たいへん遅くなってしまいましたが、友人の皆さんの新刊4冊をご紹介いたします。
あと3冊は、次の機会に・・・。
『カンナ道のむこうへ』(くぼひでき・小峰書店)
第10回長編児童文学新人賞の受賞作です。
最終選考で拝読したときから、筆運びの軽妙さと、作品のやわやかさが印象に残っていましたが、本になってもそれは変わりません。
私はこの作品が受賞したとき、その選考評にこう書かせていただきました。
「ささやかな日常をカンナという少女の存在感を手がかりにかいていくという手法は、大きな出来事が起きるわけではないのに、そのやわらかな感性と行間に惹かれた」
この作品の特徴は、やわらかな感性と、ゆったりと流れる少女たちの時間です。
自分は将来、なにになりたいのだろう。
夢に向かって邁進している母と従姉妹のすがたをみながらカンナは思います。
練れた文体で、物語はゆったりと流れていきます。
折々にはさまれたお菓子のレシピも魅力的。
とてもセンスを感じさせる1冊に仕上がっています。
『見習いプリンスポーリーン ローゼンヒルのばら姫』(円山夢久・国土社)
見習いプリンスポーリーンシリーズの第一巻です。
円山久夢さんは、第6回電撃ゲーム小説大賞をお取りになった作家です。
主にライトノベルをお書きになっていらした方なので、この物語もキャラクターがとてもしっかりと出来ていて、ストーリーをぐいぐい読み進ませます。
王の十二騎士に憧れるポーリーンは、行儀見習いのため、ファルコンヒルのお城へやってきます。
そこで大騒ぎになっていたのは、うつくしいことで有名な「リアナ姫」。その「リアナ姫」を狙っている「ギルモア卿」。
「リアナ姫」とはいったいだれだったのでしょう。また「ギルモア卿」とは・・・。
そういったキーワードを散りばめながらストーリーは展開されていきます。
そういった謎に、読者の胸はどきどきさせられながら、お城での暮らしや、それを取り巻くわくわく感が描写されている「お姫様」物語です。
出てくる小道具も、登場人物も、読者を飽きさせない作りになっています。
なお、このシリーズは第三巻まで続くそうです。
『八月の光』(朽木祥・偕成社)
ヒロシマ生まれの朽木さんの書かれた、あの朝の出来事の描かれた「雛の顔」「石の記憶」「水の緘黙」、この3編からなる短編集です。
ここでは、その中から「石の記憶」をご紹介します。
父を戦争で亡くした「光子」の脳裏には、幼かったころ遠く沖まで泳いでいってしまった父の残像が浮かび、母と海水浴にいっても、いつしかあの沖から父が帰ってくるような気がしてなりません。
縫い物で生計を立てている母は、その朝、その仕立物を「光子」にゆだね、銀行へ出かけていきました。
しばらくしてすざましい光が閃き、光子は床にたたきつけられました。
やはりストーリーをこうして追いながらご紹介すると、この作品のすごさが霧消してしまうような不安を覚えます。
この作品のすごいところは、感情移入しない冷静な描写と乾いた筆の力で描かれているところです。
そのことであの朝のヒロシマの悲惨さ、人びとの苦しさ、怖さが伝わってきます。
秀逸なのは、銀行の前の石段に座って銀行が開くのを待っていた母の、その姿が黒い影だけになって石段に残っているシーン。
泣くのでも、叫ぶのでもなく、淡々と描写しながら、悲しみと怒りを滲ませていく手法。
この本に収録されている3編すべてが、そういった手法で描かれていて胸を打ちます。
『たのしいピクニック』(いしいむつみ・BL出版)
にんじんのサンドイッチを持ったうさぎが、くまをたずねます。
でもドアには「でかけています」と張り紙が・・・。
そのくまは、きつねをたずねていっていました。でもきつねはいませんでした。
きつねはリスの家にいっていたのです。
そしてリスはうさぎのいえに・・・。
そこにカラスの声が・・・。
「おかしいよう、ぐるぐるまわってて、おかしいよう。リスはうさぎにあえなくて、うさぎはくまにあえなくて。くまはきつねにあえなくて、きつねはりすにあえなくて、みんなしょんぼりしているよ」
カラスの声に、みんなは気がつきます。
「いきちがいになっていたの?」と。
この行き違いのパターンが、幼児をわくわくさせます。
やさしくて、かわいい色調と、お話の可愛らしさがとてもマッチした絵本です。
