第2部 持続可能的経済計画の過程
第5章 計画経済の世界化
(1)非官僚制的計画
持続可能的計画経済は、その観点のみならず、過程の点でもソ連式計画経済とは異質のものである。すなわち、それはソ連式のような行政主導の官僚的計画ではなく、生産企業体自身による自主的な共同計画の過程を辿る。
その点で、「自主管理社会主義」と呼ばれた旧ユーゴスラビアの制度に類似するが、旧ユーゴの場合、各生産企業体を労働者自身が管理運営するという「自主管理」に重点があり、全体計画に関しては二次的な関心しか置かれていなかったため、それは事実上個別生産企業体の独立採算と一定の競争関係をもたらし、市場経済への近接を示していたのであった。
これに対し、持続可能的計画経済において想定される自主的な共同計画は、全体計画を生産企業体が共同して策定・運用していくという「共同管理」に重点が置かれるのである。
こうした生産企業体による共同計画の策定機関としては、各生産企業体の計画担当者で構成する「経済計画会議」(以下、計画会議と略す)のような代表機関が想定される。
その計画は、内容的には環境的持続可能性に立脚するものであるから、計画会議は経済計画に必要な環境経済学的分析の高度な機能をも擁し、計画策定を主導していくことになるだろう。従って、この機関には行政機関におけるような官僚は存在しない代わりに、専従職員として環境経済調査士が所属する。
環境経済調査士とは、環境学的な観点から経済分析・予測をする専門職であり、経済学と環境学が融合されて初めて成り立つ新しい専門職である。言わば、エコロジスト+エコノミスト=エコロノミストである。
資本主義経済下でも「環境経済学」という新分野が誕生しているが、市場経済を絶対前提とする資本主義経済学の中では周縁的な領域にとどまっている。しかし、持続可能的計画経済にあっては環境経済学が機軸的知見となり、それに照応した実務職も誕生する。
となると、環境経済調査士が計画会議を動かす準官僚的な存在と化すのではないかとの懸念もあり得るが、かれらの役割はあくまでも経済計画に資する調査分析に限局され、実際の計画策定は計画会議の審議の場で公開討議に付され、議決されるから、この機関は旧ソ連の国家計画委員会のような行政機関よりも議会に近いものと言える。
こうした自主的共同計画は旧ソ連式国家計画に比して、格段に生産現場の判断に立脚した柔軟かつ分析的な知見をも反映した現実的な計画となると見込まれる。
さらに、持続可能的計画経済は地球環境の持続可能性に立脚する以上、究極的には全世界的な規模で実施されなければ完結しない。こうした言わばグローバルな経済計画についても、各生産分野ごとの世界的な連合組織が自主的に策定・運営するシステムが想定されなければならない。