語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『あなたに似た人』

2010年07月29日 | 小説・戯曲
 奇妙な人物の話ばかり15編集めた短編集である。
 奇妙とはいえ、こんな人物なら誰しも一度くらい出くわしたことがありそうだ。あなただって、奇妙な人物と思われているかもしれない。ということで、総タイトルは「あなたに似た人」。
 たとえば、『味』。

 男は、金持ちの友人マイク・スコウフィールド一家の晩餐に招かれた。株式仲買人のマイクは自宅に貯蔵するワインを鼻にかけている。同席した美食家プラットは、マイクの虚栄心に乗じて賭に誘いこんだ。マイクが自慢するワインの産地をあてたらマイクの娘をいただく、負けたら2軒の別荘を提供しよう、と。
 珍しいワインだから、あたりっこない、とマイク。
 万が一もある、と彼の妻と娘はやきもきする。
 マイクの倨傲、その家族の抵抗と欲。
 そして、一見紳士的なプラットのしたたかぶり。
 プラットはひと口ごとに正確に産地を特定していく。
 食卓だけを舞台にサスペンスがじょじょに高まっていく。

 賭けに憑かれた人々の狂気めいた執念、賭けがもたらす緊張が、賭になじみのない読者にも伝わってくる。読者を軽く戦慄させる小さなどんでん返しがあって、最後にドカンと大きなどんでん返しが読者を待ち受けている。
 省略のきいた文章だ。その先を知るのは怖い、こわいけれども知りたい、知らなくても想像できる・・・・そんな場面はあっさりと読者の想像に委ねてしまうのだ。

□ロアルド・ダール(田村隆一訳)『あなたに似た人』(ハヤカワ文庫、1976)
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