ザ・コミュニスト

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中国憲法評解(連載第3回)

2015-02-05 | 〆中国憲法評解

第六条

1 中華人民共和国の社会主義経済制度の基礎は、生産手段の社会主義公有制、すなわち全人民所有制及び労働大衆による集団所有制である。社会主義公有制は、人が人を搾取する制度を廃絶し、各人がその能力を尽くし、労働に応じて分配するという原則を実行する。

2 国家は社会主義初級段階において、公有制を主体とし、多種類の所有制経済がともに発展するという基本的経済制度を堅持し、労働に応じた分配を主体とし、多種類の分配方式が併存する分配制度を堅持する。

 本条から第一八条までは、経済原則を定めており、第一章総則中では最も条文数が多く、現行憲法が経済体制を重視していることを示している。この部分もさらに大きく二つに分けることができ、中でも本条から第一〇条までは、建国以来の土台である社会主義経済の原則がまとめられている。
 筆頭の本条は生産手段の公有を基礎とする社会主義経済の宣言条項であるが、第二項で社会主義初級段階という前文における規定に沿って、「多種類の所有制経済」と「多種類の分配方式」が並存する混合経済体制を宣言している。ここには、後で指示される「社会主義市場経済」が暗示されている。

第七条

国有経済、すなわち社会主義の全人民所有制の経済は、国民経済の中の主導的な力である。国家は、国有経済の強化及び発展を保障する。

 中国式社会主義も旧ソ連型の国家主導の社会主義、すなわち国家社会主義の原則を基本としている。従って、国有経済が国民経済の支柱となる。とはいえ、社会主義市場経済の進展に伴い、国有企業の比率は大きく減少し、代わって私有企業の比率が増大しており、本条は多分にして規範的なタテマエと化しつつある。

第八条

1 農村集団経済組織は、家庭請負経営を基礎とし、統一と分散を結合させた二重経営体制を実施する。農村における生産、供給販売、信用及び消費等の各種形式の協同組合経済は、社会主義の労働大衆による集団所有制経済である。農村集団経済組織に参加する労働者は、法律に規定する範囲内において自留地、自留山及び家庭副業を営み、並びに自留家畜を飼養する権利を有する。

2 都市・鎮の手工業、工業、建築業、運輸業、商業、サービス業等の各業種における各種形態の協同組合経済は、いずれも社会主義の労働大衆による集団的所有制の経済である。

3 国家は、都市と農村の集団的経済組織の適法な権利及び利益を保護し、集団経済の発展を奨励し、指導し、及びこれを援助する。

 本条は主に農業経営の基本原則を定めている。旧憲法時代の人民公社制度は解体され、家庭請負経営という形態で、日本型農業に近い事実上の家族農業制と協同組合制へ移行している。第二項の手工業分野等における協同組合企業は国有企業と私有企業の中間形態であるが、これの比率も大きく下がり、ここでも私有企業に道を譲りつつある。

第九条

1 鉱物資源、水域、森林、山地、草原、未墾地及び砂州その他の天然資源は、すべて国家の所有、すなわち全人民の所有に属する。ただし、法律により、集団的所有に属すると定められた森林、山地、草原、未墾地及び砂州は、この限りでない。

2 国家は、自然資源の合理的利用を保障し、貴重な動物及び植物を保護する。いかなる組織又は個人であれ、天然資源を不法に占有し、又は破壊することは、その手段を問わず、これを禁止する。

 本条は天然資源国有の原則について定めている。第二項は国家による自然資源の合理的利用の保障と関連づけて貴重な動植物の保護にも言及しているが、生態学的持続可能性についての言及はなく、「合理的利用」に重点が置かれている。

第一〇条

1 都市の土地は、国家の所有に属する。

2 農村及び都市郊外地区の土地は、法律により国家の所有に属すると定められたものを除き、集団の所有に属する。宅地、自留地及び自留山も、集団的所有に属する。

3 国家は公共の利益の必要のために、法律の規定にもとづき、土地を収用ないし徴用を行い、併せて補償する。

4 いかなる組織又は個人も、土地を不法に占有し、売買し、又はその他の形式により不法に譲り渡してはならない。土地の使用権は、法律の規定により譲り渡すことができる。すべての土地を使用する組織又は個人は、土地を合法的に使用しなければならない。

