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終身雇用と日本社会

2019-06-10 10:13:49 | 時事
最近経団連の会長やトヨタ自動車の社長が相次いで日本における終身雇用制度の継続が難しいとの認識を示し話題になりました。

これは日本産業界の終身雇用に対する終末期宣言と認識しなければいけないようです。

終身雇用の継続が難しいということは今になって分かった話ではなく、数年あるいは十数年前から状況に気づいた経営者や従業員はいたはずですが、タブー化された話を誰も言い出せなかっただけという見方もあります。

これを受けて、終身雇用を悪者扱いするような論調も出始めています。終身雇用があたかも日本企業や日本経済の成長を妨害する元凶であるかのように表現すれば、それを切り捨てることへの納得感も得られるのかもしれません。

しかし私はこの制度は日本の風土に合った良い習慣であり、守るべきものと考えています。ではなぜ終身雇用が日本に定着したのでしょうか。

まず終身雇用制度で企業はどのような利益を得ていたのかという観点では、『人材育成』が大きい気がします。

人材育成の解釈としては、長期的視野に立って現実に企業に貢献できる人材を育成することで、単に教育、訓練といった狭義の活動ではなく、主体性、自律性を持った人間としての一般能力の向上を図ることに重点を置き、企業の業績向上と従業員の個人的能力の発揮との統合をはかる(ブリタニカ)としています。

外資系企業では、従業員の教育研修を投資と見て、つねにその効率性や生産性をモニタリングしています。

一方日本企業は、高校・大学を出た新卒者を一斉採用して、「長期的視点」のもとで、「広義的人間性・一般能力の向上」の分野も併せて教育していきます。これは社員の定年退職まで半生以上も付き合っていく労使の「運命共同体」という存在をなくしてあり得ない話です。

いかなる教育投資もリターンがほぼ確約されている以上、企業は安心して投資できるわけです。さらに教育投資の大部分は、OJTという実際の業務に沿った形で、先輩が後輩に教えるという日本的な教育方式を取っています。

欧米では一般的にノウハウやスキルは特定の従業員の私有物である以上、競争相手となる他の従業員には教えようとしないようです。

しかし日本企業は終身雇用制度のもとで、この様な社員間のスキル的な競争が奨励されておらず、共同体意識が最上位の概念として機能しています。

今回は人材育成という観点から、日本の終身雇用制度のメリットについて書きましたが、その他色々な利点からこれが日本の社会に定着したと考えられます。

この終身雇用制は法律でもなく何ら強制性もないのにここまで機能できたのか、なぜここにきてそれが崩れそうなのか、考えると面白い問題と言えます。