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東方出版社刊 (四六版)220頁 1500円
「ひとり歩きの金剛山」「中高年山と出会う」「アジアの山紀行」「はじめての四〇〇〇メートル」(いずれも、山と渓谷社刊)とこれまで登山についての著作を続けてこられた藤田健次郎さんが「山から趣向を変えて」発表された最新刊(1月23日発行)。
四国八十八か所の札所を奥さんと二人で「歩き遍路」された巡礼記です。
読み終わって(読んでいる途中でも)の感想は、藤田さんご夫妻への敬意、賞讃、羨望と共に、「私たち夫婦なら歩き通せるだろうか?」という素朴な疑念でした。
全行程1200キロ、合計47日間を歩き通すという難行苦行を、著者は「あとがき」で『疲労困憊のかたわら「歩く」喜びを堪能…』とさらりと書いておられます。
しかし、夏の暑さ、雷雨などの厳しい自然の中、足の痛さを庇いながら歩き続ける苦労は想像するに余りあります。
現に藤田さんも、何度か「なぜこんなことをしているのか」と疑念をもたれ、途中で頓挫されかけています。そして、その度に、励まし元気づけられたのは四国の人の温かい心と、お接待だったと振り返られています。
道後温泉の入湯券(二人分1600円)を買ってくれた人、昼食の弁当を無料にする旅館、無料の宿泊所に刺身付きの夕食まで運んでくれる人…
「お接待」については話には聞いていましたが、これほどまでとは想像あいていませんでした。
お遍路さんを大事にするのは、肉身のお遍路さんでなく内なる「仏身」のためとはいえ、こんな温かい人の心の残っている日本はまだまだ捨てたものではないと思いました。
この本には歩く視点でしか味わえない自然、風景の移り変わりや人とのふれあいが元新聞記者らしい行き届いた細かい観察眼で描かれています。
また、札所のお寺の対応、トイレ、道路やトンネルの状況、町や村の様子は図らずも現在の文明・社会批評になっています。
巻末の「お遍路メモ」は、これからお遍路を志す人への何よりのガイドですが、文中にさりげなくでてくる旅館やお寺の話も、実際に歩くときの大事な参考になることが多いと思います。お遍路さんに興味をお持ちの方には必見の本ですが…
さて、私の心はまだ「私も歩いてみたいなあ」という羨望と、「無理やろうなあ」という諦めの間で揺れ動いています。