ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

弁証法の再生(連載第14回)

2024-06-28 | 〆弁証法の再生

Ⅴ 弁証法の再生に向けて

(13)弁証法の第二次退潮期
 前回まで、弁証法の歴史をかなりの駆け足で概観してきたが、アドルノの否定弁証法を最後に、1970年代以降、弁証法を主題とする有力な哲学書自体がほとんど世に出なくなる。そして、20世紀末におけるソヴィエト連邦解体という世界史的な出来事の後、弁証法という思考法自体が急速に衰微していった。21世紀前半の現在は、その真っ只中にある。
 実のところ、弁証法の退潮はソ連邦解体前から始まっており、まさにソ連自身が弁証法を体制教義化することによっても弁証法の衰退を促進していたのであるが、そのソ連がほとんど自滅的に解体消滅し去ったことにより、ソ連邦解体後の世界では、ソ連が象徴していたものすべてが否定・忘却された。弁証法もその一つである。
 こうして、現代という時代は、弁証法の第二次退潮期にあると言える。弁証法の第一次退潮期は、アリストテレスが弁証法の意義を格下げして以降のことであった。この時は、アリストテレスが最も重視した形式論理学が優位となり、19世紀にヘーゲルが新たな観点から弁証法を再生するまで、弁証法の逼塞が続いた。
 これに対して、第二次退潮期は、第一次退潮期に比べ、ソ連が象徴していたマルクス主義の退潮と絡んだ政治的な要因が強い。実際のところ、ソ連はマルクスの理論に対して離反的ですらあったのであるが、「ソ連=マルクス主義」というソ連の公式宣伝は、ソ連に批判的な人々によってすら奇妙に共有されていたのである。
 そうではあっても、マルクス自身が下敷きとしていたヘーゲルの弁証法—言わば、近代弁証法—はマルクスと切り離して保存されてもよいはずだが、マルクス主義の退潮のあおりを受けて、無関係のヘーゲル弁証法までとばっちりを受けた恰好である。
 その結果、ヘーゲル弁証法も遡及的に取り消され、再びアリストテレスの形式論理学優位の世界へと立ち戻っているのが現状である。後に整理するように、形式論理学は数学的・科学的思考法の共通的基礎であり、弁証法と矛盾対立するものではないが、形式論理学だけですべてを思考できるものでもない。
 とりわけ、実験や演算が効かず、収拾のつかない価値の対立状況を来たしやすい社会的な諸問題は、形式論理学では解くことができない。そうした場合にこそ、弁証法的思考は強みを発揮する。そこで、弁証法の再生に向けて新たな思想的な革新を要するが、その際、ヘーゲルやマルクスの弁証法の単純な復活ではなく、より広い視野で現代的な弁証法の構築を構想してみたい。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第36回)

2024-06-25 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(5)中央ヨーロッパ合同

(ア)成立経緯
いわゆる中欧に属する主権国家のうち、ドイツとポーランドを除く諸国を引き継ぎ、一部領土が中欧にかかるクロアチアを加えた領域圏が合同して成立する合同領域圏。そのうちの最小国家リヒテンシュタインはスイスと合併して単一の連合領域圏となる。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の7圏である。

○ハンガリー
主権国家ハンガリーを継承する統合領域圏

クロアチア
主権国家クロアチアを継承する統合領域圏。飛び地禁止原則により、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ領に属していたバルカン半島部の都市ネウムが編入される。

○スロベニア
主権国家スロベニアを継承する統合領域圏

○チェコ
主権国家チェコを継承する統合領域圏

○スロバキア
主権国家スロバキアを継承する統合領域圏

○オーストリア
主権国家オーストリアを継承する連合領域圏

○スイシュタイン
主権国家スイスのカントン(州)とリヒテンシュタインが合併されたうえ、イタリアから編入される飛び地のカンピョーネ・ディターリアを準領域圏とする連合領域圏。準領域圏の中には、直接民主制の伝統を継承して、民衆会議に加え、全住民参加型の民衆総会を併置するものもある。リヒテンシュタインはリヒテンシュタイン侯を君主とする侯国であったが、君主制は廃され、侯家は旧宗主のオーストリアへ転居する。

(ウ)社会経済状況
スイスの金融業は貨幣経済廃止に伴い消滅するが、精密機械工業や製薬に基盤のあるスイスを継承するスウィシュタイン、工業化の進んだチェコやハンガリーとする共通経済計画に基づく計画経済が行われる。また中欧地域全体での食糧生産力の高さを生かし、持続可能的農業が発達する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、チェコ領域圏の政治代表都市プラハは、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏全体の政治代表都市でもある。

(オ)特記
スイスとオーストリアは共に永世中立国を標榜してきたが、世界を一つにまとめる世界共同体の設立に伴い、永世中立の理念は役割を終え、合同参加に道が開かれる。

☆別の可能性
スイスは歴史的な独自性を重視し、合同に包摂されない単立の領域圏となる可能性もある。その場合、リヒテンシュタインが合併される場合とされない場合とが想定される。また、主権国家スイス時代の永世中立政策を維持し、スイシュタインが汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に加入せず、世界共同体直轄自治圏を選択する可能性もなくはない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第35回)

2024-06-21 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

(3)バルカン合同

(ア)成立経緯
旧ユーゴスラビアから独立した主権国家セルビア、ボスニア‐ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニアに加え、ブルガリアが合同して成立する合同領域圏。アルバニア‐コソヴォも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の5圏である。

○モンテネグロ
主権国家モンテネグロを継承する統合領域圏

○セルビア
主権国家セルビアを継承する統合領域圏。事実上の独立国となっていたアルバニア系のコソヴォはアルバニア‐コソヴォに包摂される。

○ボスニア‐ヘルツェゴビナ
主権国家ボスニア‐ヘルツェゴビナを継承する連合領域圏。クロアチアの飛地ドゥブロヴニクを隔てていたネウムは飛び地禁止原則により、クロアチアに編入される。

○新マケドニア
北マケドニアに改称していた主権国家マケドニアが再改称して成立する統合領域圏。ギリシャ系古代国家に由来するマケドニア名称をスラブ人による冒用と主張する旧ギリシャ(ヘラス)との紛議に一定の妥協が成立。

