道具は慣れというのが有ります。
私なども、ついつい手に取るのは、一番慣れた刃物です。
新しい刃物は、しばらく研ぎだして、5ミリくらい減ってから本領を発揮します。
刃物の先端は焼きが入り過ぎていて硬すぎるのです。
そこまで刃物を育てなければいけないのです。
稀に自分が年を取って来たなと感じるのは、この道具を育てる事の大変さについつい、新しい道具を手に取らなくなることです。
しかしそれでも良いと思うのです、慣れた道具の素晴らしさと言うのも有りますから。
多少切れなくと、愛着と言うのはあります。
福音弓も道具です。
福音弓である必要の無いと思う方も、稀にいらっしゃいます。
今までお試しいただいた120名ほどの中でお二人いらっしゃいました。
お二人の意見は同じです。
お二人とも西風を弾かれて、この音だと、自分の楽器には合わない、自分の音色が変わってしまうからいやだという方です。
音色は好みですし、このような音にしたいと長年かかって育て上げた方は、今のご自分の音色に満足しておられる方は、
福音弓西風の弾き易さと言うのは別にして、音色が変わると考えられるようです。
問題は二つあります。
お試しになった弓がまだ新しい事。
ですので引っ掛かりの良さは、ご理解いただくのですが、その強さの為に、そしてその素直な音色の為にせっかく育ててきた楽器と相性が悪いと考える方です。
福音弓は育ちます。
弓も育つのです。
しかしまあ、長年弾いて来て長年育ててきた音とは変わります。
ですので楽器を上手く育てて来て、今のご自分の音に満足されている方は、西風は向きません。
敢えて言うなら東風でしょう。
弾き易さは、遥かに良くなりますが、音色は今までに二胡の毛のように太さもばらつきがあるように作りますから、
弾きやすくもなり、強さも強くなりますが、音色自体は変わらないですから。
又今の音に十分満足しているという方にも、福音弓は向きません。
敢えて、変える必要もないと思います。
この曲はもっと、このように演奏したい。
もっと音の幅を広げたい。
或は、ご自身の楽器のポテンシャルをもっと引きだしたい。
もっとクリアーな音で鳴らしたい、
ひたすらもっと弾き易い弓が欲しいという方の為に、福音弓は作った物です。
そして安定した壊れにく長く使える二胡弓として。
ご自身の演奏に、疑問を常に持ち更に良い演奏をめざす方の為にこそ、福音弓は役立ちます。
レベルの問題ではないのです。
初心者であろうと先生クラスであろうと、もっと良い演奏をと願う人のための道具です。
しかし弓は道具ですから、慣れと言うのも有ります。
ですので、福音弓の、西風は、より自分の新しい可能性を目指す人に向いているのかもしれません。
反対に東風は、音色は今のままで、さらに弾き易さがアップし、そして何より良い竹が10年も使え、
自分の慣れた、育てた弓がずーっと使えるという事です。
その点は西風も同じなのですが、当然何年か使って張替えるたびに、新たな音色造りに挑む形になっていきます。
今のご自身の音色が大好きな方は、東風をどうぞ。
もっというと、今の音色が一番良いと思っている人には、福音弓そのものが向かないとご承知おき下さいませ。
更にもっと良い演奏をと言う方は是非福音弓を、お試しください。
楽器に限って考えると、買ってからが本当の意味の「試し」になるし、本当の意味の「練り」の始まりだと思います。
「試練」も一緒に買うわけだから、買う前は慎重に越すことはありませんが、
喜びは試練の中から与えられます。
まだまだ人前で弾くのはぜんぜん気が引けますが、
昨日、毛についての再発見を少しだけ記します。
以前、使い慣れた弓が捨てられなくて毛の張替えをお願いしました。
バイオリン毛で家で試したら、一般胡よりも低音胡に合うと思って
手に入れてから殆ど低音胡にしか使いませんでした。
昨日いつものように胡の高音のハラハラ感に頭を抱えながら、練習していたら、
ふっと弓を取り替えてみようと思い立って・・ そうしたら
なんと、高音が落ち着いたように聞こえ、慌てて録音して比べてみて
やはり、ハラハラ感が消え、雑音も減りました。
試しに今練習中の曲をすべて弾いてみました。全部中国曲でしたが、
二胡毛の弓とそうニュアンスが違うということもなくなり、
むしろ音の出かたが安定して、練習ストレスがかなり改善されました。
毛の張替えをしたばかりのときにある教室の先生に
「この弓はまだまだ育ちますよ。」と言われ、ひたすら低音胡でならしてきて良かったです。
参考にならないかも知れませんが、
もしかしたら、同じような体験をされた方もいらっしゃると思って投稿してみました。
思いこまず、弦が鳴るように、弓が鳴るように、楽器が鳴るようにと、
だからこそ捨ててしまうのはもったいないのです。