語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか

2010年07月26日 | 心理
 べらぼうに面白い本である。
 訳者あとがきから引こう。
 「記憶は私たちの関心を惹きつけて止まない。なぜなら、ある意味で、記憶とは人間そのものだからである。記憶を失うと、文字通り『私は誰?』ということになる。『私は私だ』といい切れるのは記憶があるおかげなのだ。つまり、記憶が私たちの存在を支えているわけだが、記憶というのは一筋縄ではいかない代物だ。『絶対に覚えておこう』と思ってもすぐに忘れてしまったり、『忘れたい』と思ってもどうしても忘れられなかったりする」

 「なぜ私たちは、逆方向にではなく順方向に思い出すのか」「なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか」といった章題をみて、「おお!」と興味をそそられた読者も多いのではないか。

 なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか。
 10歳の子どもにとって1年は一生の10分の1だから長く感じ、60歳の人にとっては60分の1だから短く感じるのだ。
 ・・・・これは、130年前にピエール・ジャネが立てた説である。
 ジャネは、フランスの精神医学者、心理学者である。まことに明快な説明だが、本書は異論を立てる。 

 ところで、本書第14章で奇妙な実験を紹介している。
 心理学者ツヴァーンは、イスラエルで、右から左へ書かれるヘブライ語を母語とする被験者を対象に、二つのカードを提示した。ほとんどの被験者は、「前」を表すカードを「後」をあらわすカードの左に置いた。オランダでの同じ実験でも、被験者のほぼ全員が「前」を表すカードを「後」をあらわすカードの左に置いた。
 時間は左から右へ動く、という感覚なのである。

 「日常会話もまた、時間に方向性を与えるだけでなく、時間に速度や伸縮性を与える。時間はゆっくり進んだり、飛んだり、速くなったり、止まったままだったりするし、伸びたり、縮んだり、拡張したりもする。思考や会話のなかの時間は空間を満たし、時間の経験が空間の経験と一致しうるという事実は、(中略)彼らは三人とも、遠近法の法則を自分の内的知覚に応用した。だが実験においても、それと同じ時間と空間との類推が見られる」
 彼ら三人とは、ジャン=マリ・ギュイヨー、マルセル・プルースト、トーマス・マンである。

【参考】ダウエ・ドラーイスマ(鈴木晶訳)『なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか -記憶と時間の心理学-』(講談社、2009)
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コメント (2)
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