語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

書評:『二毛猫アーヴィングの失踪&ボロの冒険』

2010年10月12日 | 小説・戯曲
 辛辣にして諧謔にみちたコラムを続々と量産し、名だたる政治家その他の有象無象の心肝を寒からしめると同時に、名もない大衆を抱腹絶倒させたバックウォルドは、じつはゆたかな童心の持ち主であった。
 その童心の証明が本書。
 おとなと子どもの両者のための童話である。

 2編の短編を収録する短編集だが、その一編『二毛猫アーヴィングの失踪』は、キャット・フード社のモデル猫アーヴィングが主人公である。
 キャット・フードを手ですくって食べるという特技をもつ猫・・・・ちょっと想像するだけで、胸がキュ~ンとなりませんか。

 アーヴィングは、毎度おとなしく撮影されていたのだが、とある撮影日に飼い主が急病にかかって入院したどさくさにまぎれて行方不明になった。
 ために、宣伝部長エドガー・アレン・マグルーダーがきりきり舞いする。

 マグルーダーは若くして部長として迎えられた切れ者だが、哀しいかな、猫アレルギーのため、毎週の撮影日には胃にガスがたまってゲップするのだ。
 こうした滑稽なしかけが随所に用意されていて、愉快だ。

 猫の誘拐があれば、ペット探偵も登場するし、社内政治の力学だって描かれる。
 一見ドタバタ喜劇ふうだが、辣腕コラムニストの諷刺は随所に発揮される。

 ちゃんと大団円が用意されているから、安心して読み進めよう。
 狂言まわしをつとめるマグルーダーは、部下のマリアとハワイへハネムーンに飛び立つし、失踪したアーヴィングを首尾よく探し出したペット探偵アラン・ピエール・ベルナン警部は、英国政府の依頼によりネス湖の怪獣を捜索するにいたるのである。
 ネタばれになる? いや、どうしてどうして。「二毛猫アーヴィング」の絶妙の文章は、要約では伝わらない。
 プディングの味は食べてみないとわからない。至福の味わいは、みずから本をひもといて。

□アート・バックウォルド(永井淳訳)『二毛猫アーヴィングの失踪&ボロの冒険』(文春文庫、1987)
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コメント (2)
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