幼稚園が夏休みになった娘夫婦の息子の○くんは、どうやら毎日がとても忙しそうです。
娘は中高一貫の女子校時代の仲よしの友人たちと、「今日はこのグループで集まるの。だれそれちゃんちでランチなのよ」
「明日は,あのグループで、だれそれちゃんちでランチ」と,子持ちの彼女たちは子どもたちが夏休みになるのを待ち構えたようにランチ会を催しています。
○くんたち子どもも、当然連れ出されます。
他には幼稚園のサマースクールがあったり、家族旅行へ行ったりと、スケジュールが目白押しのようです。
ある日、やっと時間のできた○くんが電話をしてきました。
「今日、どこどこでお昼一緒に食べよ」
○くんが指定してきたのは近所のショッピングモール。
娘と三人でパスタを食べて、娘が1階のスーパーマーケットでお買い物をしていると、すかさず○くんが私に「チェ、つまらないの」と。
日頃、優等生的発言の多い○くんが、「チェ」とは・・・。
そう思ってみていると、彼は再び宣言しました。
「チェ、つまらないの」
買い物を終えてスーパーから出て来た娘に尋ねると、
「それ、『もりのへなそうる』の中の、お気に入りのフレーズなのよ。カッコいいと思ってるみたいで、それを真似しているのよ」
そう言えば、『もりのへなそうる』〔福音館書店〕の作者はわたなべしげおさんです。
渡辺さんは、『エルマーのぼうけん』など優れた海外児童文学の翻訳者でもあります。
日本の児童文学で「チェ、つまらないの」といういい方は、60年代くらいの児童文学では見かけることはありましたが、近ごろではリアリティがなさすぎて見かけないフレーズです。
そのちょっと翻訳調のフレーズが3歳の○くんにはとても新鮮で、なおかつどこか男らしく響いたようです。
ですから、ちょっと拗ねたような表情をし「チェ、つまらないの」と言った瞬間、自分が背伸びしたような気持ちになるのかも知れません。
小さな子どもが本のなかのちょっとしたセリフを胸にとめ、それを日常で使ってみたくなる・・・。
そんな本の存在に、なんだかねたましいような、まぶしいような気持ちで、彼の「チェ」を聞いていました。