア、ベネズエラなど世界中にひろがっている。基本的には私費で、滞在費用など最低でも数百万円の負担がある。にも拘わらず希望者は絶えない。しかし、養子を送りだす側は、ベターな選択をしているにすぎない。今後は、国際養子はいまよりも困難になるだろう、と著者は予測する。
【参考】石原理『生殖医療と家族のかたち -先進国スウェーデンの実践-』(平凡社新書、2010)
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