10月6日、スウェーデン王立科学アカデミーは発表した。今年のノーベル化学賞受賞者は、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、鈴木章・北海道大名誉教授(80)など3名である・・・・。
だから、というわけではないが、以下「「超」整理日記No.524」の要旨。
(1)ストック
所得などのフローを生み出すのはストックだ。一国経済の長期的なパフォーマンスを決めるのは、国が保有するストックの量と質だ。
財政赤字の論議においても、本当に重要なのはストック、つまり国債残高である。
消費税税率引き上げなどで増税すれば、単年度の赤字はたしかに縮小する。フロー面での問題は解決される。
しかし、既発行国債の残高はそのままだ。ストック面ではただちには改善しない。金融機関は巨額の国債を抱えたままだ。
いまの日本では、金融機関の資産のうちで企業貸付が減少し、国債が増えている。
(2)国債
国債の価値を支えている要因は確実ではない。
企業への貸付は、企業の生産設備に対応している。それは製品を生産して収益を生み出す。これが貸付資産の価値を支えている。
国債の場合も建設国債であれば、社会資本に対応している。将来の生産力に寄与する。
しかし、現存の国債の大部分は赤字国債である。消費支出や移転支出に充当される。赤字国債には対応する資産がない。その資産価値を支えているのは、将来時点での国の税収だけだ。しかし、国全体の生産力が落ちれば、将来の税収も落ちる。
いまの国債残高の多くは、資産価値の根拠が不確実なのだ。
企業に対する貸付と異なって、国の場合は将来の政治状況にも依存するので返済能力を確実に評価できない。しかも、国債は単一の資産なので、条件が悪化すればすべてが劣化する。国の返済能力に少しでも疑問が生じれば、国債の価値は下落し、金融機関の資産が大きく劣化する。
(3)クラウディングアウト
国債発行に伴って利子率が上昇し、その結果民間設備投資が「追い出される」(クラウディングアウト)現象が問題だ。なぜなら、設備投資が減少する結果、生産設備のストックが(クラウディングアウトがない場合に比べて)減少するからだ。
いまの日本にクラウディングアウトは起きていない。日本における国債の消化には何の問題も生じていない。金融機関の資産中で企業貸し出しが減少しているからだ。「生産設備のストック現象」はクラウディングアウトの場合と同じように生じているのだ。
(4)資本の劣化
企業に対する貸付が減少し、半面、国債だけが増加している・・・・これを日本全体のストックの観点からみると、経済的に価値ある資産が減少し、価値の源泉が明らかでない資産が増大していることになる。「資本の劣化」が進行している。
しかも、設備投資が回復しないので、資本ストックが全体として減少しつつある。そして、社会資本のストックも劣化している。公共事業予算が削減されて新規のストックが形成されていないからだ。
国債の順調な消化、公共事業予算の削減は、日本経済をストック面からみると、事態の悪化を示す。
ストックが劣化すれば、将来の生産力は低下する。よって、税収も低下する。したがって、国債を償還できる可能性も低下する。国債の価値は潜在的に低下しつつあるのだ。
(5)人的資本
人的資本は物的資本と組み合わされて生産物を生み出す。
人的資本は、経済統計ではストックとは見なされていない。しかし、ストックを広義にとらえれば、これはきわめて重要なものである。
物的ストックが減少しても、人的ストックがあれば、それを補うことができる。特に、いまの世界では、物的ストックがあまりなくとも高い生産性を上げられる経済活動(例:先端金融企業や先端的IT産業)が進展している。農業や製造業が経済活動の中心だった時代に比べて、格段と高まっている。
いまの日本で人的ストックはもっとも重要な経済ストックだ。
日本の人口減少、したがって人的ストックの減少に対処することは可能である。
第一、移民を自由化して、人的ストックの量を増やす。
第二、教育投資を通じて、人的ストックの質を向上させる。特に重要なのは、専門的能力をもつ人材の育成だ。
量的拡大と質的向上は、どちらも必要だ。
介護のような対人サービスは、量的な確保が中心課題となる。しかし、こういう分野だけが拡大すると、日本経済の生産性は落ちてしまう。所得水準の低下は不可避だ。
したがって、生産性の高い専門的サービス産業を拡大する必要がある。それには質的向上が不可欠だ。
現実には、どちらも行われていない。
量的拡大面では、介護分野における外国人導入に消極的対応が続いている。
質的向上面では、2010年度予算で子ども手当や高校無償化のバラマキ支出は増えたが、人的ストックの質の向上に寄与するものではない。
【参考】野口悠紀雄「ストック劣化対処は人的資本の増強で ~「超」整理日記No.524~」(「週刊ダイヤモンド」2010年8月14・21日号所収)
