ミシェル・フーコーを下敷きにした天田城介の議論はすこぶる難解である。まとめの部分、
(1)戦後日本社会の偶発的な歴史的・経済的条件により可能となった「労働・雇用体制」のもとで、性別分業体制が形成された。
(2)かかる体制は、過剰な労働力供給状態のもとで、労働力の調整を可能にし、労務管理を容易にした側面があった。
(3)この体制によって、非正規労働市場が形成されてきた。
(4)かかる「労働・雇用体制」を徹底的に優先した保障の、残余(「保障の残余」)として高齢者施策が遂行された。
(5)戦後日本社会において、高齢者は「家族の余剰」の位置におかれてきた。
(6)(5)のように位置づけられた高齢者に対する政策=「保障の残余」が講じられてきたことが、まさに戦後日本の「家族」と「政策」を形成してきたものであった。
(7)高齢者に対する政策は医療・福祉・年金等を中心にして整備されていくが、わけても1980年代以降、「寝たきり」「薬漬け/検査漬け」「社会的入院」などが誰でも迎える老後という「社会的不安」を惹起させた。そのことが「備え」としての介護保険構想を下支えしてきた。
(8)「誰でも迎える老後」のための「備え」として、誰もが担い得る負担(保険料+税金)を財源とする「有限な資源」を分配する共済制度がある。その共済制度を前提に、私たちは「社会改良主義的」に考える「制度的非拘束性」の只中にいる。
・・・・まではよいが、(9)にさしかかると、俄然、日本語とは思えない文章にぶちあたる。もう少しこなれた日本語で書いてもらわないと、日本人の読者には迷惑である。日本の社会を論じているのだから、いちいちフランスの精神科医に義理立てする必要はないと思う。
しかし、天田がまとめた医療・介護がらみの制度年表は参考になるから、若干補足し、整理のうえ、ここに引用させていただく。
なお、このたび、「【読書余滴】雇用崩壊と社会保障ミニ年表」を補足した。
<1940年代>
1948 医療法制定
<1950年代>
・岸信介らによる格差是正論を含む「福祉国家ナショナリズム」
※国民皆保険、皆年金
・石橋湛山による生産主義的福祉論
・さまざまな高齢者実態調査(厚生省ほか)
※「悲惨な高齢者」
・老人福祉法試案
1958 国民健康保険法全部改正
※自己負担分支払い困難者
1959 国民年金法制定【国民皆年金】
<1960年代>
・池田勇人内閣による国民所得倍増計画を通じた経済成長によるパイの拡大と地方への切り分け
1961 改正国民健康保険法施行【国民皆保険】
1961 老人医療費無料化(岩手県沢内村)
※以降、各地方自治体レベルで老人医療費無料化、低額化
1963 老人福祉法制定
1965 厚生年金法改正・・・・1万円年金の提唱
1968 寝たきり老人実態調査(全国社会福祉協議会)
<1970年代>
・田中角栄内閣による各種の雇用政策と「土建国家ナショナリズム」を通じた「日本型雇用レジーム」
1971 老人医療費無料化(東京都、美濃部都政)
※過剰な医療批判→老人保健法制定
1972 「福祉手当」(東京都など)
1973 「福祉元年」
1973 各地で年金スト
1973 大盤振る舞いスキーム・・・・賃金再評価制+物価スライド制→5万円年金
<1980年代>
1981 第二次臨時行政調査会(土光臨調)
1982 三郷中央病院事件
※悪徳老人病院批判
1983 老人保健法施行・・・・医療費定額一部負担、
※出来高払いへの一定の「制約」
1984 特例許可老人病棟創設、老人診療報酬制度の整備
※低額の診療報酬、医療機関側の供給抑制
1984 一人暮らし老人100万人突破
1985 基礎年金導入
1986 老人保健施設創設
1989 国民年金基金創設、学生強制加入
<1990年代>
1990 介護力強化病院の整備・・・・定額支払い制度導入
※2002年度で廃止→療養型病床群に転換
※寝たきり老人(寝かせきり老人)の悲惨
※薬漬け、検査漬け
※社会的入院
1990 ゴールドプラン
1991 福祉八法改正
1994 高齢者介護自立支援システム・・・・選択型と社会保険方式の提言
1994 高齢者金持ち論
・1990年代半ば・・・・公的介護保険制度の提唱
・たびたびの「医療制度改革」
1997 介護保険法制定
<2000年代>
2000 介護保険法施行
2001 健康保険法改正・・・・定率1割負担
2006 介護保険法改正・・・・介護予防、市町村地域包括支援センター
2006 老人保健法および退職者医療制度の見なおし
※退職者医療制度は2014年度までの間における65歳未満の退職者を対象として経過的に存続。
2008 医療制度改革関連法・・・・後期高齢者医療制度創設、前期高齢者医療制度創設
【参考】天田城介「家族の余剰と保障への残余への勾留 -戦後における老いをめぐる家族と政策の(非)生産」(「現代思想 特集・・・・医療現場への問い--医療・福祉の転換点で」、青土社、2010年3月号)