○ブルガリア
主権国家ブルガリアを継承する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
農業に加え、自動車工業なども発達したセルビアを軸とする合同共通経済計画に基づく持続可能的計画経済が施行される。陸地の三分の一を森林が占めるブルガリアは持続可能的林業のモデルとなる。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ボスニア‐ヘルツェゴビナのサラエボに置かれる。民族紛争の再発防止のための調停機関として、民族関係高等評議会を常設する。合同の共通語はエスペラント語。

(オ)特記
バルカン半島は歴史的に世界でも最も熾烈な民族紛争が起きた場所として記憶されるが、民族紛争を社会主義連邦という形で一定止揚していた旧ユーゴスラビア連邦を構成した共和国中、クロアチアとスロベニアを除く領域に、ブルガリアが新たに加わって成立したバルカン合同の成立は、地域紛争の歴史に新たな解決をもたらし、同種事例に対する範例となる。

☆別の可能性
かつて民族紛争の中心であり、内戦終結後も民族分断的な状況が続くボスニア‐ヘルツェゴビナ全体が合同直轄圏となる可能性もある。


(4)ダキア

(ア)成立経緯
言語的・文化的な共通性の高かった主権国家時代のルーマニアとモルドバが統合して成立する領域圏。ただし、ロシア系・ウクライナ系住民の多い旧モルドバ東部の沿ドニエストル地方は準領域圏として高度の自治権を保持するため、複合領域圏となる。

(イ)社会経済状況
ルーマニア、モルドバともに農業を土台産業としつつ、旧ルーマニア地域は社会主義時代の計画経済経験を活かし、環境持続的な工業生産も活発化する。旧モルドバ地域では工業生産の拠点がある沿ドニエストルが経済的な軸となる。

(ウ)政治制度
全土民衆会議には沿ドニエストルに人口割合に応じた優先議席枠が配分される。また少数民族ロマも民族自治体を構成し、民衆会議に代表者を送る。

(エ)特記
ルーマニアの旧称に由来するダキアは、モルドバを包摂することに伴う名称変更である。なお、沿ドニエストルはモルドバから事実上分離し、ロシアへの帰属を要望していたが、世界共同体の飛び地禁止原則によりロシア帰属は断念し、ダキアに包摂されつつ、高度の自治権を保持する。

☆別の可能性
ルーマニアとモルドバ、沿ドニエストルがそれぞれ単立の領域圏としてダキア合同領域圏に包摂される可能性もある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第34回)

2024-06-17 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

五 汎ヨーロッパ‐シベリア域圏

汎ヨーロッパ‐シベリア域圏は、現在の欧州連合領域を超えて、欧州大陸及び大西洋上の島嶼域(現スペイン及びポルトガル領)に、シベリアにまたがる現ロシア連邦の領域も包摂する汎域圏である。ただし、ロシア連邦の東端に当たる極東地方はロシアから分立した極東ユーラシア領域圏として汎東方アジア‐オセアニア域圏に包摂される。また、欧州諸国が南太平洋及びカリブ海域に保持する海外領土はすべて分立し、当汎域圏には包摂されない。汎域圏全体の政治代表都市はチェコ領域圏のプラハに置かれる。

包摂領域圏:
ヘラス、アルバニア‐コソヴォ、バルカン合同、ダキア中央ヨーロッパ合同イタリア‐サンマリノ、西地中海合同イベリア合同フランス、ブリティッシュ‐チャンネル諸島合同ベネルクス、ジャーマニー北部ヨーロッパ合同、ポーランド‐ウクライナ合同ルーシ、南コーカサス合同

 

(1)ヘラス

(ア)成立経緯
主権国家ギリシャを基本的に継承する領域圏。ただし、トルコとの協定に基づき北部の北キプロスから分割された南キプロスが編入される。南キプロスは準領域圏として高度の自治権が保障されるため、複合領域圏となる。また、現在のギリシャ領内の特殊な宗教自治体であるアトス自治修道士共和国はヘラスから分離され、世界共同体との協定に基づく独立宗教自治域となる(後述)。

(イ)社会経済状況
資本主義時代のギリシャは、債務危機に陥るなど財政面での問題国家であったが、共産化により貨幣経済が廃されると、財政問題からも解放され、ギリシャは一転、バルカン地域での模範領域圏となる。農業が主産業であるが、資本主義時代に盛んだった海運業も、環境的持続可能性に配慮したグローバルな共産化に伴い、新たな形で中枢産業となる。豊富な遺跡を資源とする観光は、共産化による商業活動の廃止に伴い、「産業」ではなくなるが、欧州方面の文化的観光地としてイタリアと並ぶ中心地であり続ける。

(ウ)政治制度
全土民衆会議にはコソボに人口割合に応じた優先議席枠が配分される。

(エ)特記
ヘラスとはヘレニズムという用語にも残るギリシャの古代名称に由来する。ギリシャ系ながら現在は独立国家である南キプロスが包摂されることに伴う名称変更である。

☆別の可能性
南キプロスが完全に統合され、全体として統合領域圏となる可能性もなくはない。また、可能性は高くないが、南北キプロスが統合され、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏に包摂される可能性もなくはない。

 

(2)アルバニア‐コソヴォ

(ア)成立経緯
主権国家アルバニアと、セルビアから分離して事実上の独立国家となっていたアルバニア系のコソヴォが合併して成立する領域圏。コソヴォは準領域圏として高度の自治権が保障されるため、複合領域圏となる。バルカン合同領域圏の招聘領域圏でもある。

(イ)社会経済状況
統合されたコソヴォ地域を含め、農業が主産業である。しかし、旧社会主義体制時代のアルバニアで試みられた集団農場制の経験を活用しつつ、計画的な持続可能的農業が発達する。市場経済化の時代に蔓延した汚職やマフィアは、貨幣経済の廃止により撲滅される。