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【BC書評】
だから、というわけではないが、以下「「超」整理日記No.524」の要旨。
(1)ストック
所得などのフローを生み出すのはストックだ。一国経済の長期的なパフォーマンスを決めるのは、国が保有するストックの量と質だ。
財政赤字の論議においても、本当に重要なのはストック、つまり国債残高である。
消費税税率引き上げなどで増税すれば、単年度の赤字はたしかに縮小する。フロー面での問題は解決される。
しかし、既発行国債の残高はそのままだ。ストック面ではただちには改善しない。金融機関は巨額の国債を抱えたままだ。
いまの日本では、金融機関の資産のうちで企業貸付が減少し、国債が増えている。
(2)国債
国債の価値を支えている要因は確実ではない。
企業への貸付は、企業の生産設備に対応している。それは製品を生産して収益を生み出す。これが貸付資産の価値を支えている。
国債の場合も建設国債であれば、社会資本に対応している。将来の生産力に寄与する。
しかし、現存の国債の大部分は赤字国債である。消費支出や移転支出に充当される。赤字国債には対応する資産がない。その資産価値を支えているのは、将来時点での国の税収だけだ。しかし、国全体の生産力が落ちれば、将来の税収も落ちる。
いまの国債残高の多くは、資産価値の根拠が不確実なのだ。
企業に対する貸付と異なって、国の場合は将来の政治状況にも依存するので返済能力を確実に評価できない。しかも、国債は単一の資産なので、条件が悪化すればすべてが劣化する。国の返済能力に少しでも疑問が生じれば、国債の価値は下落し、金融機関の資産が大きく劣化する。
(3)クラウディングアウト
国債発行に伴って利子率が上昇し、その結果民間設備投資が「追い出される」(クラウディングアウト)現象が問題だ。なぜなら、設備投資が減少する結果、生産設備のストックが(クラウディングアウトがない場合に比べて)減少するからだ。
いまの日本にクラウディングアウトは起きていない。日本における国債の消化には何の問題も生じていない。金融機関の資産中で企業貸し出しが減少しているからだ。「生産設備のストック現象」はクラウディングアウトの場合と同じように生じているのだ。
(4)資本の劣化
企業に対する貸付が減少し、半面、国債だけが増加している・・・・これを日本全体のストックの観点からみると、経済的に価値ある資産が減少し、価値の源泉が明らかでない資産が増大していることになる。「資本の劣化」が進行している。
しかも、設備投資が回復しないので、資本ストックが全体として減少しつつある。そして、社会資本のストックも劣化している。公共事業予算が削減されて新規のストックが形成されていないからだ。
国債の順調な消化、公共事業予算の削減は、日本経済をストック面からみると、事態の悪化を示す。
ストックが劣化すれば、将来の生産力は低下する。よって、税収も低下する。したがって、国債を償還できる可能性も低下する。国債の価値は潜在的に低下しつつあるのだ。
(5)人的資本
人的資本は物的資本と組み合わされて生産物を生み出す。
人的資本は、経済統計ではストックとは見なされていない。しかし、ストックを広義にとらえれば、これはきわめて重要なものである。
物的ストックが減少しても、人的ストックがあれば、それを補うことができる。特に、いまの世界では、物的ストックがあまりなくとも高い生産性を上げられる経済活動(例:先端金融企業や先端的IT産業)が進展している。農業や製造業が経済活動の中心だった時代に比べて、格段と高まっている。
いまの日本で人的ストックはもっとも重要な経済ストックだ。
日本の人口減少、したがって人的ストックの減少に対処することは可能である。
第一、移民を自由化して、人的ストックの量を増やす。
第二、教育投資を通じて、人的ストックの質を向上させる。特に重要なのは、専門的能力をもつ人材の育成だ。
量的拡大と質的向上は、どちらも必要だ。
介護のような対人サービスは、量的な確保が中心課題となる。しかし、こういう分野だけが拡大すると、日本経済の生産性は落ちてしまう。所得水準の低下は不可避だ。
したがって、生産性の高い専門的サービス産業を拡大する必要がある。それには質的向上が不可欠だ。
現実には、どちらも行われていない。
量的拡大面では、介護分野における外国人導入に消極的対応が続いている。
質的向上面では、2010年度予算で子ども手当や高校無償化のバラマキ支出は増えたが、人的ストックの質の向上に寄与するものではない。
【参考】野口悠紀雄「ストック劣化対処は人的資本の増強で ~「超」整理日記No.524~」(「週刊ダイヤモンド」2010年8月14・21日号所収)
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【BC書評】