ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

「基礎研究」は何の役に立つのか

2020-06-02 10:25:04 | 化学
研究をしていると、何の役に立つのかという質問をされますが、この答えはなかなか難しいものです。

私はずっと「新しい薬を作り出す」という研究ですので、上記のような質問をされることはないのですが、実際にやっていることはほとんどの人が理解できないようなことです。

大学などは「基礎研究」が多いのですが、私の知り合いの青山学院大学の女性教授が面白い回答をしていましたので紹介します。この先生の専門は錯体化学という、分かりやすく説明できないような研究ですが、なかなか面白い成果を出しているようです。

この先生はまず「自然の色」から入っていますが、現在は草や葉の緑色にあふれています。この緑色の正体はクロロフィルで、光合成の中心的役割を果たしている物質です。

ちなみに私はこのクロロフィルが自然界で最も美しい「錯体」であると思っています。季節の移ろいとともに葉の色は変化していきます。秋から冬にかけてはクロロフィルを含むタンパク質が寒さにより分解し、クロロフィルも分解されるため緑色がなくなってきます。

一方葉にはクロロフィルのほかにカロテノイドという色素体も含まれていて、私たちの眼には「黄色」と認識されます。

カロテノイドの黄色は、通常はクロロフィルの緑色に隠れているため、葉は緑いろに見えますが、クロロフィルの分解が進むと、それまで目立たなかった寒さに強いカロテノイドの存在が前面に出てくるので、黄色に見えてくるのです。

植物によっては秋になるとアントシアニンと呼ばれる色素が葉の内部で作られるため、葉が赤く染まったように見えることもあります。

これは紅葉の化学的なメカニズムの説明ですが、こういった原理が分かると葉の紅葉の色は木に含まれるタンパク質などの情報を理解する手段に使えるかもしれません。このように地球上のあらゆる現象には、全て意味や理由が存在しています。

そういった「なぜ」や「どうして」の答えを、自然との対話の中から発見し、例えば次の材料開発に結び付けるための研究が「基礎研究である」としています。

この基礎研究によって得られた成果が、すぐに実用化に結び着くことは多くはありません。しかし新たな原理を発見することができれば、現代社会が抱える課題を解決し、人々の暮らしを劇的に変える可能性も見えてくるのです。

この研究室の学生は、就職の面接でやはり研究が何の役に立つのか聞かれることが多いようです。

そこでこの先生は「研究室の特徴は、すぐに役立つことを目指した研究ではなく、永遠の真理を追究するような大学でしかできない研究をしている点です。新しい材料を設計するときの原理にもつながる研究です」と答えるように指導しているようです。

やはり基礎研究が何の役に立つのかは、なかなかわかりにくい質問と言えそうです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