(ウ)政治制度
全土民衆会議にはコソヴォに人口割合に応じた優先議席枠が配分される。

(エ)特記
旧版ではコソヴォを完全に統合した統一アルバニアを想定していたが、コソヴォの独自性とアルバニアの膨張を志向する「大アルバニア主義」への懸念に配慮し、複合名称を持つ複合領域圏とした。

☆別の可能性
旧版どおり、統一アルバニアとして統合領域圏となる可能性もなくはない。また、コソヴォが単立の統合領域圏となったうえ、バルカン合同領域圏に加入する可能性もなくはない。

コメント

弁証法の再生(連載第13回)

2024-06-13 | 〆弁証法の再生

Ⅳ 唯物弁証法の救出

(12)アドルノの否定弁証法
 エンゲルスがいささか形式的に整理したヘーゲル弁証法の三法則は①量から質への転化②対立物の相互浸透③否定の否定の三つであるが、このうち、ソ連の独裁者スターリンは第三法則の否定の否定を「否定」した。これは、スターリンの反知性的な教条主義にとって、止揚(揚棄)を導出する否定の否定は、自身の絶対性を揺るがす容認し難い思考操作だったからにほかならない。
 スターリンに限らず、およそあらゆる教条主義者は、自身が信奉する教条を絶対化するので、それを止揚されることを忌避する。止揚・揚棄された命題はもはや教条でなくなってしまうからである。その意味で、教条主義と弁証法は相容れない。
 一方、スターリンとは全く異なる見地から、第三法則を否定しようとしたのがテオドール・アドルノであった。アドルノは第三法則が内包する個別性の否定と、全体—ヘーゲルの場合は絶対精神—への収斂という同一性の思考を批判し、個別性=非同一性を保存すべく、対立命題を止揚することを否定しようとした。これが彼の否定弁証法の趣意である。
 系譜上はマルクス主義に属するアドルノがそこまで思い詰めたのは、自身ユダヤ人としてナチスの全盛期に亡命を余儀なくされた経験を踏まえ、啓蒙的理性が全体主義体制の道具と化し野蛮な暴力に転化したことを悲観し、その大本を全体への収斂を志向する一元主義的な弁証法的思考の欠陥に見たからであった。
 そこで、全体への収斂という思考を断ち切り、止揚の手前で対立命題の個別性=非同一性を徹底的に保存しようとするのが否定弁証法であり、その意味では、ここでの弁証法は新たな真理を導くことなく、未知の真理を浮かび上がらせる対話問答術としてとらえられていたソクラテスの弁証法にまで立ち戻ったと言えなくもない。
 ただ、ヘーゲルが確立した弁証法的思考の本義は、対立命題を全否定することなく止揚して新たな境地を開こうとする点にあり、その点において、対立命題の一方に偏る両極主義も、足して二で割る式の平均主義やつまみ食いの折衷主義も排する新たな思考を開拓したのであった。
 そうした止揚を導出する定式が否定の否定、すなわち二重否定であるが、これも形式論理学的な二重否定=肯定ではなく、対立命題双方を限定的に否定すること、言い換えれば対立命題を限定的に保存することを通じて、新しい命題を導出しようとする思考法であって、必ずしも絶対的な全体に収斂する全体主義的思考とイコールではない。
 アドルノの否定弁証法は全体への収斂を恐れるあまり、無限の相対主義に陥る危険がある。実際、アドルノが一時的とはいえ、ナチス政権最初期にナチス関連広報誌に寄稿するなど、ナチスににじり寄ったことがあったのも、ナチズムを限定否定する—裏を返せば、限定的に肯定する—ばかりで揚棄しない相対主義の危険な一面が露出したものかもしれない。*アドルノ自身は相対主義を批判しているが、それは反動的な偏向を含む特定の相対主義への批判である。
 とはいえ、アドルノの否定弁証法は弁証法そのものを否定するものではなく、片やナチスにより野蛮と化した啓蒙的理性の弁証法、片やスターリン以後のソ連によって教条化された唯物弁証法から、弁証法そのものを救出せんとする試みの一つであったと言える。
 その意味で、否定弁証法は弁証法の否定ではなく、弁証法的思考法に重大な修正を加える新たな弁証法のあり方を示したものである。しかし、弁証法の真骨頂である止揚を否定すれば、弁証法の肝に当たる部分を取り去ることとなり、弁証法の否定と紙一重ではある。そのことによって、否定弁証法はかえって弁証法の退潮に手を貸したように見えるのである。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第33回)

2024-06-09 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(16)マグレブ合同

(ア)成立経緯
マグレブ合同領域圏は、北アフリカマグレブ地域のモロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビアが合同して成立する合同領域圏。モーリタニアも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の4圏である。

○モロッコ
主権国家モロッコ王国を継承する領域圏。スペイン領のセウタとメリリャの両都市が編入される。両都市は高度の自治が保障される準領域圏となるため、モロッコ全体は複合領域圏である。独立運動勢力との係争地西サハラは、世界共同体直轄自治圏となる。

○アルジェリア
主権国家アルジェリアを継承する統合領域圏

○チュニジア
主権国家チュニジアを継承する統合領域圏

○リビア
主権国家リビアを継承する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
モロッコやアルジェリア、チュニジアで限定的に試行されながら、市場経済原理に押されて発展していなかった脱資本主義的な社会連帯経済を土台に、持続可能的な共通経済計画が施行される。モロッコはこの地域の自動車生産の中心となる。リビアでは、内戦からの復興計画が導入される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、モロッコのラバトに置かれる。モロッコの王制は廃止されるが、王は世襲の宗教面での精神的指導者となる。 

(オ)特記
旧版では、2010年代のリビア内戦と分裂を想定して、リビア領域圏と東部のキレナイカ領域圏に分立させていたが、2020年代の再統一を受け、リビア領域園に統一した。

☆別の可能性
リビアが再分裂し、旧版どおり、西部と東部が分立する可能性、最悪可能性として内戦が再発継続する可能性もある。また、可能性は乏しいものの、西サハラがモロッコから分立し、単立の領域圏として当合同に参加する可能性もなくはない。

 

