語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、無利子国債・証券化は朝三暮四の猿向け施策 ~「超」整理日記No.533~

2010年10月17日 | ●野口悠紀雄
(1)2010年度補正予算
 編成が始まったいま、5兆円の追加が考えられているが、財源手当てがはっきりしない。
 これまで「埋蔵金」が使われることが多かったが、尽きてきた。
 政府紙幣、無利子国債、国有財産の証券化などが議論されているが、非正当的な「奇策」である。国債発行、増税などの正統的手段に比べてなんの利点もない。財政が抱える深刻な問題を覆い隠すという意味で害悪をまきちらす。

(2)無利子国債
 利子がゼロでは、買う人がいなくなる。購入者になんらかの恩典を与える必要がある。保有者に対する相続税の免除が考えられているようだ。
 しかし、将来の相続税収入の先食いという点で、国債と同じである。
 しかも、利子支払いがなくなっても、税収入が減る。利子喪失分より相続税免除額が大きければ(そうでなければ買わない)、国庫収入はネットでマイナスになるのだ。

(3)国有財産の証券化
 原理的にはいかなる資産も証券化できる。ただし、そのためには絶対に必要な条件がある。対象資産が現金収入(キャッシュフロー)をもたらすことだ。それがないと、証券化商品の利払いができない。
 この点で、国有財産には大きな問題がある。現金収入をもたらす資産はあまり多くないからだ。
 現金収入をもたらす国有財産もある。しかし、それらを証券化すると、国庫の収入が減る。
 証券化は、将来の収入の先食いであって、通常の国債と同じ機能である。

(4)朝三暮四
 奇策の経済的効果は、国債と同じである。
 しかし、一見国債を増発せずに問題が解決されたかのような錯覚に陥る。問題の隠蔽である。
 国債増発は世論の批判にさらされる。そこで政府は、埋蔵金を使った。経済的には国債増発と同じことなのだが、(強い)批判はなかった。中国の故事、「朝三暮四」そのままだ。
 味をしめた政府は、猿向けの奇策を採って、この予算編成だけしのげばよい、と考えているのか? だとすると、国民を愚弄している。
 あるいは、本当に有効な方法だと考えているのか? だとすると、政府の知的レベルは救いがたい。

(5)非正統的財源調達手段の他の問題
 基礎年金の国庫負担引き上げに年金積立金を使うことが検討されている。しかし、これは国庫負担率引き上げの趣旨に反する。
 年金財政逼迫の解消策として、保険料の引き上げや給付削減という年金制度「内」の施策をとれば、保険料支払者や受給者の負担が増える。だから、国庫負担という年金制度「外」の方策を求めた。
 ところが、そのための財源を年金積立金に求めるのでは、「元の木阿弥」である。負担は年金制度「内」に戻ってしまう。
 精神が錯乱しているとしか、言いようはない。
 財源手当てを怠ってきたのは、自民党も民主党も同じだ。しかし、民主党は子ども手当などのバラマキを増やしている。

(6)「政治主導」
 予算編成における「政治主導」とは、財政運営のビジョンを明確にすることだ。
 子ども手当や農家個別所得補償などマニフェスト関連施策を継続して財政破綻を導くのか?
 年金はどうするのか?
 恒久的財源は、消費税なのか、他の税目なのか?
 これらに対する明確な方向付けを示すことこそが、「政治主導」である。

【参考】野口悠紀雄「無利子国債・証券化は朝三暮四の猿向け施策 ~「超」整理日記No.533~」(「週刊ダイヤモンド」2010年10月23日号所収)

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コメント (2)
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