産経新聞 2021.2.27 15:00
音楽、料理、工芸…。アイヌからの発信も活発化している。前回の上編で取り上げた、アイヌの聖地・二風谷(北海道平取町)のイヨマンテ記録映画撮影から90年後の令和時代。この地で生まれ育った、女子大生ユーチューバーの動画に注目だ。東京・渋谷では、未来に向けた伝統工芸の展示販売など、自然体でカッコいいアイヌの魅力が身近になっている。(重松明子)
明治政府以降の和人との同化政策により、先住民としての権利や言語、習俗が規制され差別も受けたアイヌ。「(歴史的経緯から)腫れ物にさわるように接してくる方も見受けられますが、私たちのすてきな文化を先入観なしに知ってほしい。普通の若者の私が、入り口になれればいいな」
慶応大総合政策学部3年の関根摩耶さん21)は2年前、ゆるく発信したいとユーチューブ「しとちゃんねる」を始めた。「しと」はアイヌ語で「団子」のことだ。
友人たちと伝統食のオハウ(汁物)を作り、ウポポ(座り歌)を歌い、アイヌ語の日常会話を伝える…等身大の姿が共感を呼んでいる。チャンネル登録者数は9000人に迫り、海外からのコメントも目立つ。2007年、国連の「先住民族の権利宣言」を機に、アイヌへの関心も地球規模となっている。
現在、関根さんは就活中。今の若者でもアイヌとして生きる困難はある? と問うと「少数民族であることは自分の軸であり個性。先祖から受け継いできた、北海道の自然の中で生き抜く知恵と力が私の強み。どんな業界でも生かせる」。誇りに満ち、きっぱりと語った。
◇
彼女がアイヌ語の監修をした「つなぐ・つながる 二風谷アイヌ展」が、東京・渋谷の新名所「ミヤシタパーク」サウス棟3階のイコーランドシブヤで3月20日まで開かれている。
オシャレなブランドや飲食店が連なる一角に、「タンペヘマンタ アン(これなんだろう)?」「ピリカ(いいね)!」「エ(うん)!」…。アイヌ語の表示に足を止める若い男女。
※原語の発音ではピリカの「リ」は小書き
昨年10月に発足した「二風谷アイヌクラフトプロジェクト」による展示販売だ。木彫りの「イタ(角盆)」は1万円以下の品が一週間で完売する人気。経済産業省の伝統的工芸品に指定される逸品とともに、レーザーでアイヌ文様を彫った木製コースターなど量産可能な品も並んでいる。
「現代生活に合った商品の開発を目指しています」と、二風谷民芸組合代表理事の貝澤守さん(56)が狙いを語る。全国の気鋭のクリエーターとのコラボレーションで、アイヌ文様のタトゥーシールや衣料、知育玩具などの商品化を進めている。
「伝統工芸品の需要は右肩上がり。でも、生態系に配慮しながら原料を採取する手作り品は増産が難しい。そんな中でも技術を継承し、工芸で食べていける人材を育てるためのプロジェクトです」
売り場には、樹皮から作った糸を用いた伝統の織物「アットゥシ」もある。
※原語の発音では「シ」は小書き
この生地で作られた名刺入れを手にした女性スタッフ(和人)に「これ5年物なんですけど、よかったら触ってみてください」と声をかけられた。なめらかな手触りだ。「最初は固いのですが使ううちに柔らかくなじみ、色も深くなる。手間をかけて作ったものを大切に長く使うアイヌの精神は、現代の私たちに必要な学びを教えてくれます」
◇
「カッコいいアイヌ」への関心は、冒険時代漫画「ゴールデンカムイ」の影響も大きい。既刊24巻が1500万部を突破。漫画のアイヌ語監修者、中川裕・千葉大教授の解説本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」も7刷6万5000部と版を重ねる。
北海道アイヌ生活実態調査(平成29年)で把握できた道内アイヌ人は1万3118人。だが「人口実態を示す数ではない」と道アイヌ政策推進局。流転の中でルーツを知らず、知らされずにきた「実はアイヌ」も相当数に上るようだ。
アイヌと日本人としてのアイデンティティーの両立について、ユーチューバーの関根さんにたずねてみた。「『アイヌって人のことだよ』と、家族や親戚に教えてもらいながら育った。人(アイヌ)は地球の森羅万象(カムイ=神)の対象。民族や人種、国籍で線引きすることは重要じゃなくて、どのように生きるかが大切だと、私は思っています」
多様性社会を目指す地球の今。おおらかなアイヌスピリットに、ピリカ!