 本条は土地所有の原則を定めている。土地は都市と農村・都市郊外で区別され、都市は国有、それ以外は集団的所有とされる。両者併せて土地公有制とも呼び得る。 
 社会主義市場経済体制の下でも、土地の私有を認めない本条は堅持されてきたが、第四項第二文にあるように、「土地使用権」の売買という形で事実上は土地の売買が限定的に認められているため、将来的には土地の私有が解禁される可能性もあると考えられる。

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中国憲法評解(連載第2回)

2015-02-04 | 〆中国憲法評解

第一章 総則

 第一章では、国の基本原則が三十二か条にわたり列挙されている。節に分けられず、羅列されているが、政治原則を定めた部分(第一条乃至第五条)、経済原則を定めた部分(第六条乃至第一八条)、文教・福祉・環境など民生の基本原則を定めた部分(第一九条乃至二六条)、治安・軍事・行政の基本原則を定めた部分(第二七条乃至第三二条)に大別できる。全般に、旧ソ連憲法第一編からの影響が強く窺える章であるが、旧ソ連憲法よりも簡素な仕立てで、実際的な内容となっている。

第一条

1 中華人民共和国は、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁の社会主義国家である。

2 社会主義制度は、中華人民共和国の基本となる制度である。いかなる組織又は個人も、社会主義制度を破壊することは、これを禁止する。

 第一条は、社会主義の宣言条項である。旧ソ連憲法の第一条と類似しているが、旧ソ連のように、プロレタリアート独裁を越えた「全人民国家」ではなく、「人民民主主義独裁」とされ、なおプロレタリアート独裁段階にあるとの認識に立つ規定である。従って、第二条第二文にあるように、社会主義制度の破壊を禁ずる治安条項が憲法にも明示されている。これは、反政府活動取締りの根拠ともなるだろう。

第二条

1 中華人民共和国のすべての権力は、人民に属する。

2 人民が国家権力を行使する機関は、全国人民代表大会及び地方各級人民代表大会である。

3 人民は、法律の定めるところにより、各種の方途及び形式を通じて、国家の事務を管理し、経済及び文化事業を管理し、社会の事務を管理する。

 人民主権を宣言する条項であり、旧ソ連憲法第二条と類似する。人民権力の表れである人民代表大会はブルジョワ議会制度とは異なり、旧ソ連のソヴィエト制度に相当するものと理解できる。第三項は人民主権の内容を具体化しているが、それは国家事務、経済・文化事業、社会事務の管理という実際的なものである。
 なお、旧憲法第二条には「中国共産党は、全中国人民の指導的中核である。労働者階級は、自己の前衛である中国共産党を通じて、国家に対する指導を実現する。」という共産党指導条項があったが、現行憲法では削除されている。ただし、このことは、共産党支配の否認を意味せず、前文では「共産党の指導」がなお謳われており、共産党支配体制は不変であるが、法規範性を持つ憲法本文からの除外は、共産党の支配が法的(規範的)なものではなく、政治的(事実的)なものに変化したことを意味する。 

第三条

1 中華人民共和国の国家機構は、民主集中制の原則を実行する。

2 全国人民代表大会及び地方各級人民代表大会は、すべて民主的選挙によって選出され、人民に対して責任を負い、人民の監督を受ける。

3 国家の行政機関、裁判機関及び検察機関は、いずれも人民代表大会によって組織され、人民代表大会に対して責任を負い、その監督を受ける。

4 中央と地方の国家機構の職権区分は、中央の統一的指導の下に、地方の自主性と積極性を十分に発揮させる原則に従う。

 レーニン主義的な社会主義国家運営の原則である民主集中制を定めた本条も、旧ソ連憲法第三条に類似する。第四項は、中央集権の原則の枠内で、地方の自律性も考慮した柔軟な地方制度の原則を示している。

第四条

1 中華人民共和国の諸民族は、一律に平等である。国家は、すべての少数民族の適法な権利及び利益を保障し、民族間の平等、団結及び相互援助の関係を維持し、発展させる。いずれの民族に対する差別及び抑圧も、これを禁止し、並びに民族の団結を破壊し、又は民族の分裂を引き起こす行為を禁止する。

