幻冬舎 2021.2.5
こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。
オードリー・タンはなぜ人の話に耳を傾けるか
他人の話を聞くことによって新たな視点が獲得できる
私は中学校を中退する前の時期に、烏来(台北南部にある山地)にあるタイヤル族の集落に滞在していたことがあります。タイヤル族は台湾の先住民ですが、彼らから見ると、平地に住む台湾人である私と一緒に実験学校を行っているようなものだったと思います。
タイヤル族は私に、「平地に住む人たちは、先住民にも教育が必要だと言うけれど、自然の資源を無節制に使っている彼らにこそ教育が必要なのではないか。それでこそより優れた成果が得られるのではないか」と言いました。私は彼らの考えから多くのことをインスパイアされました。これは実に貴重な体験でした。
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
同じように、ITを高齢者の身近なものにするためには、もっと高齢者に声をかけて議論する必要があると思います。私の事務所には、いつも額装書画普及研究会の友人たちが来ますが、みんな七十代、八十代、九十代の人たちです。彼らが私たちに教えてくれるのは、「エレベーターの速度を遅めにする」とか「車椅子や松葉杖、歩行器で歩道橋を上がる際の手すりの高さを考えなくてはいけない」といったようなことです。座って議論ばかりしていても見えないこと、わからないことをたくさん教えてもらいました。
彼らから「こうすればもっと使いやすくなる」と言われれば、私はその助言を受けてすぐにシステムを調整するようにしています。新型コロナウイルス対策の中でも、「視覚障がい者にはマスク購入の方法が難しい」という声があったので、即座に購入システムを改善したこともありました。
私は他の人の話を聞くことが好きです。それは純粋な興味からきています。2020年、亡くなった李登輝元総統が、台湾の黒毛和牛やヨーロッパの牛を分析して、台湾でどう育てていくのかについて関心を持っていたのと同じく、私が政治的問題とは離れた事柄に関心を寄せるのは、単純な興味から出てくるものです。
他人の話を聞くことへの興味は大きく二つあります。
一つは、「自分自身の生活という角度から物事を見る」という制限を取り払えることです。同じ世界であっても、異なる角度から見ることで、自分自身の視点の限界を超越することができます。
二つ目は、相手の個人的な経験や背景から述べられたことを通じて、「世界はこのような視点でも解釈できると理解できる」ことです。相手が経験したことが将来自分にも起きたとき、私は相手とはまた違う方法を選択するかもしれません。つまり、未来を学習することができるのです。相手の経験を知ることから自分の視点を学ぶことで、未来に同じようなことが起きたら、きっと自分なりの新しい話し方ができるでしょう。
主にこの二つの点が、私にとって他人の話を聞くことへの興味であり、面白く思う点です。
「青銀共創」がイノベーションを生む理由
年齢の壁を越えて若者と高齢者が共同でクリエイトする「青銀共創」
先ほど述べたような新たな視点の獲得がイノベーションへとつながります。たとえば、最近は高齢者や障がい者を対象にしたITを用いた機器が多く出てきています。歩行器のようなものもありますし、日本では高齢者用のパワードスーツまで登場したと聞いています。
「背中が曲がってしまって重いものを持ち歩けない」人が、パワードスーツのような製品を装着することによって、重いものを持ち運べるようになれば、非常に便利です。また、ベッドに寝ているときに睡眠が浅くて寝つけない人には、ITの活用で枕やベッドに睡眠状態を検知して角度を調整するなどの知能を持たせることもできるようになるでしょう。
そう考えると、ITは高齢者の日常生活の向上に大きく貢献していることになります。身体は衰えても知能や精神がまだしっかりしている人は、こうした機器を用いることで、引き続き社会に積極的に参加できるようになるでしょう。
私がいつも言っていることですが、高齢者でも社会に貢献できることは非常にたくさんあるのです。私は小さい頃、身体が弱かったので、自由にどこへも行くことができませんでした。私はその不便な障がいを手術で取り除くしかなかったのです。しかし、ITやデジタル技術の進んだ今なら、それらを利用することで、多少体の自由がきかなくなった高齢者でもまだまだ社会に貢献できると思うのです。
最近、日本のメディアから取材を受ける機会が非常に増えました。よく聞かれる質問としてあるのが「日本のIT大臣(注 2019年9月の第四次安倍第二次改造内閣で就任した竹本直一氏のこと)は七十八歳だけれども、どう思うか」です。七十八歳といえば、私の父と同世代ですが、年配のIT大臣は決して悪いものではないと思います。
現在(2020年10月現在)の行政院長の蘇貞昌氏も七十三歳と決して若くはありません。でも、彼に何かを説明したとき「もう一度言ってほしい」と聞き返されたことはありません。頭は非常にクリアです。そういう人を身近に知っているので、私は年齢がお互いのコミュニケーションを阻むとは考えていません。
専門的な能力を持った人が縦方向の仕事をすることは、理に適っていると思いますが、本来必要なのは、各年齢層の人間が、私が提供しているような横の連携とコミュニケーションを図る仕事をすることだからです。
台湾では「青銀共創」という試みが盛んです。これは青年(青)と年配者(銀)が共同でクリエイトしてイノベーションを行っていくものです。要は、年配者と若い人がお互いに学び合うのです。年配者は若者から、「今のデジタル社会と、どうコミュニケーションをとっていけばいいか」を学び、若者は年配者の知恵や経験を学びます。私のいるラボ(社会創新実験センター)にも、そうした活動を行っている団体が入っています。
政策立案、政策遂行で政府が行うべきこと
私の執務室に飾ってある額は、額装書画普及研究会のメンバーから寄贈されたものですが、この研究会ではだいたい八十代から九十代の人たちが若い人たちと一緒になって共同でイノベーションを行っています。
高齢者にできる仕事を、それまで彼らが行ってきたものとは違う職業に結びつける必要はないと思います。確かにシルバーの人々が得意なことと、社会が求めている仕事の間には差異があるかもしれません。それを埋めるために学び直しをしてもらう必要もあるかもしれません。しかし、その一方で、社会の側もシルバーの人たちの得意なことを生かそうとする視点を持つべきだと思うのです。
つまり、年配者の得意なことと社会のニーズの中間地点を作ることができないかについて考える必要があると思うのです。これは、新しい社会的役割や職業を生み出すことに等しいイノベーションであり、非常に重要なことです。
若者と年配者はそれぞれ異なる角度からの見方を持っています。その見方を結合させたやり方の一つが、最近コロナ渦の経済対策として台湾で発行された振興三倍券です。この施策を設計するとき、紙のチケットとして振興券がほしいのであれば紙でもらえばいいし、クレジットカードを使い慣れているならカードに情報を載せて使えるようにしました。実際、両者が選択された割合は半々ぐらいです。
この振興券を作るとき、若者と年配者が共同でアイデアを出す場がなければ、どちらか一方のやり方だけになって、残り半分は置き去りにされていたかもしれません。これは絶対に看過できないことです。
重要なのは、「どうすれば、各世代が一緒に政策を作っていくことができるか」を考えることです。政府はその上でまとまった意見を吸い上げればいいわけです。
オードリー・タン
台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
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