広島大学旧理学部一号館←被爆建物近くに咲くムラサキツユクサ。2011年。
ピンクは劣性遺伝でたまにある色だそうで、放射線には関係がない。放射線の影響はオシベに顕れるらしい。生殖機能が異常をきたす?
三つの作品から成る短編集。袋小路とは家がその場所にあるからで、追い詰められているわけではないけれど、付かず離れずの二人の関係を暗示している。
袋小路の男
高校で一学年上だったあなた、私は思い続けるけれど、思いはかなわない。ただ細い糸でつながっていて、進学しても就職しても何かのきっかけで連絡を取り合い、会えば話をする。私はあなたが好きだけど、あなたは一定の距離以上には近寄らせない。
あなたはジャズバーでアルバイトをしながら小説雑誌の新人賞に応募し続けている。結果はまだでてないが、私は応援し、飲みに行った帰り、酔って自分の部屋に来てもそっと寝かせるだけ。
小田切孝の言い分
前作を三人称で書いている。小田切は文芸誌の新人募集で佳作になり、短いものが雑誌に載る。しかし、あとが続かず、行き詰る。
大谷日向子は会社勤めをしながら、別の男とも付き合うが長く続かない。うっかり妊娠してその中絶手術に付き添ってくれる。
結婚するでもなく、別れるでもなく、二人は中年に差し掛かる。そして日向子は小田切の近くにマンションを買って引っ越すことにする。
二作とも面白かった。人と人の関係を表す言葉はいくつかある。男と女なら、友達、恋人、夫婦、不倫関係とそのくらいだろうか。二人には性的な関係がないけれど、友達と呼ぶには近すぎるし、と言っても男女の仲ではないので、言いようがない。この距離感が絶妙。思っても報われないのに、離れられない。恨みつらみはなく、さらりと乾いている。気が付くと、お互い、相手のことをよく分かってたりする。
うーーーん、こんな関係に陥ったら辛いだろうか。辛くないような気がする。血の繋がっていない身内のような感覚、それもかなり親しい間柄。間柄に二人が安心している。合わせ鏡のように、相手を見ながら年月を重ねていく。女の方がずっと大人だと思った。男は賢い女だから、振り回されることもない。なかなか現実にはありそうにないけれど、あったら面白いだろうなあと思った。