皆さま、どうぞお読みになってください。
あと3冊は、次の機会に・・・。
『カンナ道のむこうへ』(くぼひでき・小峰書店)
第10回長編児童文学新人賞の受賞作です。
最終選考で拝読したときから、筆運びの軽妙さと、作品のやわやかさが印象に残っていましたが、本になってもそれは変わりません。
私はこの作品が受賞したとき、その選考評にこう書かせていただきました。
「ささやかな日常をカンナという少女の存在感を手がかりにかいていくという手法は、大きな出来事が起きるわけではないのに、そのやわらかな感性と行間に惹かれた」
この作品の特徴は、やわらかな感性と、ゆったりと流れる少女たちの時間です。
自分は将来、なにになりたいのだろう。
夢に向かって邁進している母と従姉妹のすがたをみながらカンナは思います。
練れた文体で、物語はゆったりと流れていきます。
折々にはさまれたお菓子のレシピも魅力的。
とてもセンスを感じさせる1冊に仕上がっています。
『見習いプリンスポーリーン ローゼンヒルのばら姫』(円山夢久・国土社)
見習いプリンスポーリーンシリーズの第一巻です。
円山久夢さんは、第6回電撃ゲーム小説大賞をお取りになった作家です。
主にライトノベルをお書きになっていらした方なので、この物語もキャラクターがとてもしっかりと出来ていて、ストーリーをぐいぐい読み進ませます。
王の十二騎士に憧れるポーリーンは、行儀見習いのため、ファルコンヒルのお城へやってきます。
そこで大騒ぎになっていたのは、うつくしいことで有名な「リアナ姫」。その「リアナ姫」を狙っている「ギルモア卿」。
「リアナ姫」とはいったいだれだったのでしょう。また「ギルモア卿」とは・・・。
そういったキーワードを散りばめながらストーリーは展開されていきます。
そういった謎に、読者の胸はどきどきさせられながら、お城での暮らしや、それを取り巻くわくわく感が描写されている「お姫様」物語です。
出てくる小道具も、登場人物も、読者を飽きさせない作りになっています。
なお、このシリーズは第三巻まで続くそうです。
『八月の光』(朽木祥・偕成社)
ヒロシマ生まれの朽木さんの書かれた、あの朝の出来事の描かれた「雛の顔」「石の記憶」「水の緘黙」、この3編からなる短編集です。
ここでは、その中から「石の記憶」をご紹介します。
父を戦争で亡くした「光子」の脳裏には、幼かったころ遠く沖まで泳いでいってしまった父の残像が浮かび、母と海水浴にいっても、いつしかあの沖から父が帰ってくるような気がしてなりません。
縫い物で生計を立てている母は、その朝、その仕立物を「光子」にゆだね、銀行へ出かけていきました。
しばらくしてすざましい光が閃き、光子は床にたたきつけられました。
やはりストーリーをこうして追いながらご紹介すると、この作品のすごさが霧消してしまうような不安を覚えます。
この作品のすごいところは、感情移入しない冷静な描写と乾いた筆の力で描かれているところです。
そのことであの朝のヒロシマの悲惨さ、人びとの苦しさ、怖さが伝わってきます。
秀逸なのは、銀行の前の石段に座って銀行が開くのを待っていた母の、その姿が黒い影だけになって石段に残っているシーン。
泣くのでも、叫ぶのでもなく、淡々と描写しながら、悲しみと怒りを滲ませていく手法。
この本に収録されている3編すべてが、そういった手法で描かれていて胸を打ちます。
『たのしいピクニック』(いしいむつみ・BL出版)
にんじんのサンドイッチを持ったうさぎが、くまをたずねます。
でもドアには「でかけています」と張り紙が・・・。
そのくまは、きつねをたずねていっていました。でもきつねはいませんでした。
きつねはリスの家にいっていたのです。
そしてリスはうさぎのいえに・・・。
そこにカラスの声が・・・。
「おかしいよう、ぐるぐるまわってて、おかしいよう。リスはうさぎにあえなくて、うさぎはくまにあえなくて。くまはきつねにあえなくて、きつねはりすにあえなくて、みんなしょんぼりしているよ」
カラスの声に、みんなは気がつきます。
「いきちがいになっていたの?」と。
この行き違いのパターンが、幼児をわくわくさせます。
やさしくて、かわいい色調と、お話の可愛らしさがとてもマッチした絵本です。
皆さま、どうぞお読みになってください。