(17)エジプト

(ア)成立経緯
主権国家エジプトを継承する統合領域圏。シナイ半島部が西アジアにもまたがることから、汎西方アジア‐インド洋域圏の招聘領域圏でもある。

(イ)社会経済状況
農業を主軸とするが、北アフリカ随一の工業力をも土台に、持続可能的計画経済が施行される。ナイル流域評議会の中心的なメンバーとして、流域の希少な共同水源となるナイル河の持続可能的な水利管理を主導する。また、主権国家時代からアフリカ随一の鉄道網を活かし、アレクサンドリアから南部アフリカ合同領域圏のケープタウンまでを結ぶ新設のアフリカ縦貫高速鉄道の起点として、運営の中心を担う。

(ウ)政治制度
主権国家時代は高度な中央集権国家だったが、民衆会議制度の下、地方自治が進展する。アフリカ最強にして、中東戦争で数々の戦歴を持つとともに、20世紀のエジプト革命以来、政治的な実力も保持した軍は常備軍廃止を定める世界共同体憲章に基づき解体される。

(エ)特記
ナイル流域評議会は、ナイル河流域の生態学的な持続可能性を保障するため、ナイル河流域のエジプト、スーダン、エチオピア、ケニア、南スーダン、コンゴ、ウガンダ、ブルワンディ、タンザニアの9領域圏で構成される領域間協調機関であり、本部はエジプトのルクソールに置かれる。世界共同体世界水資源調整機関とも連携するこの機関の存在により、主権国家時代ナイル河水利をめぐる流域の紛争や環境的に有害なダム開発などが抑止される。 

☆別の可能性
軍部の実権支配が継続し、民衆革命が不発に終わる可能性もある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連最第32回)

2024-06-06 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(15)サヘル合同

(ア)成立経緯
サハラ砂漠南淵のサヘル地域を共有するモーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャドの5つの領域圏が合同して成立する合同領域圏。サヘル地域の東部を共有するスーダンも招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の5圏である。いずれも統合領域圏である。

モーリタニア
主権国家モーリタニアを継承する領域圏。

マリ
主権国家マリを継承する領域圏。

ブルキナファソ
主権国家ブルキナファソを継承する領域圏。

ニジェール
主権国家ニジェールを継承する領域圏。

チャド
主権国家チャドを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
主権国家時代におけるこの地域の政情不安と武力紛争の解決、さらに持続可能的な共通経済計画によって構造的な貧困や人口爆発が解消されるとともに、世界共同体再生可能エネルギー機関との協働での再生可能エネルギーの開発・利用も進展する。この地域特有の干ばつも、世界共同体の砂漠化抑止計画により改善され、食糧難も解消される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、各領域圏の政治代表都市で持ち回る。サヘル地域に領域圏をまたいで居住する自立的な遊牧民トゥアレグ民族も独自の民族自治体を結成し、政策協議会に代表者を送る。紛争防止のため、世界共同体平和維持巡視隊と協働しつつ、サヘル平和維持隊を共同運用する。

(オ)特記
旧版ではモーリタニアを除く4圏を環赤道‐中央アフリカ合同領域圏の各領域圏とともに、一つの合同領域圏に包括していたが、サヘル地域には固有の特色と課題があるため、分割した。また、旧版ではモーリタニアをマグレブ合同領域圏に包摂していたが、地政学的にはサヘル地域にかかるため、当合同に包摂した。

☆別の可能性
モーリタニアがマグレブ合同領域圏に加入する可能性もなくはない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第31回)

2024-06-02 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(13)ナイジェリア合同

(ア)成立経緯
主権国家ナイジェリア連邦が南北に分割されたうえで、改めて南北合同して形成された領域圏である。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の2圏である。いずれも連合領域圏である。

○南ナイジェリア
ナイジェリア連邦のうち、キリスト教が優勢な南部諸州を継承する領域圏。政治代表都市はラゴス。

○北ナイジェリア
ナイジェリア連邦のうち、イスラーム教が優勢な北部諸州を継承する領域圏。政治代表都市はカドゥナ。

(ウ)社会経済状況
資本主義時代に発達した経済を基盤にしつつ、持続可能的な南北共通経済計画が運営される。自動車製造や製薬が軸となる。持続可能的農業も発達する。石油は世界共同体の管理下に移行する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会が置かれる旧ナイジェリア首都アブジャは、南北両ナイジェリア領域圏による合同管理下の中立都市という位置づけになる。

(オ)特記
主権国家時代はイスラーム優勢の南部とキリスト教優勢の北部という分裂構造から、宗教紛争が絶えず、暴力主義的なイスラーム武装組織が跋扈してきたが、あえて分割‐合同という方式に踏み切ることで、宗教紛争を止揚することに成功する。そのうえで、南北両領域圏それぞれに宗教評議院が設置され、宗教紛争の調停や少数宗派の権利保護を行なう。

☆別の可能性
南北が分割されず、統一性を保ちつつ、連合領域圏として成立する可能性もある。

 

(14)西岸アフリカ合同

(ア)成立経緯
アフリカ大陸北西岸に密集する10の領域圏に、南大西洋上の離島国家カーボヴェルデを加えた計11の領域圏が合同して成立する合同領域圏。11の構成領域圏はいずれも主権国家時代の領土区分をそのまま継承する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の11圏である。いずれも統合領域圏である。

○ベナン
主権国家ベニンを継承する領域圏。

○トーゴ
主権国家トーゴを継承する領域圏。

○ガーナ
主権国家ガーナを継承する領域圏。

○コートジボワール
主権国家コートジボワールを継承する領域圏。

○ライベリア
主権国家ライベリアを継承する領域圏。なお、旧和表記は「リベリア」であったが、誤記のため公式に訂正。

○シエラレオーネ
主権国家シエラレオーネを継承する領域圏

○ギニア
主権国家ギニアを継承する領域圏。

○ギニア‐ビサウ
主権国家ギニア‐ビサウを継承する領域圏。

○ガンビア
主権国家ガンビアを継承する領域圏

○カーボヴェルデ
主権国家カーボヴェルデを継承する領域圏。

○セネガル
主権国家セネガルを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
西アフリカ経済共同体時代の経済統合を基盤に、共通経済計画が運用される。ダイヤモンドなど内戦の経済要因となった天然資源管理は世界共同体の管理下に移行することで、社会的な紛争も激減する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、セネガルのダカールに置かれる。多言語のため、合同公用語はエスペラント語に統一。

