(1)法人の課税所得
課税所得と企業会計上の利益は同一ではない。一部、企業会計上の所得より課税所得を増やす要因もあるが、多くは課税所得を減らす要因として働く。
例:法人税では損失を7年間繰り延べできる。→現在、主要な金融機関は法人税を払っていない。今後、今回の経済危機で大損失を受けた製造業の大企業は、法人税を負担しない企業が増えるだろう。
各種引当金、準備金も利益を減らすように働く。
課税所得は企業会計上の所得に比べて圧縮されている。不況期には特に圧縮度が高まるようだ。
加えて租税特別措置がある。特に重要なのは試験研究費の税額控除制度だ。この制度によって、トヨタ自動車の納税額は、2007年3月期に約760億円、2008年3月期に約822億円減少した、といわれる。
このほかに外国税額控除がある(二重課税排除のための措置)。総合商社では、これがかなり納税額を減少させている。
(2)法人税の影響
法人税について最も一般的な誤解は、法人税負担が企業のコストを高めている、というものだ。
しかし、法人税は利益にかかるものだから、企業にとってのコストにはならない。
法人税の影響があるとすれば、企業が行う投資や企業に対する投資の税引き後収益率が変化するため、他の経済活動との関係で相対的な有利性が変化することに伴うものだ。しかし、これについては慎重な検討が必要だ。
(ア)企業が行う設備投資に対する法人税の影響
支払い利子は損金算入できる。
これを考慮すると、税引き後の投資収益率は法人税率に無関係・・・・という結論が得られる。
なお、現在、日本で設備投資が低迷しているのは、法人税の影響ではなく、投資の収益率が低下しているからである。
(イ)株式投資に対する収益率
個人に対する配当課税も併せて考える必要がある。
●日本:20%、英国:32.5%、仏国30.1%。
仮に日本の法人税率が高いとしても、配当課税率が低いことでオフセットされている。
なお、受取配当の益金不算入措置が採られている。法人税と所得税の二重課税を防ぐための措置なので、本来は個人株主に限って適用するべきものだ。日本の場合、法人間の株の持ち合いが多いので、法人の税負担を軽減している。
(3)日本企業の利益率
低い。これは法人税率とは関係ない現象だ。
法人税率と経済活性化とはあまり関係がない。
(4)企業の海外流出
法人税とは無関係だ。
日本は全世界所得課税・外国税額控除方式を採っているため、生産拠点を法人税率が低い海外に移したところで、最終的な法人税負担を軽減できないからだ。
(5)企業の海外流出の真因
日本の賃金が新興国に比べて高いからだ。
問題があるとすれば、社会保険料の雇用主負担だ。利益の有無にかかわらず企業の負担となるから、重要なコスト要因となる。そして、雇用主負担は法人税負担とほぼ同じ規模になっている。
ただし、日本の企業の負担率は、米国より高いが、独仏よりは低い。
また、雇用主負担が経済的にみて本当に企業の負担なのか、議論の余地がある(それだけ賃金を引き下げている可能性がある)。
(6)外国からの直接投資
法人税が外国からの直接投資の流入を抑制している可能性はある。
ただし、これも表面利益では判断できない。
これに関してなによりも大きな問題となるのは、日本国内での利益率の低さだ。
(7)結論
法人税率を引き下げたところで、なんの経済効果もない。
少なくとも、日本経済の起死回生策にならないのは確かだ。
【参考】野口悠紀雄「法人税率引き下げは経済を活性化しない ~「超」整理日記No.531~」(「週刊ダイヤモンド」2010年10月9日号所収)
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課税所得と企業会計上の利益は同一ではない。一部、企業会計上の所得より課税所得を増やす要因もあるが、多くは課税所得を減らす要因として働く。
例:法人税では損失を7年間繰り延べできる。→現在、主要な金融機関は法人税を払っていない。今後、今回の経済危機で大損失を受けた製造業の大企業は、法人税を負担しない企業が増えるだろう。
各種引当金、準備金も利益を減らすように働く。
課税所得は企業会計上の所得に比べて圧縮されている。不況期には特に圧縮度が高まるようだ。
加えて租税特別措置がある。特に重要なのは試験研究費の税額控除制度だ。この制度によって、トヨタ自動車の納税額は、2007年3月期に約760億円、2008年3月期に約822億円減少した、といわれる。
このほかに外国税額控除がある(二重課税排除のための措置)。総合商社では、これがかなり納税額を減少させている。
(2)法人税の影響
法人税について最も一般的な誤解は、法人税負担が企業のコストを高めている、というものだ。
しかし、法人税は利益にかかるものだから、企業にとってのコストにはならない。
法人税の影響があるとすれば、企業が行う投資や企業に対する投資の税引き後収益率が変化するため、他の経済活動との関係で相対的な有利性が変化することに伴うものだ。しかし、これについては慎重な検討が必要だ。
(ア)企業が行う設備投資に対する法人税の影響
支払い利子は損金算入できる。
これを考慮すると、税引き後の投資収益率は法人税率に無関係・・・・という結論が得られる。
なお、現在、日本で設備投資が低迷しているのは、法人税の影響ではなく、投資の収益率が低下しているからである。
(イ)株式投資に対する収益率
個人に対する配当課税も併せて考える必要がある。
●日本:20%、英国:32.5%、仏国30.1%。
仮に日本の法人税率が高いとしても、配当課税率が低いことでオフセットされている。
なお、受取配当の益金不算入措置が採られている。法人税と所得税の二重課税を防ぐための措置なので、本来は個人株主に限って適用するべきものだ。日本の場合、法人間の株の持ち合いが多いので、法人の税負担を軽減している。
(3)日本企業の利益率
低い。これは法人税率とは関係ない現象だ。
法人税率と経済活性化とはあまり関係がない。
(4)企業の海外流出
法人税とは無関係だ。
日本は全世界所得課税・外国税額控除方式を採っているため、生産拠点を法人税率が低い海外に移したところで、最終的な法人税負担を軽減できないからだ。
(5)企業の海外流出の真因
日本の賃金が新興国に比べて高いからだ。
問題があるとすれば、社会保険料の雇用主負担だ。利益の有無にかかわらず企業の負担となるから、重要なコスト要因となる。そして、雇用主負担は法人税負担とほぼ同じ規模になっている。
ただし、日本の企業の負担率は、米国より高いが、独仏よりは低い。
また、雇用主負担が経済的にみて本当に企業の負担なのか、議論の余地がある(それだけ賃金を引き下げている可能性がある)。
(6)外国からの直接投資
法人税が外国からの直接投資の流入を抑制している可能性はある。
ただし、これも表面利益では判断できない。
これに関してなによりも大きな問題となるのは、日本国内での利益率の低さだ。
(7)結論
法人税率を引き下げたところで、なんの経済効果もない。
少なくとも、日本経済の起死回生策にならないのは確かだ。
【参考】野口悠紀雄「法人税率引き下げは経済を活性化しない ~「超」整理日記No.531~」(「週刊ダイヤモンド」2010年10月9日号所収)
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