繭玉を見ると、子どもの頃を思い出します。
ああ、もうそんな季節になったのだなと。
秩父の実家から歩いて、20分くらいのところに虚空蔵さまと言うお寺が、長い石段の上にありました。
そこで、1月15日前後にお祭りがあり、ダルマ市や、縁日が開かれ、そこで繭玉を売っていました。
昔は「繭や蚕が無事に育ちますように」と言う、養蚕家のための行事だったようです。
子どもの頃、その市で、べっこう飴や、わた飴などを買ってもらった記憶があり、大人たちは、ダルマを買って帰ってきたような記憶があります。
話は、繭玉から逸れますが、その古びたお寺で、印象に残っているのが、小学校の頃の夏休み。
昆虫採集のため、その石段を登っていくと、住人のいないお寺の下に、大きな蟻地獄を見つけました。
夏木立と、草いきれ、朽ちかけたお寺。その下にあったさらさらした土の中に、蟻たちが、どんどん吸い込まれていくのです。
その蟻地獄が、成虫になると、あの透き通った羽をもつ、ウスバカゲロウになると知った時は、驚きました。
「昆虫記」を書いたファーブルが、ふんころがし(スカラベ・サクレ)を見つけた時の楽しさと驚きを、2~3年前、ファーブルの伝記を書いているとき、私は、蟻地獄とウスバカゲロウの関係を思いだしながら書いていました。
自然を生きる、生き物たちの面白さを感じながら・・・。
さて、そのお寺、虚空蔵さまの縁日は、武甲おろしの吹き荒ぶ、盆地である秩父の寒い冬のさなかでした。
白装束の男の人たちが、「ドンツク、ドンツク、ドンドンツク」と、太鼓でリズムを取りながら「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」と、唱えながら、夜の闇を歩いて行きました。
その太鼓と、お念仏を唱える声が聞こえてくると、「ああ、虚空蔵さまの縁日が、近いんだな」と、子ども心に思ったものです。
虚空蔵さまと、その白装束の男の人たちとの関係は、よくわかりませんが、夜の闇に響くその音には、いつも、えも言われぬ恐怖心を感じたものです。
もう長いこと、虚空蔵さまには、いっておりませんが、こんな繭玉をデパートで見かけると、あの寒空、虚空蔵さまに向かって歩く白装束の男の人たちの一団を思い浮かべます。
あの人たちは、いったい、なんだったのかしらと。