ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

脳の伝達手法の解明

2020-01-06 10:27:12 | 自然
私は昔から脳に興味を持っていましたが、依然としてブラックボックスのような感じがしています。

脳からの電気信号が色々な器官を動かしたりしていますが、それがどういう情報なのかをどうやって分かるのかなど、色々な部分が不明なままです。

神経細胞はシナプスで繋がっており、ひとつの神経細胞が「発火」するとそれにつながる別の細胞へと電気信号が送られるという事はよく知られています。しかしこの単純なモデルでは解明できていないことも多く、例えば神経細胞の発火のどこに情報が載せられているかなどは分かっていません。

神経細胞による情報の符号化を説明しようとした理論は2つあり、「発火率表現」モデルと「タイミング表現」モデルというものです。

発火表現モデルは、一定期間に何回スパイク(神経細胞の発火)が起きるかに情報が載せられているという考えかたです。一方タイミング表現モデルでは、モールス信号のようなさまざまな発火パターンがあり、そのパターンに情報が載っていると考えるものです。

このタイミング表現モデルには難問があり、次に発火するまでの期間が長いか短いを判断する基準が必要となります。つまりメトロノームのように一定のリズムを刻む何かが脳に備わっている必要があるのです。

脳の時を刻むクロックは、ガンマ振動と呼ばれる半規則的な脳波に存在するという考えもありますが、このクロックは一定のリズムを刻んでいるわけではないようです。まぶしい光など、その人の体験に応じて早くなったり遅くなったりする可能性があります。

ブラウン大学でガンマ振動を研究しているグループは、ある程度一定した頻度で発火するだけでなく、どんな刺激下でも発火頻度を保つ神経細胞を発見しました。

このグループは過去の実験で、人工的に自然なガンマ振動をマウスに引き起こすことによって、マウスのひげの感度が良くなったことを実証しています。わずかな感触も感知できるという事は、より注意深くなったと解釈できます。

今回の研究でも、マウスのひげにかすかに触れる実験を実施しましたが、グループはこのプロセスにおいて抑制性神経細胞の役割に注目しました。

抑制性神経細胞は、周りの神経細胞の活動を制御し、脳内に過剰電流が流れないようにしている細胞で、脳内におけるガンマ振動の一因にもなっています。

研究グループはこの抑制性神経細胞を3種類発見し、そのうちのひとつがガンマ振動に合わせて驚くほど一定頻度で発火する神経細胞でした。

これによってタイミング表現モデルの可能性がやや高まったという程度で、やはり脳というのはなかなか解明できるものではない様です。

脳の病気iPS細胞で再現成功

2020-01-05 10:21:11 | 健康・医療
神戸大学などの研究チームは、ヒトiPS細胞を使って脳の一部の「下垂体」ができない患者の病気の状態を試験管内で再現することに成功した、と発表しました。

病気の原因遺伝子のひとつが分かったほか、他の下垂体の病気の原因解明や治療法の開発に役立つ可能性があります。

この病気は先天的に脳にある下垂体がうまく形成されず、ホルモンの分泌が減少する「下垂体機能低下症」と呼ばれています。下垂体は「ホルモンの司令塔」と呼ばれ、成長ホルモンなどの分泌を制御します。

下垂体低下症になると、成長が止まったり疲れやすくなったり、不妊や血圧低下などが現れたりします。生まれつき下垂体が正常に形成されていない先天性下垂体形成不全の患者のほとんどが発症しますが、これまでホルモンの補充で症状を抑えるしかありませんでした。

研究では患者の血液からiPS細胞を作製し、試験管内で分化させ変化の過程や遺伝子などを解析しました。その結果遺伝子変異によって、下垂体の隣にある視床下部から分泌されるタンパク質が欠乏すると、下垂体形成に悪影響が出ることが判明しました。

やや専門的になりますが、正常な細胞ではホルモン産生細胞まで分化できるのに対して、この患者由来のiPS細胞ではホルモン産生細胞に分化できませんでした。

その分化過程を詳細に調べた結果、下垂体分化に必要な転写因子LHX3が発現していません。またこの患者の遺伝子をエクソーム解析で調べたところ、OTX2遺伝子に変異が同定され、これが原因の可能性が高いと考えれらています。

この患者由来のiPS細胞におけるこの遺伝子変異を修復したところ、正常な分化が回復したようです。下垂体は隣接した脳の一部である視床下部との相互作用によって分化維持されています。

この実験モデルには試験管内で下垂体と視床下部を同時に作ることができます。それを利用して今回の原因が視床下部にあるのか、下垂体にあるのかを解析し、視床下部が原因であることを突き止めました。