(オ)特記
合同を構成する各領域圏はいずれも中小国ながら、それぞれにアフリカ特有の多部族を抱え、主権国家時代には内戦や独裁の絶えない不安定地域であった。そうした反省から、合同領域圏には世界共同体平和理事会と連携する合同紛争調停機関を常設し、紛争の未然防止と早期解決を図る。

☆別の可能性
可能性は高いと言えないが、緩やかな合同にとどまらず、11の準領域圏から成る連合領域圏として成立する可能性もある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第30回)

2024-05-27 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(11)スーダン

(ア)成立経緯
南スーダンが分離した後の主権国家スーダンを継承する連合領域圏。油田の存在をめぐり、南スーダンとの境界紛争が続いていたアビエイ地方は、世界共同体による石油管理体制の導入により南スーダンに包摂することで決着する。凄惨な内戦が続いたダルフール地方北部は世界共同体直轄自治圏に移行する。

(イ)社会経済状況
主権国家時代は内戦や民族紛争が打ち続き、遅れていた社会経済発展も、社会の安定化と持続可能的計画経済の導入により進む。領域の大半を砂漠が占める中、主軸となる農業はナイル河周辺に限定されていたが、持続可能的計画経済の下、耕作地の拡大や工場栽培の試行もなされる。エジプトとともにナイル流域評議会の主要メンバーとして、ナイル河の持続可能的な水利管理に取り組む。

(ウ)政治制度
ダルフール地方の北部を除き、主権国家時代の州を準領域圏とする連合民衆会議による統治となる。主権国家時代にはしばしばクーデターで政治介入し、長い軍事政権の歴史を形成した軍は、常備軍廃止を定める世界共同体憲章に基づき解体され、民衆会議制度による民主主義が定着する。

(エ)特記
アラブ系武装組織による非アラブ系民族浄化が起きていたダルフール地方でも特に非人道的な事態の中核となっていた同地方北部地域を分離して世界共同体直轄自治圏とし、世界共同体平和維持巡視隊が常駐する。

☆別の可能性
ダルフール問題が平和的に解決された場合、世共直轄自治圏は設定されず、ダルフール地方全体がスーダンに残留する可能性がある。

 

(12)環赤道‐中央アフリカ合同

(ア)成立経緯
アフリカ大陸の赤道周辺と内陸中部に位置する5つの領域圏と南大西洋上の離島領域圏サントメ・プリンシペが合同して成立する合同領域圏。ただし、カメルーンから南カメルーンが分立する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の6圏である。いずれも統合領域圏である。

○中央アフリカ
主権国家中央アフリカを継承する領域圏。

○ガボン
旧主権国家ガボンを継承する領域圏。

○サントメ・プリンシペ
旧主権国家サントメ・プリンシペを継承する領域圏。

○赤道ギニア
旧主権国家赤道ギニアを継承する領域圏。

○カメルーン
主権国家カメルーンの仏語圏を継承する領域圏。

○南カメルーン
分離独立を求めていたカメルーンの英語圏地方が分立し成立する領域圏。

(ウ)社会経済状況
内戦による破綻を経験した中央アフリカを除けば、おおむね安定した主権国家時代の社会経済を基盤に、農業を軸とする合同共通の持続可能的計画経済が展開される。ガボンや赤道ギニア、カメルーンの経済基盤であった石油は世界共同体の管理下に移行する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。多言語のため、合同公用語はエスペラント語。

(オ)特記
旧版では、サハラ砂漠周縁のサヘル地方の四領域圏を包摂した合同領域圏を想定していたが、サヘル地方は固有の特色と課題を持つため、サヘル合同領域圏(後述)として分立させた。

☆別の可能性
南カメルーンが分立せず、カメルーン内の準領域圏としてとどまり、カメルーンが複合領域圏となる可能性もある。

コメント

弁証法の再生(連載第12回)

2024-05-24 | 〆弁証法の再生

Ⅳ 唯物弁証法の救出

(11)サルトルの実存的弁証法
 ルカーチが革命渦中の中東欧からソ連式の教条化された唯物弁証法を救出しようとしたのだとすれば、西欧から同じことを企図したのがジャン‐ポール・サルトルであったと言える。サルトルは、弁証法を実存主義の中に言わば投企するという大胆な試みに出た。というのも、人間の自覚存在を追求する唯心論的な実存主義と唯物弁証法は水と油のように感じられるからである。
 実際のところ、ルカーチも労働者階級が自らの社会的立場を自覚して階級意識に目覚め、主体性を取り戻すため団結して革命を導くべきことを説いたことで、弁証法に唯心論的な要素を取り込んでいたが、サルトルはより意識的にあえて唯心論を注入しようとしたとも言える。
 サルトルが主著のタイトルにも使用した「弁証法的理性」は、歴史を客観的事象として外から眺める分析的理性に対して、実践的に歴史のうちに自己を参入させることによってその意味を了解しようとする理性であり、そこから、彼はアンガージュマンという実践を自らにも課していった。
 とはいえ、ルカーチはハンガリー革命への参加というまさしく革命行動を実践したのに対して、サルトルのアンガージュマンはより漠然とした社会状況への参加という形で拡散しており、機会主義的で、半端な印象はぬぐえない。もちろん、そこには実際に革命的状況にあったハンガリーと、革命の波動がすでに過去のものとなっていたフランスとの状況的な相違があったこともたしかである。
 サルトルの実存的弁証法の基本定式は、ヘーゲル弁証法を下敷きに、即自⇒対自⇒対他という三段階を経て人間が他者との関わりの中で実存し、そこから社会参加へと止揚的に導かれる諸相を想定したものであり、人間の本来的な自由を強調するものであった点、革命的なフランス人権宣言の精神を弁証法に注入したとも言える。
 それは自由を体系的に抑圧するソ連体制の道具となっていた唯物弁証法を救出する手がかりにはなるであろうが、他方で、サルトルにおいて対自存在として把握される人間の本来的自由なるものは観念にすぎないとも言える。社会状況というものも、個人の意思では如何ともし難い構造—彼の言う「実践的惰性態」—と化しているとすれば、それをどう克服できるのか。
 サルトルによれば、そうした反弁証法的な実践的惰性態を乗り越えるべく、共通目標を目指す集団を形成し、階級闘争を含む共同実践を行うということがその回答であり、それを「構成された弁証法」と呼んでいる。言い換えれば、実存的弁証法ということであろう。
 ただ、ソ連と対峙する西欧での革命可能性が遠のいた晩年のサルトルは、生誕以前の歴史と生誕以後の履歴とによって予め有限的に狭められた選択肢を選択せざるを得ない人間は、自己という資質を抱え、それに抗いながら自由を発見するよりほかないという自由の本来的制約性を認めるようになった。これを実存的弁証法の敗北宣言とみるかどうかは、解釈の問題である。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第29回)

