■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 2008 ニューノーマルを考える(2) 見えてきた7つのメガトレンド「アフター・コロナ」
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
ニューノーマルを考える(2)
■ 今日のおすすめ
『見えてきた7つのメガトレンド「アフター・コロナ」
30人の論客が予測する新常態(ニューノーマル)』
(日経クロステック編 発行:日経BP)
■ パンデミックの歴史を振り返る(はじめに)
世界の歴史の政治・経済・社会に大きな影響を与えた感染症のパンデミック(世界的流行)について振り返ってみましょう。歴史上パンデミックに至った感染症を病原菌別にみてみると、①新型コロナウィルス(COVID-19)②コロナウィルス(SARS、MARS)③ペスト菌(ペスト・黒死病)④天然痘ウィルス⑤麻疹(はしか)ウィルス⑥チフス菌⑦らい菌(ハンセン氏病)⑧インフルエンザウィルス(スペイン風邪、アジア風、新型インフルエンザ)⑨コレラ菌⑩その他(結核菌、ポリオウィルス、エボラウィルス、フラビウィルス=日本脳炎、マラリア原虫、等々)があります。
これらの病原菌に基づく感染症はその時代の政治・経済・社会に大きな影響を与えてきましたが、COVID-19以外の感染症の中で最も大きな影響を及ぼした感染症はペストと言われています。
ペストのパンデミックは、
第一次;AD541-750。その後の東ローマ帝国と神聖ローマ帝国の盛衰の分岐点になったと言われる。
第二次;AD1331-1855。AD1331最初の感染地中国では1億人が死亡し当時の中国の人口半減の要因と言われている。AD1347にイタリアに上陸したペストは、1348年にはヨーロッパ大陸北部まで流行し14世紀末までにはヨーロッパの人口の3分の1乃至は4分の1の約2500万人が死亡したと言われる。19世紀の半ばにかけてはイギリス、北アフリカ、東ヨーロッパ、ロシア、オスマン帝国などで感染が広がる。
第三次;AD1855-1994。AD1855中国で発生が始まったペストは、第二次世界大戦にかけて、香港、アメリカ、メキシコ、インド、東南アジア、南アジア、満州、ロシア、日本(1902-1905)などに広がり、1911年には中国(清)が中心となり国際ペスト会議(英・独・仏・蘭・墺・米・メキシコが参加)が開かれるなど世界的な感染拡大を見る。その後もベトナム戦争(1960)、インド(1994)で大流行する。
以上3つの大きな波がありました。
この3つの波の中で、政治・経済・社会の大きな変化をもたらしたのは、第二次の波です。第二次の波は、当時の産業の中心であった農業の担い手である農民の死亡者を多く出し、農民の地位が上がると同時に封建領主の地位の低下を招き封建制度が崩壊します。もう一つの権力であった教皇をトップとする教会もペストには全くの無力でした。聖職者自身がペストに罹る等権威が失墜したのです。こうして2つの権力である教会・領主の権力失墜が新たな社会をもたらしたと言われています。新たな社会とはルネッサンスと資本主義、更には宗教改革でした。
ルネッサンスは、勿論ペスト以外の要因もありますが、中世の教会の支配と決別し人間を解放・再生する運動として生まれ、封建領主に変わる富裕商人がバックボーンとなり発展したと言われています。
資本主義については、封建社会では領主の所有する土地で農作物を作り皆で分けて生活をしていましたが、ペストによる労働力不足から体制を維持できなくなり、土地の所有者から土地を借りた意欲ある農業事業者が生産性を高め発展する社会へと移行し、そのことが資本主義に繋がる一つの要因となったと言われています。
宗教改革については、中世を支配したローマ教会の権威がペストで失墜し、もう一度原点に返ってキリスト教の信仰を確認してみようとしたウィクリフ、フス、ルター,ツヴィングリ、カルヴァンの一連の流れの宗教改革に繋がったと言われています。
パンデミックが政治・経済・社会に大きな影響を与えて来た歴史を見てきましたが、死者数は少ないものの、感染者の地域の広がりという点では類を見ないCOVID-19のアフターはどうなるのでしょう。まだまだ終息していない時点で、先の見通しは難しいですが次項で紹介本の「見えてきた7つのメガトレンド」をご紹介しましょう。
