後期の授業開始は1月27日(月)だから、一月余り授業およびその準備から解放される。少し気が楽である。しかし、その間の試験監督と採点作業は当然の義務として、後期開始以前にやっておくべきことや準備しておくべきことを数え上げたらかなりあり、昨日の記事で話題にした理由とは別に、この休暇中はあまり心が休まりそうにない。
まず、読んでコメントしなければならない演習レポートが30本あまり、指導中の修士論文が数本ある。
2011年から行っている夏期集中講義の来年度のシラバスの締め切りが1月12日。
後期、新たに担当する修士一年の「近現代文学」の演習と学部2年生の「現代文学」の講義の準備。この演習と講義は、現代文学が専門の同僚がずっと担当してきたのだが、その同僚が今年度からおそらく4年間出向で不在なので、とりあえず今年度は私が担当することになった。
それで昨日は修士一年の演習の講読図書を何にするかあれこれ考えていた。9月以降何度か思案したことはあったのだが、決められずにいた。
一回2時間の演習を6回、計12時間だから、そうたいした量は読ませられない。だから、本の一部のコピーでもPDF版でもよいようなものなのだが、それでは味気ない。学生たちに日本語の本を手にして読むという経験をさせたい。
「近現代文学」といっても広い意味でとらえてよいので、文学作品や文芸批評に分野を限定する必要はない。哲学的エッセイもありである。
ただ、一冊の本を選ぶにはいろいろと条件がある。まず、高い本を買わせるわけにはいかない。それで選択範囲はおのずと文庫か新書に限定される。価格としては800円(5€)あたりが上限。
一冊丸ごと読ませる時間はないにしても、演習内でいくらかはまとまった量を読ませたい。だから薄めの本のほうがよい。語彙や構文があまりにも難しい本は当然却下。
一方、私の方の事情として、上記の演習と講義以外にも今年度からの新設科目である学部2年の「仏文和訳」も後期担当するということがあり、これまでの蓄積が活かせない分、準備に時間がかかる。だから、修士の演習には、これまでの蓄積が活かすことができ、準備に時間をあまり必要としないテキストを選びたい。
と、今日も朝からあれこれ思案した結果、過去に二回「近現代思想」の演習で学生たちと一緒に読み、全仏訳がほぼ完成している三木清の『人生論ノート』に決定した。この作品は「青空文庫」で入手できるし、それをもとに授業で使いやすいように私の方で編集したPDF版もあるから、学生たちに金銭的負担をかけなくてもいいのだが、彼(女)らには角川ソフィア文庫の紙版(2017年)を購入してもらいたいと思っている(電子書籍版もある)。ただ、いくら安価でも購入を強制することはできないので、購入諾否を問うメールを学生たちに先ほど送った。
新潮文庫版のほうが安いのだが、現在どうやら新本は購入できないようだし、角川ソフィア文庫版には、『人生論ノート』の他に、三木の哲学の原点とも見做しうる若書きの『語られざる哲学』と一人娘洋子に宛てて書かれた感動的な文章「幼き者の為に」も収録されている(この文章については2017年12月17日の記事で取り上げている)し、岸見一郎氏による解説によって、三木の生涯にとって重要な出来事や時代背景ついて若干の知識が得られるという利点があるので、こちらの版にした。
学生たちと一緒に再度精読することで、きっと新たな発見もあるだろうと今から期待している。