好みの動物に変身できる魔法の粉と呪文を手に入れたバグダッドのカリフ、カシドは、お気に入りの宰相マンゾルとともにコウノトリに変身する。
おどろいたことに、姿が変っただけではなく、コウノトリの言葉も聞き分けられるようになったのだ。
珍奇な体験を楽しんでいる最中、若いコウノトリ嬢のあで姿に、思わず呵々大笑してしまった。禁じられていたのに。笑ったら、もとの姿に戻るための呪文を忘れてしまうのに。
ふたりが失踪して4日目、住民は新たな王、ミズラに付きしたがった。
このありさまを見て、カリフ・カシドは翻然と覚る。なぜ魔法にかかったかを。
かの魔法の粉と呪文の出所は、ミズラの父、大魔術師カシュヌルなのであった。カリフの不倶戴天の敵であった。
その夜の宿、廃屋で、インド王の姫ルーザと出会った。彼女は、カシドおよびマンゾルと同様にカシュヌルの魔法によってフクロウに変身させられていた。
ふたりは、ルーザの示唆にもとづいて、カシュヌルら魔法使いどもがその夜ひらく宴会を盗み聴くことにした。
悪事の自慢話が続く中で、動物から人間へもどるための呪文も話題になった。
「ひどくむつかしいラテン語で、ムタボルというのさ」
バグダッドの住民は、死んだと目されていたカリフの生還を喜び迎えた。
カリフの怒りは激しかった。カシュヌルとを絞殺させた。その息子ミズラはコウノトリに変身させ、鉄の籠にとじこめて庭に据えさせた。
そして、同じく人間にもどった美しいルーザ姫を妃としてめとり、楽しく長生きした・・・・。
*
『変身ものがたり』所収の『こうのとりになったカリフ』の出典は、『隊商』(高橋健二訳、岩波文庫)にある。25歳で夭折したヴィルヘルム・ハウフの出世作である。
この作品、藤子不二雄が漫画化した、と記憶する。ただし、大魔術師の絞殺の場面は記憶にない。 藤子不二雄のスタイルからして、省いたのではなかろうか。それとも、藤子不二雄は原作に忠実に漫画化したが、一読した少年は、絞殺という残虐な場面を記憶から消し去ったのだろうか。
「ちくま文学の森」全15巻は、内外の短編小説を中心に詩も収録するアンソロジー集である。いずれも滋味ゆたかな物語が満載されている。読者は、ひたすら作家の想像力に感嘆すればよい。語られる言葉の河へ身をひたし、老いも若きも「不死の人」(ボルヘス)になるのだ。
文学を楽しむだけなら、断簡零墨を収録した個人全集にあたらずとも、よく出来た作品だけをしっかり読めばよい。つまり、アンソロジーで十分だ。そして、「ちくま文学の森」はよく出来たアンソロジーである。
短編には、長編にはない魅力がある。短編小説の滋味を発見または再発見させる意味でも、このシリーズは貴重だ。
編者による解説も読ませる。ちなみに、第4巻の解説は池内紀で、「鞍馬天狗と丹下左膳 -解説にかえて」と題する。
各巻のタイトルは、次のとおり。括弧内は、解説者である。
1 美しい恋の物語 (安野光雅)
2 心洗われる話 (安野光雅)
3 幼かりし日々 (池内紀)
4 変身ものがたり (池内紀)
5 おかしい話 (井上ひさし)
6 思いがけない話 (森毅)
7 恐ろしい話 (池内紀)
8 悪いやつの物語 (井上ひさし)
9 怠けものの話 (森毅)
10 賭と人生 (森毅)
11 機械のある世界 (森毅)
12 動物たちの物語 (安野光雅)
13 旅ゆけば物語 (池内紀)
14 ことばの探偵 (井上ひさし)
15 とっておきの話 (安野光雅)
「ちくま文学の森」は、このたび文庫化されたが、『変身ものがたり』は第3巻に位置づけられている。
【参考】ヴィルヘルム・ハウフ(高橋健二訳)『こうのとりになったカリフ』(安野光雅/森毅/井上ひさし/池内紀・編『ちくま文学の森第4巻 変身ものがたり』所収、筑摩書房、1988)
