北海道新聞 02/09 05:00
新型コロナウイルスは文化活動にも影を落とした。特に打撃が大きいのは、演劇や音楽など観客を多数集めるステージイベントだ。公演機会の減少に悩む道内関係者は、文化と観光を融合した「ライブアートツアー」を構想。やはり大きな影響を受ける観光関係者も「コロナ収束後の新しい観光コンテンツになれば」と期待する。
昨年大みそか、ある動画配信が始まった。紅葉が残る北大構内を、案内人に先導された人々が散策する。そこへ馬に乗った“クラーク博士”が登場。一行は現役研究者や“雪博士・中谷宇吉郎”から北大の新旧の知られざる逸話を聞き、ひと味違う観光を楽しむ―。
これは昨年11月に試行されたライブアートツアーの一幕。コロナ禍で観光客を迎えるのが困難な中、まずは動画で新しい観光をアピールしようと公開された。
クラーク博士を演じたのは、札幌を代表する俳優斎藤歩さん(56)。北海道演劇財団理事長でもあり、ツアーを演出・構成した。3コースあり、目玉はゴールの歴史的建造物「豊平館」などで行う特別パフォーマンス。札幌交響楽団の金管五重奏、コンテンポラリーダンス、アイヌ民族の女性ボーカルグループ「マレウレウ」という異色のコラボで、北海道にしかないライブ空間を生んだ。
「演劇と観光を結んだ半日ツアーを商品化できないか」。演劇人とホテル関係者の模索が始まったのは、数年前。ホテル側は新たな観光メニューとして、ガイドツアーに着目していた。
そこへコロナ禍が起きた。「イベント自粛」にあえぐ業界を力づけようと、文化庁の委託事業に道と財団が応じ、昨年10月、感染症対策を講じて街中でライブイベントを展開する「さっぽろボーダレスライブアーツキャラバン」がスタート。ツアーはその一環だ。
案内人役を演じた俳優磯貝圭子さん(52)は、ススキノ周辺で歴史探訪ガイドをした経験から「歴史を知れば、より魅力的な街に見える。地元の人にも発見があるはず」と話す。
斎藤さんが見据えるのはコロナ収束後だ。札幌では毎年、夏と冬に劇場で過去の人気作をロングラン上演する「札幌演劇シーズン」が行われ、今冬も18日まで開催中。ツアーは「演劇の街・札幌」の蓄積の活用につながる。事務局の三上敦さん(53)は「ツアーで俳優と交流し、夕食後に公演を見に行ってみようか、となれば」と青写真を描く。
ホテル業界も期待を寄せる。京王プラザホテル札幌の柴谷学総支配人(57)は「練り上げれば、新たな切り口の観光コンテンツになり得る」。課題は人材確保と料金設定で、夏冬のハイシーズンの週末開催とするなど、工夫が要りそうだ。
文化と旅を結ぶ取り組みは美術分野で先行している。瀬戸内海を舞台とする「瀬戸内国際芸術祭」は、国内のアートツーリズムの草分け。芸術祭ブームをけん引し、年間100万人を超す来場者を集めている。
コロナ禍で中止となったが、札幌国際芸術祭(SIAF=サイアフ)が本年度から冬季開催としたのも、札幌らしさを打ち出し、雪まつりとの相乗効果を狙うため。実行委事務局の細川麻沙美さん(43)は「アートツアーが定着すれば、夕方まで美術を鑑賞し、夜は演劇を見るなど、観光のバリエーションも広がる」とみる。
鍵は地域の理解だ。「市民に浸透するのに10年はかかると言われる」と細川さん。落ち込んではいられない。コロナ後へ種をまく取り組みが始まっている。(伊藤空那)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/509462
新型コロナウイルスは文化活動にも影を落とした。特に打撃が大きいのは、演劇や音楽など観客を多数集めるステージイベントだ。公演機会の減少に悩む道内関係者は、文化と観光を融合した「ライブアートツアー」を構想。やはり大きな影響を受ける観光関係者も「コロナ収束後の新しい観光コンテンツになれば」と期待する。
昨年大みそか、ある動画配信が始まった。紅葉が残る北大構内を、案内人に先導された人々が散策する。そこへ馬に乗った“クラーク博士”が登場。一行は現役研究者や“雪博士・中谷宇吉郎”から北大の新旧の知られざる逸話を聞き、ひと味違う観光を楽しむ―。
これは昨年11月に試行されたライブアートツアーの一幕。コロナ禍で観光客を迎えるのが困難な中、まずは動画で新しい観光をアピールしようと公開された。
クラーク博士を演じたのは、札幌を代表する俳優斎藤歩さん(56)。北海道演劇財団理事長でもあり、ツアーを演出・構成した。3コースあり、目玉はゴールの歴史的建造物「豊平館」などで行う特別パフォーマンス。札幌交響楽団の金管五重奏、コンテンポラリーダンス、アイヌ民族の女性ボーカルグループ「マレウレウ」という異色のコラボで、北海道にしかないライブ空間を生んだ。
「演劇と観光を結んだ半日ツアーを商品化できないか」。演劇人とホテル関係者の模索が始まったのは、数年前。ホテル側は新たな観光メニューとして、ガイドツアーに着目していた。
そこへコロナ禍が起きた。「イベント自粛」にあえぐ業界を力づけようと、文化庁の委託事業に道と財団が応じ、昨年10月、感染症対策を講じて街中でライブイベントを展開する「さっぽろボーダレスライブアーツキャラバン」がスタート。ツアーはその一環だ。
案内人役を演じた俳優磯貝圭子さん(52)は、ススキノ周辺で歴史探訪ガイドをした経験から「歴史を知れば、より魅力的な街に見える。地元の人にも発見があるはず」と話す。
斎藤さんが見据えるのはコロナ収束後だ。札幌では毎年、夏と冬に劇場で過去の人気作をロングラン上演する「札幌演劇シーズン」が行われ、今冬も18日まで開催中。ツアーは「演劇の街・札幌」の蓄積の活用につながる。事務局の三上敦さん(53)は「ツアーで俳優と交流し、夕食後に公演を見に行ってみようか、となれば」と青写真を描く。
ホテル業界も期待を寄せる。京王プラザホテル札幌の柴谷学総支配人(57)は「練り上げれば、新たな切り口の観光コンテンツになり得る」。課題は人材確保と料金設定で、夏冬のハイシーズンの週末開催とするなど、工夫が要りそうだ。
文化と旅を結ぶ取り組みは美術分野で先行している。瀬戸内海を舞台とする「瀬戸内国際芸術祭」は、国内のアートツーリズムの草分け。芸術祭ブームをけん引し、年間100万人を超す来場者を集めている。
コロナ禍で中止となったが、札幌国際芸術祭(SIAF=サイアフ)が本年度から冬季開催としたのも、札幌らしさを打ち出し、雪まつりとの相乗効果を狙うため。実行委事務局の細川麻沙美さん(43)は「アートツアーが定着すれば、夕方まで美術を鑑賞し、夜は演劇を見るなど、観光のバリエーションも広がる」とみる。
鍵は地域の理解だ。「市民に浸透するのに10年はかかると言われる」と細川さん。落ち込んではいられない。コロナ後へ種をまく取り組みが始まっている。(伊藤空那)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/509462