「生物の毒」が宝の山に変わるかもしれない

あまり身近な動物ではありませんが、蛇やクモ、サソリ、フグなど身体に「毒」を持つ動物は多数存在します。

地球上にはこのような毒をもつ動物は20万種以上存在しており、こういった生物毒が人の暮らしをよくする可能性を秘めた「宝の山」として注目されているようです。

生物毒はたくさんの毒素が混ざり合ってできたもので、一つひとつの毒素はターゲットとなる分子にピンポイントで作用しています。またある動物には効くのに、他の動物には効果が無いというように動物の種ごとに作用が異なるという「特異性」を持っています。

この特徴を利用して毒素から副作用の少ない薬や、害虫だけを攻撃する農薬を開発しようという研究が世界各国で進行しています。

生物が毒をもつ理由として、「捕食」と「防御」の2つの使い道があるとされています。例えばサソリやへびなどが持つのは捕食のためで、獲物の神経や筋肉に作用する毒液を体内に入れることで、相手の動きを止めて捕らえます。

また防御の例としてはカエルの毒で、毒液を表面に分泌することで天敵に「食べられない」ということを伝えています。進化の過程でどうやって毒をもつという性質を身につけたのかは非常に興味のあるところです。

九州大学の研究では、ハブのすべての遺伝子を解読することに成功し、毒腺を作る遺伝子は元は唾液腺を作る遺伝子だったことが判明しています。さてこの動物の持つ毒を画期的な「クスリ」に変換するという研究も進んでいます。

フランスの政府の研究機関では、アフリカに生息する毒蛇のグリーンマンバの毒素から、多発性嚢胞腎という難病の治療薬を開発しようとしています。

多発性嚢胞腎は腎臓に存在する受容体に、ホルモンの一種が結合することが引き金となって嚢胞と呼ばれる組織が腎臓の表面にでき、腎臓の機能を阻害してしまう遺伝性の病気です。

このへびの毒素が腎臓の受容体に特異的に結合するという特徴を発見し、毒素を投与することでホルモンの結合を防ぐことができることを明らかにしました。この様な毒素の特異性を利用した研究は多いのですが、生物毒を用いるには非常に高い壁が存在しています。

それは原料となる毒素の入手法となります。一般に毒素はそれを持つ個体のごくわずかしか存在していません。もし薬として良い結果が出たとしても、動物実験など多数の動物に使用する場合、その毒素をどうやって集めるかが問題となるわけです。

蛇を何万匹も飼育し、そこから毒素を集めるというのはとても現実的には無理なことになります。現在も天然毒の研究はかなり行われており毒が宝の山であることも確かですが、このどうやって原料（毒素）を大量に集めるかは難しい問題といえそうです。