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おどろいたことに、姿が変っただけではなく、コウノトリの言葉も聞き分けられるようになったのだ。
珍奇な体験を楽しんでいる最中、若いコウノトリ嬢のあで姿に、思わず呵々大笑してしまった。禁じられていたのに。笑ったら、もとの姿に戻るための呪文を忘れてしまうのに。
ふたりが失踪して4日目、住民は新たな王、ミズラに付きしたがった。
このありさまを見て、カリフ・カシドは翻然と覚る。なぜ魔法にかかったかを。
かの魔法の粉と呪文の出所は、ミズラの父、大魔術師カシュヌルなのであった。カリフの不倶戴天の敵であった。
その夜の宿、廃屋で、インド王の姫ルーザと出会った。彼女は、カシドおよびマンゾルと同様にカシュヌルの魔法によってフクロウに変身させられていた。
ふたりは、ルーザの示唆にもとづいて、カシュヌルら魔法使いどもがその夜ひらく宴会を盗み聴くことにした。
悪事の自慢話が続く中で、動物から人間へもどるための呪文も話題になった。
「ひどくむつかしいラテン語で、ムタボルというのさ」
バグダッドの住民は、死んだと目されていたカリフの生還を喜び迎えた。
カリフの怒りは激しかった。カシュヌルとを絞殺させた。その息子ミズラはコウノトリに変身させ、鉄の籠にとじこめて庭に据えさせた。
そして、同じく人間にもどった美しいルーザ姫を妃としてめとり、楽しく長生きした・・・・。
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『変身ものがたり』所収の『こうのとりになったカリフ』の出典は、『隊商』(高橋健二訳、岩波文庫)にある。25歳で夭折したヴィルヘルム・ハウフの出世作である。
この作品、藤子不二雄が漫画化した、と記憶する。ただし、大魔術師の絞殺の場面は記憶にない。 藤子不二雄のスタイルからして、省いたのではなかろうか。それとも、藤子不二雄は原作に忠実に漫画化したが、一読した少年は、絞殺という残虐な場面を記憶から消し去ったのだろうか。
「ちくま文学の森」全15巻は、内外の短編小説を中心に詩も収録するアンソロジー集である。いずれも滋味ゆたかな物語が満載されている。読者は、ひたすら作家の想像力に感嘆すればよい。語られる言葉の河へ身をひたし、老いも若きも「不死の人」(ボルヘス)になるのだ。
文学を楽しむだけなら、断簡零墨を収録した個人全集にあたらずとも、よく出来た作品だけをしっかり読めばよい。つまり、アンソロジーで十分だ。そして、「ちくま文学の森」はよく出来たアンソロジーである。
短編には、長編にはない魅力がある。短編小説の滋味を発見または再発見させる意味でも、このシリーズは貴重だ。
編者による解説も読ませる。ちなみに、第4巻の解説は池内紀で、「鞍馬天狗と丹下左膳 -解説にかえて」と題する。
各巻のタイトルは、次のとおり。括弧内は、解説者である。
1 美しい恋の物語 (安野光雅)
2 心洗われる話 (安野光雅)
3 幼かりし日々 (池内紀)
4 変身ものがたり (池内紀)
5 おかしい話 (井上ひさし)
6 思いがけない話 (森毅)
7 恐ろしい話 (池内紀)
8 悪いやつの物語 (井上ひさし)
9 怠けものの話 (森毅)
10 賭と人生 (森毅)
11 機械のある世界 (森毅)
12 動物たちの物語 (安野光雅)
13 旅ゆけば物語 (池内紀)
14 ことばの探偵 (井上ひさし)
15 とっておきの話 (安野光雅)
「ちくま文学の森」は、このたび文庫化されたが、『変身ものがたり』は第3巻に位置づけられている。
【参考】ヴィルヘルム・ハウフ(高橋健二訳)『こうのとりになったカリフ』(安野光雅/森毅/井上ひさし/池内紀・編『ちくま文学の森第4巻 変身ものがたり』所収、筑摩書房、1988)
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