2024-05-19 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(8)ソマリ合同

(ア)成立経緯
1990年代より内戦により分裂状態にあった旧主権国家ソマリアから分岐したソマリア、プントランド、ソマリランドの三つの分国がそれぞれ単独の領域圏として成立したうえ、合同して形成される合同領域圏

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の3圏である。いずれも統合領域圏である。

○ソマリア
合同全体の南部に位置する領域圏。

プントランド
ソマリアから事実上分立していた北部プントランドを継承する領域圏。

○ソマリランド
合同全体の最北部に位置するソマリランドを継承する領域圏。合同全体の北部に位置する。

(ウ)社会経済状況
長期内戦で壊滅状態にあった経済が回復される。合同共通経済計画に基づく持続可能的農業畜産業が主軸となる。遠距離通信システムの発達基盤を継承し、アフリカにおける通信産業の中心ともなる。紅海での海賊活動も根絶される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、各領域圏の政治代表都市で交互に開催される。世界共同体と共同で、武装組織の武装解除・社会復帰の支援プログラムが運用される。

(オ)特記
旧版ではプントランドはソマリアと統一される形で2圏の合同としたが、プントランドの分立化状況に鑑み、別立てとした。

☆別の可能性
プントランドがソマリアと連合領域圏を形成する可能性もある。また、可能性としては極めて低いが、ソマリア全体が連合領域圏として再統一される可能性もなしとしない。

 

(9)エチオピア

(ア)成立経緯
主権国家エチオピアを継承して成立する連合領域圏

(イ)社会経済状況
豊富な水資源を利用しつつ、環境的持続可能性に配慮した計画的農業が成功し、アフリカにおけるモデル例となる。また水素自動車生産事業も軌道に乗り、汎アフリカ‐南大西洋領域圏全体での自動車生産の軸となる。

(ウ)政治制度
主権国家時代の州と自治区を基準とする準領域圏から成る連合領域圏で、連合民衆会議は共通に50人、さらに人口100万人ごとに10人を追加選出する独特の方式で抽選された代議員で構成される。

(エ)特記
1993年までは統一国家だった隣接のエリトリアとは個別に共通経済計画協定を締結し、合同経済計画会議が策定する共通経済計画の下に経済運営を行なう。

☆別の可能性
望ましくない可能性として、北部のティグライ州をはじめ、いくつかの州が分離独立し、連邦が内戦を経て事実上解体される可能性もある。その場合、ソマリと同様、改めて合同領域圏として再生することも想定できる。

(10)エリトリア

(ア)成立経緯
主権国家エリトリアを継承する統合領域圏

(イ)社会経済状況
小さな領域圏のため、自力経済に限界があり、上述のように、エチオピアとの共通経済計画が経済運営の柱となることから、経済的にはエチオピアと一体的となる。

(ウ)政治制度
主権国家時代の独裁政党は解体される。国外避難民を出す要因でもあった賦役的な国民皆兵制度も世界共同体憲章に基づく常備軍廃止に伴い、廃止される。

(エ)特記
南で隣接するジブチとの間で長年境界紛争を抱えてきたが、ジブチが世界共同体直轄圏となることに伴い、係争地域をエリトリアとの共同管轄地域とすることで解決を見る。

☆別の可能性
可能性は低いが、エチオピアと再統一される可能性もなくはない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第28回)

2024-05-19 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(5)内陸南部アフリカ合同 

(ア)成立経緯
アフリカ南部の内陸諸国ボツワナ、ザンビア、ジンバブウェ、マラウィが合同して形成される合同領域圏南部アフリカ領域圏が招聘領域圏として参加する。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の4圏である。いずれも統合領域圏である。

○ザンビア
主権国家ザンビアを継承する領域圏。

○ボツワナ
主権国家ボツワナを継承する領域圏。

○ジンバブウェ
主権国家ジンバブウェを継承する領域圏。

○マラウィ
主権国家マラウィを継承する領域圏。

(ウ)社会経済状況
持続可能的農業を軸とした共通経済計画に基づいて経済協力がなされる。また野生動物保護に関する共通計画が実行される。ジンバブウェにおける白人所有土地の強制収用によって発生した農業危機も共産主義的な土地の無主物化と計画的な農地管理システムにより解消する。また、主権国家時代のジンバブウェにおけるハイパーインフレーションも、貨幣経済の廃止により終息する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ボツワナのハボローネに置かれる。全領域圏が旧英国植民地のため、英語を合同公用語とする。

(オ)特記
招聘領域圏の南部アフリカ領域圏との間では、経済、社会サービス分野での相互協力協定が締結され、密接な関係となる。

☆別の可能性
可能性は高くないが、全体が英語圏のため、合同を超えて連合領域圏にまとまる可能性もなくはない。

 

(6)モザンビーク

(ア)成立経緯
主権国家モザンビークを継承する統合領域圏

(イ)社会経済状況
主産業となっていた鉱業が世界共同体の管理下に移行し、潜在的なポテンシャルを秘めていた持続可能的農業が発展する。課題であった衛生的な水へのアクセスは世界水資源機関との連携による給水システムの確立により実現する。

