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親本は2015年、文庫本が2018年刊行。
著者はテレビ番組「報道1930」に出演する歴史学者。そのコメントが無駄のない言葉で正鵠を射ることが多いので、どんな人かなととりあえず本書を読む。
戦場で実際に戦った人の体験談を集めていて、迫力があった。著者は40年間にわたり、4千人から話を聞いたそうで、公にされた戦史から漏れた、戦争の悲惨さ、非人間性を具体的に知ることができた。
戦争とはだれが決めるのか知らないけど、状況を知らない軍や政治の中枢部の人が思い込みで始めるのかなあと、そのあまりに非科学的な態度から思った。
吉田裕氏の著書「餓死した英霊たち」の中では、日本軍がいかに補給をいい加減に考えていたかがよく分かって怒りを禁じえなかったのだけど、この本では中国戦線でも兵站は全然機能してなくて、現地調達という名の略奪。
徴用工は全然集まらないので、民家に押し入って家族で食事している若い父親をさらってきて日本の炭坑で働かせた事例、中国の戦地で民家を焼き払い、子供を殺す、インドネシアでは村の主な指導者をスパイの容疑を着せて虐殺する・・・とか、一つ一つの事例を保坂氏は丁寧に聞き出している。
私たちは、特に広島では原爆の被害を言うのは受け入れられやすいけど、戦争の時、中国大陸や東南アジア、太平洋の島々で日本軍がどんなことをしたか、記録して後世に残す動きがあまりに少ないのではないだろうか。
それがなぜか、本書にもあるが、要するに都合の悪いことはなかったことにする無言の力が働いていたと分析する。
敗戦時にはたくさんの書類が燃やされた。いいことも悪いことも記録に残して後世の判断に任せることをしないから、南京大虐殺も、例えば死者数について反論する資料がないということになる。著者はそう言っている。公文書を残すのは本当に大切と、森友事件で自殺者を出した経緯からも改めて思う。
話はあちこち跳びますが、軍隊内では性病がとても蔓延していたこと。慰安所は定期的に検査していたらしいけど、それ以外の場所で感染したら、たちまち部隊の中に広まり、戦闘能力が著しく損なわれるらしい。
慰安所は日本軍が侵攻したところには、業者を通じてすぐに設置されたこと。兵士はそこでのんびりと本読んだり、ただ体を休める場合もあったらしい。つかの間の自由空間。
どれも戦場での具体的な話で、初めて読むタイプの本で私なりの知見を広げられたと思う。