■ アフター・コロナの『見えてきた「7つのメガトレンド」』
【「7つのメガトレンド」とは】
紹介本が示す「7つのメガトレンド」は次の通りです。①分散型都市(都市への人口集中の課題が浮き彫りに/分散型のコミュニティーの取り組みが世界中で起こる)②ヒューマントレサビリティ―(中国的な「監視社会」型ではなく、「公益性と個人情報法保護」の双方を充足出来る新たな価値を生むシステムが出現する)③ニュー・リアリティー(オンラインは最早バーチャルではない/ WEB会議、無人コールセンタ、在宅での監査業務、オンライン診療などリアルの価値の再定義が進む)④職住融合(オフィスは執務の場からコミュニケーションの場へ/住宅は「DK」⇒「L〈living〉DK」⇒「W〈working〉LDK」へ)⑤コンタクトレス・テック(様々な非接触を実現するテクノロジーの出現・発展)⑥デジタル・レンディング(一定のAIデータに基づくデジタル融資の進展/日本・世界でのデジタル通貨の進展)⑦フルーガル・イノベーション(速さと非対面が求められる安価で高機能の製品・システムの開発が進む/その例として、安価でスピーディーに生産できる簡易型人工呼吸器、物流や小売りなどにICTの取込み、ライブ配信による商品販売など)の7つです。
この7つのトレンドで私が最も注目するトレンド「コンタクトレッス・テック」について次に記します。その他のトレンドについても注目すべき点があります。是非紹介本をお読み下さい。
【最も注目したいトレンド「コンタクトレッス・テック」】
パンデミックの歴史で見ましたペストは、1984年の北里柴三郎によるウィルス菌の発見、抗血清による治療法が発見まで、14世紀初めの第二次パンデミックの始まりから1960年のベトナム戦争のパンデミックまでの6世紀の間に、2~3年置き或いは数十年置きに世界各地でパンデミックが発生しています。COVID-19も、たとえワクチンが発見・接種されても、COVID-19ウィルスの変異や新たな感染症ウィルスの発生等を考えると感染症対応は恒久的に必要と思われます。
その意味においては、アフター・コロナのトレンドは一時的ではなく恒久的なものと考えるべきと思われます。「コンタクトレッス・テック」も現時点で出現しているものに止まらず、今後一層の進展・発展が計られると思われます。ここでは紹介本で示されている数十の事例の中から特徴的なものを見てみましょう。そこから将来の発展形を予想して頂ければと思います。
ビフォー・コロナ、ウイズ・コロナにおいて既に出現している、「ドローンの活用/アバターロボットの活用/自動荷運び車の活用」や「公共空間におけるエレベーターやディスプレイのタッチレスパネル」などは今後もさらに活用の場が広がるでしょう。
5Gの進展と並行して「ビデオ会議/建機などの遠隔操作/オンライン診療」等の機能の充実や利用機会の拡大が進むでしょう。
殺菌効果があり身体に安全な深紫外(DUV)LED照明が数年後実用化の見通しとされます。深紫外(DUV)LED照明は航空機などの公共交通機関への応用も期待されます。
この様に今までとは異なる社会価値(ノン・リアル、タッチレス、タッチレス殺菌)の再認識・発見とそれに伴う様々な技術のステップアップが期待されます。
P・F・ドラッカーの『企業家精神の知的基盤というべきイノベーションのノウハウは、変化にかかわるノウハウである』(イノベーションと企業家精神)にある「変化にかかわるノウハウに基づくイノベーション」のチャンスではないでしょうか。
■ アフター・コロナを前向きにとらえよう(むすび)
パンデミックの歴史で見ましたように、厳しいペストの第二次パンデミックの後に新しい時代が展開しました。アフター・コロナの先は未だ予測できませんが、間違いなく新たな時代が開けるのではないでしょうか。そんな希望をもって、目の前のリスクに迅速に対応しつつ、時代の変化に俊敏に対応する経営革新の道を歩もうではありませんか。
【酒井 闊 先生 プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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