語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】本読みの達人が選んだ「この3冊」 ~SF、ミステリー、SFミステリー~

2010年07月22日 | 批評・思想
 あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し梅雨が明けたとたんに、炎帝が君臨する日々となった。
 たちまち豆腐状態になった大脳新皮質にとって、読むのは軽めの本がよい。
 軽い本といえば、ミステリーかSF。どちらがよいだろうか、と悩めばビュリダンの驢馬となる。

 さいわい、斯界には両者を総合したSFミステリーというジャンルがある。
 『本読みの達人が選んだ「この3冊」』で、評論家の瀬戸川猛資が選ぶ「SFミステリー」のベスト・スリーは、①『はだかの太陽』(アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫SF)、②『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン/創元SF文庫)、③『継ぐのは誰か?』(小松左京/ジャストシステム)。
 昔からSFは、ミステリーと切っても切れない関係にあったらしい。
 瀬戸川猛資、たとえば『はだかの太陽』を評していわく、「不可能興味の謎解き小説。メイン・トリックは単純明快、探偵小説ファンの琴線に触れるものである」。

 ちょい待ち、ミステリーはミステリーなのだよ、とジャンルの独立を標榜する向きもあるかもしれない。
 『本読みの達人が選んだ「この3冊」』で、科学史家・科学哲学者にして国際基督教大学教授の村上陽一郎が選ぶ「女と男の探偵小説」のベスト・スリーは、①『女には向かない職業』(P・D・ジェイムズ/ハヤカワ・ミステリ文庫)、②『ダウンタウン・シスター』(サラ・パレッキー/ハヤカワ・ミステリ文庫)、③『初秋』(ロバート・B・パーカー/ハヤカワ・ミステリ文庫。
 村上陽一郎、たとえば『ダウンタウン・シスター』を評していわく、「男性の庇護的なパターナリズムに抵抗するために、身体を張って戦うことを生きがいにしたハードボイルド的な女探偵が主役である。(中略)ウォーショースキーに典型的なフェミニズムは、男性の探偵にも屈折した形で陰を落としている」。

 SFにも同様の立場をとる人がいるらしい。
 『本読みの達人が選んだ「この3冊」』で、SF評論家にして慶応大学助教授(当時)の巽孝之が選ぶ「現代日本のSF」のベスト・スリーは、①『白壁の文字は夕陽に映える』(荒巻義雄/早川書房/絶版)、②『日本沈没』(小松左京/光文社文庫)、『メンタル・フィメール』(大原まり子/ハヤカワ文庫)。
 これらは、シュールレアリスムの系譜を継ぐ内宇宙の探究をめざし、英国で発生したニューウェーブ運動の日本版である・・・・らしい。
 巽孝之、たとえば『日本沈没』を評していわく、「阪神大震災と関連して語られることが多いけれど、じっさいには日本人のユダヤ人的民族離散という重いテーマで高度成長期日本の国際化要請に深い思索をめぐらし、日本独自のSF的可能性を確立した一冊」。

【参考】丸谷才一編『本読みの達人が選んだ「この3冊」』(毎日新聞社、1998)
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