(ウ)政治制度
統合型領域圏として、民衆会議制度が導入される。独立戦争の中心を担った主権国家時代の支配政党・モザンビーク解放戦線は会議外でなお影響力を持つ。東アフリカ合同領域圏の招聘領域圏ともなる。

(エ)特記
旧版ではモザンビークを東アフリカ合同領域圏に包摂していたが、ポルトガル語圏で独自色も強いモザンビークは単立の領域圏とした。

☆別の可能性
モザンビークが東アフリカ合同領域圏に加入する可能性もなおなくはない。

 

(7)東アフリカ合同

(ア)成立経緯
主権国家自体に東アフリカ共同体を構成していた諸国のうち6か国が合同して成立する合同領域圏。ただし、旧ブルンディと旧ルワンダは統合して、ブルワンディとなる。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の5圏である。

○タンザニア
主権国家タンザニアを継承する連合領域圏。大陸部タンガニーカと島嶼部ザンジバルから成る連合領域圏である。

○ブルワンディ
民族構成が近い主権国家ブルンディとルワンダが統合して成立する連合領域圏

○ウガンダ
主権国家ウガンダを継承する統合領域圏

○南スーダン
主権国家南スーダンを継承する統合領域圏

○ケニア
主権国家ケニアを継承する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
資本主義的発展を見せていたケニアと、内戦終結後にIT産業などで成長を見せていた旧ブルンディ(ブルワンディ)を中心に工業化も進展するが、持続可能的農業を軸とした共通経済計画に基づいて経済協力がなされる。野生動物保護に関する共通計画が実行される。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ブルワンディのキガリに置かれる。多言語のため、合同公用語はエスペラント語。

(オ)特記
主権国家時代には激しい内戦や残酷な独裁を経験した領域圏が多いことから、世界共同体平和理事会と連携する合同紛争調停機関を常設し、紛争の未然防止と早期解決を図るほか、合同人権監視機関を常設し、人権侵害への迅速な対応を図る。

☆別の可能性
ブルンディとルワンダが連合せず、それぞれ単立の領域圏となる可能性もある。また、モザンビークが合同に参加する可能性もなくはない。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第27回)

2024-05-14 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

(3)アンゴラ

(ア)成立経緯
主権国家アンゴラを基本的に継承する統合領域圏。ただし、隣接するコンゴに囲まれた旧飛地カビンダは世界共同体の飛地禁止ルールに基づき、後掲のニューコンゴに編入される。

(イ)社会経済状況
20世紀の独立戦争と独立後内戦を経た主権国家時代は石油とダイヤモンドを基盤に経済発展を見せていたが、石油やダイヤモンドは世界共同体の管理下に移されるため、コーヒーを中心とした農業生産が中心となる。環境的持続可能性に配慮した農業生産の多角化も推進される。恒常的なインフレーションによる世界一とされた物価高問題は、貨幣経済の廃止により解消される。

(ウ)政治制度
統合型領域圏として、民衆会議制度が導入される。独立戦争の中心を担った主権国家時代の支配政党・アンゴラ解放人民運動は会議外でなお影響力を持つ。

(エ)特記
独立闘争を支援した歴史のある隣接のナミビアとは緊密な社会経済協力関係を構築する。

☆別の可能性
人口が少ないナミビアと合同領域圏を形成する可能性もある。

 

(4)ニューコンゴ

(ア)成立経緯
隣接する別々の主権国家であったコンゴ民主共和国とコンゴ共和国が統合されて成立する単独の連合領域圏。上述のとおり、アンゴラの飛地カビンダも編入される。

(イ)社会経済状況
旧コンゴ民主共和国領域は有数の資源国であり、このことが長期に及ぶ内戦の元であったが、天然資源の管理が世界共同体に一元化されるため、こうした紛争鉱物経済は終焉する。一方で、旧コンゴ共和国領域では遅れていた鉱物資源の持続可能な開発が世界共同体により進められる。紛争要因の除去と両コンゴの統合により、農業生産力が高まり、アフリカ大陸有数の農業地域としてアフリカの食を支える。石油を主産業としたカビンダの状況もほぼ同様である。

(ウ)政治制度
旧コンゴ民主共和国の州、旧コンゴ共和国の地方とカビンダを準領域圏とする連合領域圏のため、連合民衆会議は各準領域圏から人口に比例した数の代議員で構成される。政治代表都市は旧コンゴ民主共和国首都キンシャサとコンゴ河を隔てた旧コンゴ共和国首都ブラザヴィルが統合されたコンゴ大都市圏。連合公用語はフランス語だが、カビンダのみはポルトガル語。

(エ)特記
旧コンゴ民主共和国領域圏では長年の内戦による武装勢力の乱立が生じていたため、世界共同体の関与のもと、武装解除と少年を含む戦闘員の社会復帰プログラムが進められる。

☆別の可能性
長年の別国状態を考慮し、より緩やかな合同領域圏の形態が選択される可能性もある。

コメント

世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第26回)

2024-05-11 | 〆世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

四 汎アフリカ‐南大西洋域圏

汎アフリカ‐南大西洋域圏は、アフリカ大陸全域と南大西洋上の島嶼を包摂する汎域圏である。アフリカ大陸が東側で面するインド洋上のマダガスカル、コモロ、セーシェル、モーリシャスは主権国家時代はアフリカ連合に所属したが、世界共同体の下では、地政学上の変化に伴い、西方アジア‐インド洋域圏の環インド洋合同領域圏に加入することとなる。汎域圏全体の政治代表都市はナミビア領域圏のウィントフックに置かれる。

包摂領域圏:
南部アフリカ、ナミビア、アンゴラ、統一コンゴ内陸南部アフリカ合同、モザンビーク、東アフリカ合同ソマリ合同、エチオピア、エリトリアスーダン、環赤道‐中央アフリカ合同ナイジェリア合同、西岸アフリカ合同サヘル合同マグレブ合同、エジプト

 