https://www.sankei.com/premium/news/210226/prm2102260009-n1.html
音楽、料理、工芸…。アイヌからの発信も活発化している。前回の上編で取り上げた、アイヌの聖地・二風谷(北海道平取町)のイヨマンテ記録映画撮影から90年後の令和時代。この地で生まれ育った、女子大生ユーチューバーの動画に注目だ。東京・渋谷では、未来に向けた伝統工芸の展示販売など、自然体でカッコいいアイヌの魅力が身近になっている。(重松明子)
明治政府以降の和人との同化政策により、先住民としての権利や言語、習俗が規制され差別も受けたアイヌ。「(歴史的経緯から)腫れ物にさわるように接してくる方も見受けられますが、私たちのすてきな文化を先入観なしに知ってほしい。普通の若者の私が、入り口になれればいいな」
慶応大総合政策学部3年の関根摩耶さん21)は2年前、ゆるく発信したいとユーチューブ「しとちゃんねる」を始めた。「しと」はアイヌ語で「団子」のことだ。
友人たちと伝統食のオハウ(汁物)を作り、ウポポ(座り歌)を歌い、アイヌ語の日常会話を伝える…等身大の姿が共感を呼んでいる。チャンネル登録者数は9000人に迫り、海外からのコメントも目立つ。2007年、国連の「先住民族の権利宣言」を機に、アイヌへの関心も地球規模となっている。
現在、関根さんは就活中。今の若者でもアイヌとして生きる困難はある? と問うと「少数民族であることは自分の軸であり個性。先祖から受け継いできた、北海道の自然の中で生き抜く知恵と力が私の強み。どんな業界でも生かせる」。誇りに満ち、きっぱりと語った。
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彼女がアイヌ語の監修をした「つなぐ・つながる 二風谷アイヌ展」が、東京・渋谷の新名所「ミヤシタパーク」サウス棟3階のイコーランドシブヤで3月20日まで開かれている。
オシャレなブランドや飲食店が連なる一角に、「タンペヘマンタ アン(これなんだろう)?」「ピリカ(いいね)!」「エ(うん)!」…。アイヌ語の表示に足を止める若い男女。
※原語の発音ではピリカの「リ」は小書き
昨年10月に発足した「二風谷アイヌクラフトプロジェクト」による展示販売だ。木彫りの「イタ(角盆)」は1万円以下の品が一週間で完売する人気。経済産業省の伝統的工芸品に指定される逸品とともに、レーザーでアイヌ文様を彫った木製コースターなど量産可能な品も並んでいる。
「現代生活に合った商品の開発を目指しています」と、二風谷民芸組合代表理事の貝澤守さん(56)が狙いを語る。全国の気鋭のクリエーターとのコラボレーションで、アイヌ文様のタトゥーシールや衣料、知育玩具などの商品化を進めている。
「伝統工芸品の需要は右肩上がり。でも、生態系に配慮しながら原料を採取する手作り品は増産が難しい。そんな中でも技術を継承し、工芸で食べていける人材を育てるためのプロジェクトです」
売り場には、樹皮から作った糸を用いた伝統の織物「アットゥシ」もある。
※原語の発音では「シ」は小書き
この生地で作られた名刺入れを手にした女性スタッフ(和人)に「これ5年物なんですけど、よかったら触ってみてください」と声をかけられた。なめらかな手触りだ。「最初は固いのですが使ううちに柔らかくなじみ、色も深くなる。手間をかけて作ったものを大切に長く使うアイヌの精神は、現代の私たちに必要な学びを教えてくれます」
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「カッコいいアイヌ」への関心は、冒険時代漫画「ゴールデンカムイ」の影響も大きい。既刊24巻が1500万部を突破。漫画のアイヌ語監修者、中川裕・千葉大教授の解説本「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」も7刷6万5000部と版を重ねる。
北海道アイヌ生活実態調査(平成29年)で把握できた道内アイヌ人は1万3118人。だが「人口実態を示す数ではない」と道アイヌ政策推進局。流転の中でルーツを知らず、知らされずにきた「実はアイヌ」も相当数に上るようだ。
アイヌと日本人としてのアイデンティティーの両立について、ユーチューバーの関根さんにたずねてみた。「『アイヌって人のことだよ』と、家族や親戚に教えてもらいながら育った。人(アイヌ)は地球の森羅万象(カムイ=神)の対象。民族や人種、国籍で線引きすることは重要じゃなくて、どのように生きるかが大切だと、私は思っています」
多様性社会を目指す地球の今。おおらかなアイヌスピリットに、ピリカ!
https://www.sankei.com/premium/news/210226/prm2102260009-n1.html