ネット上で購入した紙の本を自宅以外の受取場所に取りに行くことが月に何度かある。注文時に受取場所の候補のなかから最も都合良い場所を普通は指定する。大抵は自宅から一番近いところを選ぶ。複数の受取可能な場所が距離の点で大差ない場合は、受取可能曜日・時間帯がより幅広い場所を選ぶ。これまで、受取に関して特段のトラブルはなかった。
ただ、配送請負業者によっては、こちらの承諾なしに、何らかの理由で、受け取り場所を一方的に変更してくることがたまにだがある。今日受け取りに行った本がそうだった。昨日夜に受取場所への配達が完了したとのメールが届いたのだが、その受取場所が指定した最寄りの場所ではなく、自宅から2,5キロほど離れた場所に変更されている。
以前だったら、「なに勝手に変更してんだよ!」と腹を立てていたに違いない。ところが、ジョギングを日課とするようになってから、受け取りを兼ねてジョギングあるいはウォーキングすればいいやと、少しも腹が立たなくなった。自転車ならば往復で30分も見れば十分だが、そんな楽をしては「もったいない」と思ってしまう。
で、今朝、小雪舞う中、歩いて取りに行った。なぜ走らなかったかといえば、深夜に降った雪で歩道は覆われており、走ると滑って転ぶ危険があると思ったからである。
それに、歩行にはそれなりの思考のリズムがあり、歩行の速度でしか見えない景色もある。
本を無事受け取り、そのまま帰ろうかとも思ったが、せっかくここまで来たからと、帰り道とは反対方向に歩き始めた。
倉庫や会社が両側に並んでいるだけの殺風景な道路だが、以前何度か走ったとき、その先には何があるのか、ちょっと気になってはいた。
建物が尽きたところから白銀の雪化粧で覆われた樹々の間を舗装路が続いている。どこに出るのかわからないまま歩き続けた。
数分も歩くと、薄っすらと雪に覆われた草原が見えてきた。これは予想外だった。その草原の隅では、暖かそうな厚毛に包まれた羊たちが群れをなして朝食の冬草を食んでいる。私に気づくと、顔を上げて警戒するようにこちらをじっと見ているのが何頭かいる。近づいて写真を撮ろうとすると、みんな一斉に逃げ出した。少し離れたところから振り返り、「なに、こいつ、あやしい」という目でみんな私を見ている。それがおかしくて思わず笑ってしまった。何枚か写真を撮らせてもらって礼を言ってから、一本道を歩き続ける。
一時間歩いてもまだ先がありそうなので、ここから先は次回のお楽しみということで、踵を返し、帰路につく。都合10キロあまり歩く。