(1)南部アフリカ

(ア)成立経緯
南アフリカ共和国と南アフリカの囲繞内陸国レソト、エスワティニの両王国が統合されたうえ、連合領域圏として成立する。「南部アフリカ」(Southern Africa)の新名称はレソト、エスワティニが連合に包摂されることから、旧南アフリカ(South Africa)と区別するため採用される。英領セントヘレナ・アセンションおよびトリスタンダクーニャを分立・編入した南大西洋諸島自治域を含む。

(イ)社会経済状況
旧南アフリカ領域の豊富な天然資源は世界共同体の管理下に移行したが、旧南アフリカ共和国時代におけるアフリカ随一の工業生産力は維持される。特に自動車生産では、汎アフリカ‐南大西洋圏の中核を担う。農業生産でも、アフリカ随一のトーモロコシを中心に多角的な生産が行なわれる。白人支配人種隔離体制アパルトヘイトの廃止後、長く懸案となっていた白人による農地専有問題は、一元的な農業生産機構農場への転換により解決する。貨幣経済の廃止により、構造的な貧困問題は解消する。また、南ア経済に依存していたレソトとエスワティニは、南部アフリカへの完全な統合により、貧困な小国経済を脱する。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、旧南アフリカ共和国の各州を継承する準領域圏に包摂準領域圏となるレソト、エスワティニ、さらに準領域圏と同等の地域を持つ南大西洋諸島自治域を加えた準領域圏から同数選出された代議員から成る。アパルトヘイト廃止後の南アフリカで圧倒的な与党の座にあったアフリカ民族会議は政党をベースとしない民衆会議制下では支配権を持たないが、会議外での影響力は残る。レソトとエスワティニの王制は廃止されるが、各準領域圏の文化的象徴としての王室は存続する。多言語のため、連合公用語はエスペラント語。

(エ)特記
南部アフリカ最大都市のヨハネスブルグには世界共同体本部が置かれ、南部アフリカは世界共同体の中核的存在となる。

☆別の可能性
小国ながら独自色の強いレソトとエスワティニが南部アフリカに包摂されず、それぞれ単立領域圏として合同を形成する可能性もなくはない。

(2)ナミビア

(ア)成立経緯
主権国家ナミビアを継承する統合領域圏。

(イ)社会経済状況
主軸産業であった鉱業は世界共同体の管轄したに移行するため、牧畜が主産業となる。南部アフリカ経済への依存度が高く、南部アフリカとは経済協力協定を締結する。貨幣経済の廃止に伴い、人種間経済格差は解消される。

(ウ)政治制度
統合領域圏のため、一元的な民衆会議制による統治となる。独立闘争の中心組織で、独立後も優位政党であった南西アフリカ人民機構は政党をベースとしない民衆会議制下では支配権を持たないが、会議外での影響力は残る。なお、ナミビアの政治代表都市ウィントフックは汎アフリカ‐インド洋域圏全体の政治代表都市であると同時に、世界共同体の内部機関である世界天然資源計画と専門機関である世界野生生物保護機関の本部が置かれる。

(エ)特記
旧版では南部アフリカに包摂していたが、白人支配時代の南アフリカによる不法占領状態から闘争により独立した歴史に鑑み、単立の領域圏とした。

☆別の可能性
ナミビアが南部アフリカに包摂される可能性、または政治的な結びつきが強い隣接のアンゴラと合同を形成する可能性もなくはない。

コメント

弁証法の再生(連載第11回)

2024-05-09 | 〆弁証法の再生

Ⅳ 唯物弁証法の救出

(10)ルカーチの物象化論
 マルクスの唯物弁証法がスターリン時代のソ連の公式教義の中ですっかり教条化していく中、唯物弁証法を救出しようとする試みが、ソ連の外部で行なわれる。その代表的な一つが、ハンガリー人ルカーチ・ジェルジの試みである。
 ルカーチは、弁証法の教条化の要因をマルクスの遺稿整理者エンゲルスに突き止めている。ルカーチによれば、エンゲルスは最も本質的な相互作用である歴史過程における主体と客体の弁証法的関係に目を向けず、これを自然の認識にまで不当に拡大適用しようとしたことに問題がある。
 弁証法の真骨頂は具体的かつ歴史的なものにこそあり、その意味で弁証法的方法論の適用範囲は歴史的・社会的な現実に限られる。そうした具体的・歴史的弁証法の任務は、社会の総体性を把握するための方法論であるというのが、ルカーチの趣意である。
 逆に、総体性の認識を欠落することが物象化である。すなわち、主体と客体の分裂、部分と全体の分離、理論と実践の乖離といった情況であり、現実の状況としては労働者階級が主体性を喪失し、自己を疎外して客体と化すことである。
 このような主体‐客体の分裂の止揚に力点を置くルカーチの理解は、唯物弁証法を再びヘーゲル弁証法に立ち戻って再構しようとする試みと言える。事実、ルカーチは『モーゼス・ヘスと観念弁証法の諸問題』という論文の中で、マルクス弁証法をヘーゲル弁証法の延長に位置づけ直そうとしている。
 しかし、こうしたルカーチの試みはモスクワの代弁者たちからは睨まれる結果となった。ハンガリー共産党員で、短命に終わったハンガリー革命政権で閣僚も務めた彼は党内で強い批判を受け、コミンテルンでも非難された。そのときルカーチが浴びた非難は、「観念論的逸脱」というものだった。
 しかし、この非難は的外れであった。彼が「観念論」と非難されたのは、資本主義社会で客体化という自己疎外状況に立たされている労働者階級が自らの社会的立場を自覚して階級意識に目覚め、主体性を取り戻すため団結して革命を導くべきことを説いたためである。
 たしかに、こうした労働者階級の階級意識を強調する仕方は、唯心論的な趣向を帯びてはいるが、ルカーチの力点は主体と客体の分裂の止揚という一点にあったのであり、意識の問題を特大強調したかったわけではない。実際、上掲論文は青年ヘーゲル派代表者ヘスの弁証法を観念弁証法として退けている。
 ただ、ルカーチの総体性は、資本主義社会という人類史的過程の全体の一部に集中しており、より広汎な「文明」という総体性には十分着目してしなかったように思われる。そうした文明総体の弁証法的把握は、革命が挫折した戦間期ドイツ哲学界から現れる。

コメント