全世界的に財政赤字という妖怪が徘徊している。
これは、経済危機で税収が落ちこみ、他方で各国政府が危機対応策をとったことの後遺症だ。
ギリシャのみならず、スペインの財政も急激に悪化しているし、ハンガリーの問題も深刻らしい。イギリスでも、2009年度末の財政赤字の対GDP比がギリシャを上回る12.7%以上だ。アメリカの財政赤字も拡大し、対GDP比で戦後最悪の10.0%となった(前年度の3.2%から大幅な上昇)。
日本の財政赤字がきわめて深刻であることは言うまでもない。
今後の世界は、長期にわたって巨額の国債残高に攪乱されることになる。未曾有の事態である。
IMFは、2010年5月14日、各国の財政状況を分析した報告書を公表した。通常言及される単年度の赤字より重要なのは、この報告書が対象としている債務残高だ。
注目するべき第一は、どの国でも、残高の隊GDP比が顕著に上昇したことだ。G7平均では、危機前には70~80%程度であったものが、90%を超える事態になった。
日本は、1970年代中頃まではきわめて低い水準にあったが、1980年代には50%を超え、1990年代からは100%を超えて推移している。2010年では227%だ。他の国より飛び抜けて高い。
債務の定義は一様ではないので注意が必要だが、財務省の資料では国の普通国債残高の対GDP比は134%、国と地方の長期債務残高は181%である。
IMFの報告書は提言した、各国は遅くとも2011年には財政再建に着手するべきだ、と。日本は歳出抑制と増税が必要だとしている。消費税を5%から10%に引き上げれば、GDPの2.6%に相当する税収が得られるとしている。
「ここでの分析は、菅直人首相の消費税増税発言や、六月下旬のG20における財政赤字削減目標の基礎になったものと考えられる」
国債残高が巨額だと、(1)残高を縮小できないし、(2)インフレによって経済活動が混乱する可能性がある。(3)(2)とはならなくとも巨額の国債残高は経済活動を圧迫する。
ただし、事はさほど簡単ではないし、日本では現実に問題が発生しているわけではないのでわかりにくい。国債発行が過大なら金利が上昇するはずなのだが、日本ではこの事態は起きていないし、アメリカでも長期金利は下落している。
しかし、日本で問題が深刻化しているのは事実だ。資本蓄積が阻害されているからだ(民間設備投資・公的投資が低水準)。
この結果、資本不足経済の生産力はきわめて低水準に落ちこむであろう。
ところが、金利高騰が起きていないので、問題が認識されにくい。ために、国債発行の削減について合意を形成しにくい。増税も歳出削減も、選挙を意識せざるをえない政治家は避けて通ろうとする。
増税は、短期的には明らかに経済にネガティブな影響を与える。消費税を増税しても、単年度の赤字は減るが、残高がただちに減るわけではない。
日本のグロスの残高の対GDP比は200%を超え、さらに増加しつづける。人類がこれまで経験したことのない事態である。そこに何が起こるか、はっきりわからない点が多い。
【参考】野口悠紀雄『「超」整理日記No.521』(「週刊ダイヤモンド」2010年7月24日号、所収)
↓クリック、プリーズ。↓
これは、経済危機で税収が落ちこみ、他方で各国政府が危機対応策をとったことの後遺症だ。
ギリシャのみならず、スペインの財政も急激に悪化しているし、ハンガリーの問題も深刻らしい。イギリスでも、2009年度末の財政赤字の対GDP比がギリシャを上回る12.7%以上だ。アメリカの財政赤字も拡大し、対GDP比で戦後最悪の10.0%となった(前年度の3.2%から大幅な上昇)。
日本の財政赤字がきわめて深刻であることは言うまでもない。
今後の世界は、長期にわたって巨額の国債残高に攪乱されることになる。未曾有の事態である。
IMFは、2010年5月14日、各国の財政状況を分析した報告書を公表した。通常言及される単年度の赤字より重要なのは、この報告書が対象としている債務残高だ。
注目するべき第一は、どの国でも、残高の隊GDP比が顕著に上昇したことだ。G7平均では、危機前には70~80%程度であったものが、90%を超える事態になった。
日本は、1970年代中頃まではきわめて低い水準にあったが、1980年代には50%を超え、1990年代からは100%を超えて推移している。2010年では227%だ。他の国より飛び抜けて高い。
債務の定義は一様ではないので注意が必要だが、財務省の資料では国の普通国債残高の対GDP比は134%、国と地方の長期債務残高は181%である。
IMFの報告書は提言した、各国は遅くとも2011年には財政再建に着手するべきだ、と。日本は歳出抑制と増税が必要だとしている。消費税を5%から10%に引き上げれば、GDPの2.6%に相当する税収が得られるとしている。
「ここでの分析は、菅直人首相の消費税増税発言や、六月下旬のG20における財政赤字削減目標の基礎になったものと考えられる」
国債残高が巨額だと、(1)残高を縮小できないし、(2)インフレによって経済活動が混乱する可能性がある。(3)(2)とはならなくとも巨額の国債残高は経済活動を圧迫する。
ただし、事はさほど簡単ではないし、日本では現実に問題が発生しているわけではないのでわかりにくい。国債発行が過大なら金利が上昇するはずなのだが、日本ではこの事態は起きていないし、アメリカでも長期金利は下落している。
しかし、日本で問題が深刻化しているのは事実だ。資本蓄積が阻害されているからだ(民間設備投資・公的投資が低水準)。
この結果、資本不足経済の生産力はきわめて低水準に落ちこむであろう。
ところが、金利高騰が起きていないので、問題が認識されにくい。ために、国債発行の削減について合意を形成しにくい。増税も歳出削減も、選挙を意識せざるをえない政治家は避けて通ろうとする。
増税は、短期的には明らかに経済にネガティブな影響を与える。消費税を増税しても、単年度の赤字は減るが、残高がただちに減るわけではない。
日本のグロスの残高の対GDP比は200%を超え、さらに増加しつづける。人類がこれまで経験したことのない事態である。そこに何が起こるか、はっきりわからない点が多い。
【参考】野口悠紀雄『「超」整理日記No.521』(「週刊ダイヤモンド」2010年7月24日号、所収)
↓クリック、プリーズ。↓