視床下部から分泌されるFGF10が下垂体におけるLHX3の発現に重要であることを見出しています。下垂体機能低下症は、先天的要因以外でも腫瘍などで発症します。研究チームは他の要因についても同様の方法で発症メカニズムの解明に取り組んでいます。

iPS細胞を利用した再生医療も進展していますが、非常に高額の費用がかかっているようです。その点今回の研究のような、病態の再現への利用は創薬への応用と共に、iPS細胞の良い応用方法と考えられます。

通常では取り出すことができない病態細胞のメカニズムの研究などが進んでいくことを期待しています。

全世代型社会保障の問題点

2020-01-04 10:23:43 | 時事
人生100年時代(私は現実にはあり得ないと思っています)に備えた全世代型社会保障検討会議の中間報告が公表されました。

この会議の目的は、労働市場や社会保障全般にわたる持続可能な制度への改革の検討としています。1つ目が高齢者に偏った社会保障制度の見直しで、2つ目は高齢者が社会保障の支え手となるための70歳就業の法制化などで、3つ目が医療費制度改革となっています。

人口高齢化に対応するための基本は、年齢にこだわらない社会の構築としています。20歳前後で新卒一括採用され、年齢に応じた賃金で働き、60歳で定年退職という年齢に縛られた日本の働き方は、高齢者の急速な増加の下で機能不全に陥っています。

また過去の経済成長期に、急速に豊かになる勤労世代と比べて「貧しい高齢者」の救済に重点を置いた社会保障制度も、豊かな団塊の世代が70歳代に突入する現在では、むしろ世代間の不公平を助長する要因となっています。

医療制度改革では、75歳以上の患者の窓口負担率や紹介状無しで大病院を受診した場合の患者負担額の引き上げ等、値上げ路線を軸にしたものに留まっています。こういう患者の自発的な受診抑制だけでは、高齢化で増える医療費負に対応できそうにないような気がします。

今回の75歳以上の自己負担率の2割への引き上げは、現行の70~74歳と同じ水準に合わせただけです。もともとなぜ年齢で差をつける必要があったのかが疑問といえます。

「年齢にこだわらない社会」であれば、患者の自己負担は年齢ではなく、その所得水準に応じて減免すべきものといえます。もともと日本社会は、全ての人たちが同じことが「平等」とされていましたが、所得水準という要素も含めて平等を定義するべきと思われます。

日本では患者が自由に医療機関を選べるフリーアクセスが長所とされていますが、これは患者が自らの病気を勝手に判断して、誤った診療科を受診する危険性もあります。

本来はあらかじめ登録した、どのような病気にも対応可能な家庭医を受診し、必要に応じて他の専門医や大病院への紹介を受けるという先進国での標準を取り入れるべきでしょう。

これは私の持論ですが、高齢となり傷んできた臓器は基本的に元には戻りません。ですから高齢者は病気を治すのではなく、症状を軽くする治療を受けるべきと思っています。

高齢で疲弊した臓器でも、大病院に行けば治してくれるというのは単なる夢であり、思い違いと気が付いてほしいものです。

次は年金問題ですが、平均寿命の伸長に比例した年金受給年齢の引き上げなしには、自動的に年金の平均受給期間が延び、財政を圧迫する大きな要因となるはずです。厚生年金の受給年齢が65歳になっても、日本人男性の平均寿命である81歳まで16年間も受給することになります。

これは他の先進国の平均が約10年であることと比べると世界最長となります。これが女性の場合は22年間と極端な長さとなります。世界でトップの平均寿命の日本では、70歳に引き上げることで、ほぼ他の先進国平均の10年強の給付期間となります。

中間報告に関連して勝手なことを書きましたが、これからは高齢者に厳しい社会としても良いような気がします。

単純そうで難解な「水素」

2020-01-03 10:35:30 | 化学
水素というとそれほど身近なものではありませんし、どういったものかはほとんどの人が知らない元素だと思われます。

それでも最近は東京では水素を燃料とした燃料電池タイプの都営バスが走っていたり、東京五輪でも水素が聖火の燃料として検討されているなど、水素社会が迫っているような気持ちになります。

現在文部科学省の科学研究費助成事業・新学術領域研究で「ハイドロジェノミクス」というプロジェクトが進んでいます。さまざまな分野の研究者が横断的に水素について研究を進め、水素の力を最大限まで引き出すことがプロジェクトの狙いです。