2 国家は、それぞれの少数民族の特徴及び必要に基づき、少数民族地区の経済及び文化の発展を促進するように援助する。

3 少数民族の集居している地域では、区域自治を実施し、自治機関を設置し、自治権を行使する。いずれの民族自治地域も、すべて中華人民共和国の切り離すことのできない一部である。

4 いずれの民族も、自己の言語・文字を使用し、発展させる自由を有し、自己の風俗習慣を保持し、又は改革する自由を有する。

 本条は中国内政上の最もセンシティブな問題である少数民族政策の基本原則を定めている。それは平等と自治を基本としながらも、第一項第二文で釘を刺すように、破壊・分裂主義を禁じており、民族独立運動の抑圧根拠ともなる規定である。実際のところ、人口の90パーセント以上を占める漢民族の優位性は否定できず、本条の実効性には疑問もある。

第五条

1 中華人民共和国は、法による治国を実行し、社会主義の法治国家を建設する。

2 国家は、社会主義の法秩序の統一と尊厳を守る。

3 すべての法律、行政法規及び地方法規は、この憲法に抵触してはならない。

4 すべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、この憲法及び法律を遵守しなければならない。この憲法及び法律に違反する一切の行為に対しては、その責任を追及しなければならない。

5 いかなる組織又は個人も、この憲法及び法律に優越した特権を持つことはできない。

 社会主義的法治国家の原則を定める本条も、旧ソ連憲法第五条の影響が強いが、法治国家主義は建国以来、中国の未完の課題であり続けている。第五項で、共産党を含むすべての組織・個人の超法規的特権が否認されているが、旧ソ連と同様、共産党支配体制では、憲法及び法律の改廃・運用にも強い指導力を持つ共産党は特権的存在とならざるを得ない。

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中国憲法評解(連載第1回)

2015-01-24 | 〆中国憲法評解

 冷戦時代の米ソ二極化がソ連の解体・消滅により終了して四半世紀を越え、世界の多極化が指摘される中、中国の経済成長に伴い、中国のパワーが増してきている。現代中国に対する評価は毀誉褒貶入り乱れるが、意外にその憲法には関心が持たれていない。憲法は国の仕組みの公式解説書としての意義を持つ法典であるから、現代中国を理解するうえでも不可欠のものである。
 現行の中華人民共和国憲法(以下、単に中国憲法という。)は、「文化大革命」の大混乱を経て、いわゆる「改革開放」後の1982年に全面改正されたものであり、その後も「改革」の進展に合わせて数次にわたり部分改正が重ねられて今日に至っている。*本連載終了後、2018年にも改正がなされたが、当連載には反映されていない。
 元来、中国憲法は旧ソ連憲法を参照して制定された1954年憲法が土台となった共産党支配を前提とする社会主義憲法であるため、今なお旧ソ連憲法との類似性を残してはいるものの、解体・消滅した旧ソ連とは異なり、体制の枠内で「改革開放」を経て「社会主義市場経済」への路線転換に成功したことを反映して、旧ソ連憲法とも異なる特色を備えた独自の憲法となっている。
 本連載では、中国事情を紹介するウェブサイト『恋する中国』に掲載されている試訳に準拠しつつ、中国憲法を逐条的に評解していくことにする(意味内容が変化しない限度で一部訳語を変更するほか、文字化けする一部漢字はカタカタまたは日本式漢字で表記する。)。