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(1)戦後日本社会の偶発的な歴史的・経済的条件により可能となった「労働・雇用体制」のもとで、性別分業体制が形成された。
(2)かかる体制は、過剰な労働力供給状態のもとで、労働力の調整を可能にし、労務管理を容易にした側面があった。
(3)この体制によって、非正規労働市場が形成されてきた。
(4)かかる「労働・雇用体制」を徹底的に優先した保障の、残余(「保障の残余」)として高齢者施策が遂行された。
(5)戦後日本社会において、高齢者は「家族の余剰」の位置におかれてきた。
(6)(5)のように位置づけられた高齢者に対する政策=「保障の残余」が講じられてきたことが、まさに戦後日本の「家族」と「政策」を形成してきたものであった。
(7)高齢者に対する政策は医療・福祉・年金等を中心にして整備されていくが、わけても1980年代以降、「寝たきり」「薬漬け/検査漬け」「社会的入院」などが誰でも迎える老後という「社会的不安」を惹起させた。そのことが「備え」としての介護保険構想を下支えしてきた。
(8)「誰でも迎える老後」のための「備え」として、誰もが担い得る負担(保険料+税金)を財源とする「有限な資源」を分配する共済制度がある。その共済制度を前提に、私たちは「社会改良主義的」に考える「制度的非拘束性」の只中にいる。
・・・・まではよいが、(9)にさしかかると、俄然、日本語とは思えない文章にぶちあたる。もう少しこなれた日本語で書いてもらわないと、日本人の読者には迷惑である。日本の社会を論じているのだから、いちいちフランスの精神科医に義理立てする必要はないと思う。
しかし、天田がまとめた医療・介護がらみの制度年表は参考になるから、若干補足し、整理のうえ、ここに引用させていただく。
なお、このたび、「【読書余滴】雇用崩壊と社会保障ミニ年表」を補足した。
<1940年代>
1948 医療法制定
<1950年代>
・岸信介らによる格差是正論を含む「福祉国家ナショナリズム」
※国民皆保険、皆年金
・石橋湛山による生産主義的福祉論
・さまざまな高齢者実態調査(厚生省ほか)
※「悲惨な高齢者」
・老人福祉法試案
1958 国民健康保険法全部改正
※自己負担分支払い困難者
1959 国民年金法制定【国民皆年金】
<1960年代>
・池田勇人内閣による国民所得倍増計画を通じた経済成長によるパイの拡大と地方への切り分け
1961 改正国民健康保険法施行【国民皆保険】
1961 老人医療費無料化(岩手県沢内村)
※以降、各地方自治体レベルで老人医療費無料化、低額化
1963 老人福祉法制定
1965 厚生年金法改正・・・・1万円年金の提唱
1968 寝たきり老人実態調査(全国社会福祉協議会)
<1970年代>
・田中角栄内閣による各種の雇用政策と「土建国家ナショナリズム」を通じた「日本型雇用レジーム」
1971 老人医療費無料化(東京都、美濃部都政)
※過剰な医療批判→老人保健法制定
1972 「福祉手当」(東京都など)
1973 「福祉元年」
1973 各地で年金スト
1973 大盤振る舞いスキーム・・・・賃金再評価制+物価スライド制→5万円年金
<1980年代>
1981 第二次臨時行政調査会(土光臨調)
1982 三郷中央病院事件
※悪徳老人病院批判
1983 老人保健法施行・・・・医療費定額一部負担、
※出来高払いへの一定の「制約」
1984 特例許可老人病棟創設、老人診療報酬制度の整備
※低額の診療報酬、医療機関側の供給抑制
1984 一人暮らし老人100万人突破
1985 基礎年金導入
1986 老人保健施設創設
1989 国民年金基金創設、学生強制加入
<1990年代>
1990 介護力強化病院の整備・・・・定額支払い制度導入
※2002年度で廃止→療養型病床群に転換
※寝たきり老人(寝かせきり老人)の悲惨
※薬漬け、検査漬け
※社会的入院
1990 ゴールドプラン
1991 福祉八法改正
1994 高齢者介護自立支援システム・・・・選択型と社会保険方式の提言
1994 高齢者金持ち論
・1990年代半ば・・・・公的介護保険制度の提唱
・たびたびの「医療制度改革」
1997 介護保険法制定
<2000年代>
2000 介護保険法施行
2001 健康保険法改正・・・・定率1割負担
2006 介護保険法改正・・・・介護予防、市町村地域包括支援センター
2006 老人保健法および退職者医療制度の見なおし
※退職者医療制度は2014年度までの間における65歳未満の退職者を対象として経過的に存続。
2008 医療制度改革関連法・・・・後期高齢者医療制度創設、前期高齢者医療制度創設
【参考】天田城介「家族の余剰と保障への残余への勾留 -戦後における老いをめぐる家族と政策の(非)生産」(「現代思想 特集・・・・医療現場への問い--医療・福祉の転換点で」、青土社、2010年3月号)
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