水素は原子番号1の最も基本的な元素で、酸素と反応しても原理的に水しか出ないクリーンエネルギーとして世界中で注目されています。日本では水素社会の実現を目指し、2017年に水素基本戦略が策定されました。

水素は色々な物質と組み合わさることで、これまでにはない優れた性質を発揮することができます。実は水素は最も変幻自在で、理解することが難しい元素のようです。

水素の状態としては、電子を一つ持っている状態(水素原子)、電子を一つ余分に持っている状態(ヒドリド)、電子を失った状態(プロトン)および電子を回りの原子と共有している状態の4つの状態を取ります。

さらに圧力や温度など外からの影響によって電子状態がとても柔軟に変わることができます。こういった水素の変幻自在な特性に関しては、現在の科学でも十分に理解されておらず、材料科学、化学、物理学、生物学の研究者によっても水素のイメージが全く異なっています。

今回のハイドロジェノミクスのように、水素を取り巻く色々な学問の研究者が一同に介して研究を進めているプロジェクトは過去にもなく、世界的にも初めてのユニークなプロジェクトと言われています。

水素は多くの物質の中に簡単に入り込んでしまうという性質があり、太陽電池のようにそれをうまく利用することもでき、鉄鋼材料の場合は水素が入り込むともろくなってしまうという事が起こります。

どちらの分野も独自に素晴らしい知見を蓄積していますので、それらを組み合わせながら物質と物質の間(界面)での水素の挙動解明を目指しているようです。

例えば、スマフォのバッテリーなどに使用されているリチウムイオン電池の中では、充放電の際にリチウムイオンが移動していますが、この動きを水素によってうまくコントロールすることが次世代電池を作るカギの一つとなっています。

またこのような水素の性質を理解することで、超伝導になる物質も発見されています。水素を使った難しい化学反応が実現できれば、医薬品などの開発も進むことになりそうです。

こういった水素の新しい特性などが解明されれば、面白い研究に応用できそうで期待しています。

骨を破壊する悪玉破骨細胞を発見

2020-01-02 10:29:37 | 健康・医療
大阪大学は、破骨細胞には正常な破骨細胞と性質・起源が異なる悪玉破骨細胞が存在することを発見したと発表しました。

炎症関節の細胞を採取・解析する技術を開発し、関節炎で病的に骨を破壊する悪玉破骨細胞を同定しました。古い骨を溶かす破骨細胞は、骨の内側に存在し骨を造る骨芽細胞と強調して骨構造を維持しています。

一方で関節リウマチなどの病的な状態では、関節組織に発生して骨を外側から壊すことで関節構造を破壊します。この内容とは若干異なっていますが、私も数カ月前テニスのゲーム中に膝関節をひねってしまい、強い痛みが出てしまいました。

帰りの車ではアクセルとブレーキの踏み替えも痛く、必死で運転するほどでした。次の日整形外科に行きいろいろ検査をした結果、加齢による軟骨のすり減りが原因という診断で、明らかに外的力による痛みのはずで納得できませんでしたが、構造的には問題がないようでしたので、湿布薬をもらって帰ってきました。

幸い強い痛みはすぐに消えましたが、力を加えると痛いという状況が続いたものの2か月ほどでほぼ完全に治りました。やはり関節というのは、なかなか難しい構造をしているようです。

さて今回の研究では、関節炎において病的な骨破壊が起こる部位の組織を単離する独自のプロトコールを開発しました。関節炎を発症した関節組織には、正常な骨には存在しない病的な破骨前駆細胞が存在することを発見しました。

研究グループは、この破骨前駆細胞をAtoMと命名しています。AtoMは、関節に常在する細胞からではなく、骨髄由来の細胞が血流を介して関節に流入した後、単球形細胞が破骨細胞へ分化するために必要なサイトカインに反応して発生します。

この内の約10%の細胞が、関節局所で病的な破骨細胞へと分化することが明らかになりました。また網羅的な遺伝子発現を調べたところ、AtoMがある転写因子によって部分的に制御されていることが示唆されました。

さらにこの転写因子の阻害薬が、マウスおよび関節リウマチ患者の関節液から採取した細胞において、破骨細胞への分化を阻害することも明らかになりました。

このように病的な悪玉破骨細胞が発生する過程が解明され、またこの悪玉破骨細胞への分化を阻害できる可能性も出てきたことになります。

さまざまな関節炎の内どの程度がこの悪玉破骨細胞に起因するかは分かっていませんが、今後関節の表面に形成される病的な破骨細胞への新たな治療法の開発が期待されています。

関節炎は人の活動の大きなマイナス要素になりますので、正常な動きに戻せるような治療法を確立してほしいものです。