スポーツ栄養Web 2024年11月28日
オーストラリアのプロラグビーリーグ選手50人を対象に行われた、栄養関連の知識と食事に対する姿勢や行動に関する調査結果が報告された。全体として栄養に関する知識が不十分であることが明らかになるとともに、民族によって食行動が異なることが示された。著者らは、アスリートの民族性を考慮に入れたスポーツ栄養ガイドラインの必要性に言及している。
必要な栄養素は栄養学により決定されるが、食行動は文化の影響を強く受ける
ラグビーはエネルギー消費の多いスポーツの一種であり、生理学的要求に見合う栄養素を摂取できていない選手が少なくないという実態が報告されている。しかし、ラグビー選手の栄養に関する知識や食事に対する態度・行動についての研究は十分でない。また、個人に必要とされる栄養素は栄養学に基づいて算出することができるが、アスリートの実際の食事は個人の文化的背景の影響を強く受ける。ラグビー選手の食行動を、文化的な背景の視点から研究した報告はほとんどみられない。
今回取り上げる研究が行われたオーストラリアは多民族国家であり、英国やアイルランド系をはじめとする欧州諸国からの移民、アジア太平洋地域からの移民、先住民族であるアボリジニやトレス海峡諸島民などが入り混じっていて、プロレベルのラグビー選手も多民族で構成されている。同国のラグビーナショナルリーグ(National Rugby League ;NRL)では、46%が太平洋地域にルーツをもつ集団(Pasifika)であり、12%がアボリジニやトレス海峡諸島民(Aboriginal and/or Torres Strait Islander;ATSI)であって、その他が英国や欧州からの移民をルーツとする集団(Anglo-European)だという。
従来のスポーツ栄養学は、このような民族性の違いをほとんど考慮せずに、アスリートの知識や行動を一律に評価してきている。これを背景とし本論文の著者らは、オーストラリアの多様な民族で構成されているNRL選手を対象として、民族性を考慮しながら、栄養知識や態度・行動の実態を調査した。
プロラグビー選手と育成選手50人の知識や態度、行動を調査
この調査には、同国ナショナルリーグ(NRL)または育成リーグに所属する16歳以上の選手54人が参加し、18歳未満の選手については保護者の同意を得られたケースのみとして、最終的な解析対象は50人となった。
主な特徴は、年齢22.3±4.1歳、体重98.9±12.0kg、体脂肪率16.4±2.6%であり、民族に関しては、英国・欧州系移民がルーツ(Anglo-European)の選手が18人(36%)、アボリジニやトレス海峡諸島民ルーツ(ATSI)の選手が12人(24%)、太平洋地域(Pasifika)にルーツのある選手が40%だった。また、年齢層に関しては、20歳未満が17人(34%)、20~24歳が21人(42%)、25歳以上が12人(24%)だった。
栄養知識や態度、行動の評価方法
栄養の知識については、スポーツ栄養知識質問票の簡易版(abridged nutrition for sports knowledge questionnaire;A-NSKQ)で評価した。A-NSKQは、栄養に関する一般的な17項目の質問と20項目のスポーツ栄養に関する質問、計37問で構成されていて、合計スコアは37点。既報研究に従い、正答率49%以下を「不良」、50~65%を「普通」、66~75%を「良好」、76%以上を「優秀」と判定した。
栄養がラグビーのパフォーマンスに及ぼす影響に関する考え方は、やはり過去の研究報告で採用されていた質問票を用いて、スキル、回復、睡眠、メンタルヘルス、怪我や疾患の予防について、1点(強い同意)~5点(強い否定)で回答してもらい、5段階のリッカートスコアとして評価した。
栄養行動に関しては、24時間思い出し法により、食品群の摂取量、摂取パターンを評価した。
ラグビー選手の栄養知識は平均して「不良」
知識スコアは非有意ながら英国・欧州系移民がルーツの選手で高い
スポーツ栄養知識質問票(A-NSKQ)の評価結果は、37点中14.6±4.4点で、正答率は39.9%であり、事前の評価基準に則して「不良」と判定された。
栄養知識のスコアは、年齢と正の相関が認められ(p=0.039)、25歳以上の群では正答率45.7±12.6%であり、「普通」と判定された。スコアと体脂肪率との間に相関は認められなかった(p=0.741)。
民族別に正答率をみた場合、英国・欧州系移民がルーツ(Anglo-European)の選手は44.1±11.9%と「普通」であり、アボリジニやトレス海峡諸島民ルーツ(ATSI)の選手(39.5±10.0%)や太平洋地域にルーツ(Pasifika)のある選手(36.4±13.0%)が「不良」であったのに比べて高かった。ただし、全体として群間差は有意水準未満だった。
民族のルーツによって、選手の欠食傾向や野菜の摂取量に有意差
栄養行動と体組成との間に有意な関連が認められ、体脂肪率が低い選手は野菜(p=0.046)や乳製品(p=0.009)の摂取量が多く、1日の中で午後の摂取量が多かった(昼食はp=0.048、午後の間食はp=0.036)。
民族性については、年齢と体組成の影響を調整後、Pasifikaの選手はAnglo-EuropeanやATSIの選手と比べて朝食や昼食をスキップする傾向が強く認められ、かつ、果物の摂取量が多かった。ATSIの選手は、栄養がメンタルヘルスに与える影響をPasifikaの選手よりも低く評価していた。
これらの結果から著者は、「ラグビーリーグの選手の間で、民族のルーツによる背景や体組成により、栄養に対する態度、行動、知識に違いがあることが示唆された。この知見は、ラグビー選手の前向きな長期的変化を最適化するために、これらの要因を考慮した栄養教育介入の設計に役立つ」と述べ、また「特定の集団に向けたスポーツ栄養ガイドラインの開発が求められる」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional knowledge, attitudes and behaviours in rugby league; influences of age, body composition and ancestry」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2024 Dec;21(1):2411714〕
原文はこちら(Informa UK)
https://sndj-web.jp/news/003070.php