前文

 中国憲法前文は、旧ソ連憲法前文と同様、長文の論文スタイルで記述されているため、全文を紹介することは避け、要約評解にとどめる。
 前文は大きく五つのまとまりに分けることができるが、「中国は、世界でも最も古い歴史を持つ国家の一つである。中国の諸民族人民は、輝かしい文化を共同で作り上げており、また、栄えある革命の伝統を持っている。」の文言で始まる第一の部分は、特にアヘン戦争が勃発した1840年以降、1911年の辛亥革命を経て、現代中国建設の出発点となった1949年の中国革命までの歴史が概観される。このような書き出しは、旧ソ連憲法前文に倣ったものと考えられる。
 前文は1949年革命の歴史的意義について、「・・・毛澤東主席を領袖とする中国共産党に導かれた中国の諸民族人民は、長期にわたる困難で曲折に富む武装闘争その他の形態の闘争を経て、ついに帝国主義、封建主義及び官僚資本主義の支配を覆し、新民主主義革命の偉大な勝利を勝ち取り、中華人民共和国を樹立した。この時から、中国人民は、国家の権力を掌握して、国家の主人公になった。」と総括している。
 続く第二の部分では、はじめに「中国の新民主主義革命の勝利と社会主義事業の成果は、中国共産党が中国の各民族人民を指導し、マルクス‐レーニン主義及び毛澤東思想の導きの下に、真理を堅持し、誤りを是正し、多くの困難と危険に打ち勝って獲得したものである。」として、マルクス‐レーニン主義と毛沢東思想を基軸的な二大原理として掲げる。そのうえで、「我が国は、長期にわたり社会主義初級段階にある。」との現状規定により、「中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス‐レーニン主義、毛澤東思想、トウ小平理論及び「三つの代表」の重要思想に導かれて」、「社会主義現代化の建設をする事」という未来目標が示される。
 これにより、中国式社会主義におけるマルクス‐レーニン主義、毛沢東思想、トウ小平理論、さらに「中国共産党は、①中国の先進的な社会生産力の発展の要求②中国の先進的文化の前進の方向③中国の最も広範な人民の根本的利益という三要素を代表すべき」とする江沢民の「三つの代表」理論を加えた四つの指導原理が示されている。
 ここで注目されるのは、旧ソ連憲法のように現状を「共産主義建設に至る途上としての発達した社会主義社会」とは規定しておらず、現状をなお「社会主義初級段階」と規定しつつ、未来目標を「社会主義現代化」という中期目標にとどめていることである。つまり共産主義社会の建設は現実的な未来目標には置かれていない。ここに「改革開放」以降の中国の現実主義路線が見て取れる。
 こうした第二の部分を受けて、第三の部分は冒頭で「我が国では、搾取階級は、階級としては既に消滅したが、なお一定の範囲で階級闘争が長期にわたり存在する。中国人民は、我が国の社会主義制度を敵視し、破壊する国内外の敵対勢力及び敵対分子と闘争しなければならない。」とし、毛沢東思想に沿った一種の永続革命論的な闘争目標が示される。それと関連づけて、「中華人民共和国の神聖な領土の一部」と明記される台湾の統合が掲げられるとともに、中国共産党を中核とした統一戦線組織としての中国人民政治協商会議の重要性が示される。
 第四の部分は話題を転じて、「中華人民共和国は、全国の諸民族人民が共同で作り上げ、統一した多民族国家である。」の規定に始まり、対内的な民族協調及び対外的な国際協調が謳われる。
 民族協調に関しては、「大民族主義、主として大漢族主義に反対し、また、地方民族主義にも反対しなければならない。」とし、漢民族至上主義を諌めると同時に、少数民族の分離独立運動を牽制する文言も示される。
 一方、国際協調に関しては、主権と領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵及び平和共存の五原則(1954年に当時の中印首相会談で合意された平和五原則)に立脚しつつ、「帝国主義、覇権主義及び植民地主義に反対することを堅持し、世界諸国人民との団結を強化し、抑圧された民族及び発展途上国が民族の独立を勝ち取り、守り、民族経済を発展させる正義の闘争を支持して、世界平和を確保し、人類の進歩を促進するために努力する。」という対外政策の基本が示される。ここには、中国も当事国であった非同盟諸国運動の理念が反映されている。
 最後の第五の部分で憲法の最高法規性が宣言されるが、ここでは人民の憲法制定権力は強調されず、「全国の諸民族人民並びにすべての国家機関、武装力、政党、社会団体、企業及び事業組織は、いずれもこの憲法を活動の根本準則とし、かつ、この憲法の尊厳を守り、この憲法の実施を保障する責務を負わなければならない。」という憲法忠誠義務の宣言でしめくくられていることが特徴である。

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